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お祭りはハプニング!?


1.収穫祭は甘くて騒がしい!

昨夜のゴブリン騒動が嘘のように、村は朝から陽気な音楽と人々の笑顔で溢れていた。年に一度の収穫祭。アント、ラーネ、ホーク、オルカの四人は、村長に促されるまま、祭りの輪の中にいた。人間の言葉はまだほとんど理解できないが、「ごちそう」「たのしい」といった単語と、村人たちの身振り手振りから、何やら歓迎されているらしいことは察していた。

アントにとって、そこはまさに天国だった。

「きゅるる~! あま! あまーい!」

山と積まれた果物、蜂蜜がたっぷりかかったパンケーキ、砂糖で煮詰めた木の実。アントは目を輝かせ、お許しが出ると同時に文字通り飛びついた。【女王の威光】の代償で空っぽだった胃袋は、みるみるうちに満たされていく。口の周りをベタベタにしながら頬張る姿は、大きな子供そのものだ。村人たちも、そのあまりの食いっぷりに最初は目を丸くしたが、やがて「はっはっは、元気な小僧だ!」と笑い飛ばした。

ラーネは、色とりどりの布や手作りの装飾品に興味津々だった。

「しゃ…きれー…」

村の女性たちが編んだ美しいレース編みや、子供たちが作った草花の冠。彼女は指先でそっと触れ、その繊細な作りに感嘆の声を漏らす。自分も何か美しいものを作りたくなったのか、落ちていた丈夫な蔓を見つけると、無意識に指先で撚り合わせ、あっという間に小さな飾りを作り上げて村の子供にプレゼントした。子供は「わーい、クモさんのかざりー!」と大喜びだが、ラーネ自身は自分の行動に少し首を傾げた。

ホークは、祭りの喧騒から少し離れた場所、広場を見下ろせる一番高い木の上に陣取っていた。

「キィ…フン、人間どもの祭りも、上から見れば悪くない」

【絶対空域】で祭りの全体像を把握し、どこで何が行われているか、誰が一番美味しそうなものを食べているかまで見通している。時折、飛んでくる小鳥と縄張り争いをしそうになったり、子供たちが投げる輪っかを空中でキャッチして得意満面になったりしていた。

オルカは、人混みと乾燥を避けるように、村の隅にある家畜用の大きな水桶のそばにいた。

「ボフッ…ぷはーっ! やっと水だ…」

村長に特別に許可をもらい、時折その水桶に頭まで浸かっては至福の表情を浮かべる。その巨体が水しぶきを上げるたびに、近くの子供たちがキャッキャと騒いだが、オルカは意に介さない。むしろ、仲間(と認識した村人)が楽しんでいるなら何より、といった様子で、時折鼻先でボールを押し返して子供たちと遊んでやっていた。

そんな四人の珍妙な行動は、村人たちにとって格好の娯K

娯楽となり、祭りは一層賑わった。言葉は通じなくとも、アントたちの持つどこか憎めない雰囲気と、ゴブリンを追い払ってくれたという事実が、彼らを「変わったお客さん」として受け入れさせていた。

2.一夜限りの英雄、そして旅立ちの予感

祭りの熱狂が落ち着いた夜、村長はアントたちを自分の家に招き、身振り手振りを交えながら話しかけた。

「お主たち…本当に、ありがとう。ゴブリン、もう来ない、助かった」

そして、少し困ったような、それでいて期待するような目で彼らを見た。

「よかったら…この村に、住む? 村、守る…強い、お主たち」

アントは「すむ? まもる?」と首を傾げたが、「たべもの、いっぱい?」と目を輝かせた。ラーネは清潔な寝床があるなら、ホークは高い見張り台があるなら、オルカはいつでも水浴びできるなら、と考えていた。

しかし、翌朝になると、村の空気は少し変わっていた。昨夜の感謝の念は残っているものの、村人たちの間には「あの者たちは、確かに強いが…少し変わっている」「子供たちがむやみに近づいて、何かあってからでは…」「食い扶持も大変そうだ」といった囁きが交わされているのを、ホークの鋭い聴覚が捉えていた。

