頑固爺さんの挑戦状!
1.天空への夢、二つの鍵! ジン爺さんの試練
アントたちの真っ直ぐな瞳と、彼らが持つ未知の力に、船作りの老人ジンは、長年凍てついていた心の奥に微かな希望の灯がともるのを感じていた。しかし、同時に長年の孤独と経験からくる疑念もまた、そう簡単には消え去らない。
「…フン、口だけは達者な小僧どもじゃな。そこまで言うのなら、お前たちのその実力、このワシがとっくりと試させてもらうとしようか!」
ジン爺さんはニヤリと笑い、工房の壁に貼られた一枚の古びた地図を指さした。それは、この南の山脈のさらに奥深く、人跡未踏の秘境を示すものだった。
「このスカイホエール号を完成させるには、二つの絶対に必要な天空素材がある」ジン爺さんは厳しい声で語り始めた。「一つは、翼を覆い、大空の嵐にも耐えうる強靭さと軽やかさを持つ、『風詠鳥』の羽毛。あれは、この山脈の最高峰、雲をも見下ろす『天衝の霊峰』にしか棲まん、気高く誇り高き伝説の鳥じゃ。そしてもう一つは、動力炉の心臓部となる、純粋な浮遊エネルギーを秘めた『スカイクリスタル』。あれは、古代の天空人が遺したという『浮遊遺跡群』の、そのさらに深奥に眠ると言われておるが…どちらの場所も、生きて帰った者はほとんどおらん」
その言葉には、彼自身が過去に何度も挑戦し、その度に打ちのめされてきたであろう苦渋が滲んでいた。
「お前たちが本当にワシの夢を手伝うというなら、まずはこれらの素材を、それぞれ三つずつ持ち帰ってこい。それができれば、お前たちの力を信じ、このスカイホエール号の未来を託してもよい。だが、途中で逃げ出すようなら…その時は、ワシのジェットハンマーが黙っておらんぞ!」
「鳥さんの羽! キラキラの石! どっちもハチミツみたいにキレイかな?」アントは目を輝かせ、早くも冒険への期待に胸を膨らませる。
ホークは「天衝の霊峰だと? 俺様の飛翔能力と正確無比な弓の腕を試すに相応しい場所じゃないか!」と不敵な笑みを浮かべた。
ラーネは「古代の天空人の遺跡…そこにはきっと、未知の技術や失われた知識が眠っているに違いありませんわ。風詠鳥の羽毛の構造も、非常に興味深いです」と研究者の顔を覗かせる。
ビバムは「どちらもスカイホエール号の完成には不可欠な素材…しかし、危険度も計り知れない。慎重に計画を立て、万全の準備で臨まねば」と気を引き締めた。
ディグビーは「遺跡ってことは、もしかしたらお宝もザックザクだったりしてな!兄貴もいれば、もっと楽勝だったんだけどなー!」と少し残念そうだが、その瞳は冒険への興奮で輝いている。
オルカは「危険な場所ほど、仲間との連携が試される。俺の力が少しでも役に立つなら、どこへでも行こう」と静かに意気込んだ。
相談の結果、まずは比較的情報が多く(ジン爺さんが過去の挑戦で得た断片的な知識がある)、そしてホークの能力が活かせそうな「風詠鳥の羽毛」集めから挑戦することに決定した。
2.天衝の霊峰へ! 新たなる装備とジン爺さんの激励(?)