アントたちも、村人たちの視線が昨日とは少し違うことに気づき始めていた。居心地の良さと、どこか感じる疎外感。

村長は申し訳なさそうな顔で、アントたちに干し肉やパンの入った袋を手渡した。

「これ…旅の足しに。また…いつでも、来い」

それは、優しい別れの言葉だった。

「きゅ…行くか」アントが呟いた。他の三人も、黙って頷く。

彼らはまだ、「定住」という概念をよく理解していなかったが、この村が永住の地ではないことは本能で感じ取っていた。

3.僕らのスイートホーム(仮)は、森の奥に

村を後にして、あてもなく森の中を歩き始めた四人。数日後、彼らは偶然にも、森の少し開けた場所に打ち捨てられた古い石造りの小屋と、その周りに広がる荒れた土地を見つけた。蔦が絡まり、屋根には穴が開いているが、雨風はしのげそうだ。

「キィ! ここなら、見晴らしも悪くない!」ホークが一番に小屋の屋根に駆け上がり、宣言した。

「ボフ…水場は、少し遠いが…なんとかなるか」オルカが周囲を検分する。

ラーネは小屋の内部を覗き込み、「しゃー…掃除、大変そう」と呟きつつも、蜘蛛の巣が張れそうな隅っこを見つけて少し嬉しそうだ。

アントは、周囲に食べられそうな木の実やキノコがちらほら生えているのを見つけ、「きゅ! ここ、いい! 僕らの巣!」と勝手に決定した。

こうして、四人の新しい「拠点」での生活が始まった。

最初の仕事は、寝床の確保と食料調達、そして何より安全確保だ。

アントは【女王の威光】を発動させ、周囲の小動物たちに「手伝えー!」と命令(?)しようとしたが、小動物たちは一瞬ビクッとしたものの、すぐに四方八方へ逃げてしまい、アントは一人で大きな石を運び、汗だくになった。効果が切れると、「あまいの…ちからでなーい…」と地面にへたり込んだ。

ラーネは【運命の編み手】で丈夫な糸を大量に生み出し、小屋の穴を塞いだり、ハンモックのような寝床を作ったりしたが、調子に乗って糸を出しすぎ、気づけば小屋の周りが巨大な蜘蛛の巣のようになってしまい、ホークが「俺の狩場が台無しだ!」と怒鳴った。

ホークは【絶対空域】で周囲の危険を警戒していたが、美味しそうな木の実を運ぶリスを見つけると、つい狩猟本能が騒ぎ出し、リスを追いかけ回して森の奥まで行ってしまい、ラーネに「見張り役が獲物を追ってどうするの!」と糸で軽く縛られた。

オルカは【深海の盟約】で近くの小川から水を引こうとしたが、力の加減が分からず、小屋の周囲が一時的に沼地のようになってしまい、アントが「僕の甘い木の実がー!」と泣き叫んだ。

毎日がそんな調子だった。ユニークスキルは強力だが、生活に活かすにはあまりにも大雑把で、制御が効かない。それでも、彼らのドタバタな日々は、少しずつだが確実に、荒れ果てた土地を変えていった。アントが運び込んだ石はいつしか壁の一部となり、ラーネの糸は補強材として役立ち、ホークが追い払った(あるいは食べてしまった)害獣のおかげで作物は守られ、オルカが作った水路は畑を潤した。

彼らはまだ、自分たちが「建国」への第一歩を踏み出していることなど、知る由もなかった。

その頃、森のさらに奥深く。一人の小柄な男が、木の影からアントたちの奇妙な共同生活を興味深げに観察していた。その手には、精巧な木製の道具が握られている。

「ふむ…なんとも不思議な連中だ。あの水路…偶然にしては、面白い形をしている…」

男――元ビーバーの転生者、ビバムは、顎を撫でながら呟いた。彼がアントたちの前に姿を現すのは、もう少し先のことである。

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