ジン爺さんから、風詠鳥の巣があるおおよその場所を示した地図(手書きで非常に大雑把だが、重要な地形や危険な魔獣の生息域などは克明に記されていた)と、鳥を極力刺激せずに羽毛を採取するための特殊な道具をいくつか渡された。それは、風詠鳥が好むという珍しい高山植物の香りを凝縮した香木や、羽毛を傷つけずにそっと回収できるという、先端に柔らかい粘着球がついた長い竿など、ジン爺さん自身が試行錯誤の末に編み出したものだった。さらに、「これはワシが若い頃、雪山の魔女から譲り受けた秘伝の薬じゃ」と言って、高山病の症状を和らげるという乾燥した薬草の束も手渡してくれた。
ビバムとラーネが中心となり、天衝の霊峰の厳しい環境に合わせた装備の準備が始まった。万全の防寒対策はもちろんのこと、強風で体温を奪われないための特殊な外套(ラーネが風を通しにくい糸で縫い上げた)、滑落防止のための丈夫なロープとハーケン、そして万が一の遭難に備えた非常食(アント用の甘い干し果物も大量に用意された)。
ディグビーは、岩場や氷壁を効率よく登るための、先端に硬い鉱石を埋め込んだ特殊なピッケルやアイゼンを即席で作り上げた。オルカは、全員分の飲料水を確保するため、工房にあった空き樽を改造し、保温機能付きの巨大な水筒を背負うことになった。ホークは、強風の中でも正確に飛ぶように、自身の矢羽根に新たな改良を加えていた。
出発の前夜、ジン爺さんは、工房の隅で黙々と工具の手入れをしていたが、やがてアントたちの前に立ち、ぶっきらぼうに言った。
「…フン、せいぜい怪我なんぞして、途中で泣きながら帰ってくるんじゃないぞ。お前らが手ぶらで帰ってきても、ワシは慰めてやらんからな。だが…もし本当に風詠鳥の羽毛を持ち帰ってきたなら…その時は、ワシ秘蔵の『天空ブランデー』で祝杯をあげてやってもよい」
それは、彼なりの最大限の激励の言葉だったのかもしれない。
3.雲上の狩人、風詠鳥の影を追って遥かなる霊峰へ
アントたち冒険組は、ジン爺さんの工房を後にし、眼前にそびえ立つ、さらに険しく、そして美しい南の山脈の奥深く、天衝の霊峰を目指して歩みを進めた。
霊峰は、その名の通り、まるで天を衝くかのように空高くそびえ立ち、中腹から上は常に厚い万年雪と氷河に覆われ、頂上付近は一年を通して猛烈な風が吹き荒れるという、まさに人跡未踏の秘境だった。空気は極限まで薄く、気温も身を切るように低い。時折、遠くで轟く雪崩の音や、巨大な氷塊が崩れ落ちる音が、この山の厳しさを物語っていた。
ホークが先行し、その並外れた視力と風を読む天性の勘で、比較的安全なルートを探し出す。ディグビーとオルカが、その強靭な肉体と土木技術で、雪に埋もれた道や氷の壁といった難所を切り開いていく。ラーネは、ジン爺さんからもらった薬草を調合し、仲間たちの体調を細やかに管理し、高山病の兆候を見逃さない。ビバムは、地図とコンパス、そして時折ホークがもたらす情報を元に、的確な判断でパーティー全体を導いていく。
そしてアントは、「さむーい!お鼻が凍っちゃいそうだよー!でも、きっと頂上には、雲でできたふわっふわのハチミツがあるに違いないぞー!」と、寒さを吹き飛ばすほどの持ち前の元気さと食欲で、厳しい登山の中にも笑いを絶やさなかった。
数日間に及ぶ、想像を絶する過酷な登山の末、ついに一行は厚い雲の層を抜け、霊峰の頂上付近、青く澄み渡った天空の世界へと到達した。そこは、下界の喧騒とは無縁の、強風が吹き荒れる岩と氷と雪だけの、静寂と荘厳さに満ちた別天地だった。
その時、雲の上を偵察していたホークが、鋭い声を上げた。
「いたぞ!あれが…あれが風詠鳥だ!」
ホークが指さす先、切り立った純白の氷壁の上空を、七色の光を虹のように引きながら、巨大な鳥が神々しく優雅に舞っていた。その翼は陽光を浴びてキラキラと輝き、その姿はまさに伝説と呼ぶにふさわしい美しさと威厳を放っている。
しかし、風詠鳥はアントたち侵入者の存在に気づくと、甲高い威嚇の鳴き声を上げ、その巨大な翼を一度羽ばたかせた。すると、周囲に猛烈な突風が巻き起こり、鋭い氷の礫が嵐のようにアントたちに襲いかかってきた。
どうやら、そう簡単にはその美しい羽毛を分けてくれそうにはない。
「いよいよだな…!あのピカピカの鳥さんから、ふわっふわの虹色の羽をもらうぞ!」
アントが、寒さで赤くなった頬を興奮でさらに紅潮させながら拳を握りしめる。
天空の霊峰を舞台にした、伝説の風詠鳥とのファーストコンタクトが、今まさに始まろうとしていた。




