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禁足地「影の沼」へ! 旅立ちの準備と忍び寄る瘴気


1.旅立ちの支度と、森の仲間たちの温かいエール

大樹様から「影の沼」の穢れを断つという重大な使命を託されたアントたちは、新たな仲間である銀狐の指導のもと、早速出発の準備に取り掛かった。

「影の沼は、この目覚めの森の中でも最も古く、そして最も穢れが凝縮された場所」銀狐は一行を前に、厳しい表情で語り始めた。「そこは常に濃い瘴気に覆われ、足元は毒沼、方向感覚を狂わせる幻惑の霧も発生します。並大抵の覚悟では踏み入ることすら叶いません」

その言葉に、一行の顔にも緊張が走る。しかし、アントは「大丈夫!僕たちなら、きっとやれるよ!ね!」といつものように前向きだ(もちろん、頭の中では「穢れをやっつけたら、おっきな樹さんから特別甘い木の蜜をもらえるかな?」という期待も渦巻いている)。

銀狐は、森の獣たちに協力を仰ぎ、沼地での活動に必要な装備を集め始めた。瘴気をいくらか防ぐ効果があるという特殊な苔を編み込んだマスク、毒蛇や毒虫から足を守るための丈夫な獣皮の脛当て、そして何よりも重要なのは、強力な解毒作用を持つ「月光草」という薬草だ。これは森の奥深くにしか自生せず、採取も困難な貴重なものだったが、事情を知った森の獣たちは、危険を顧みず協力して集めてくれた。

ラーネは銀狐から月光草の調合方法を熱心に学び、即席の解毒薬をいくつも作り上げる。ビバムは、水に強く、沼地でも安定するよう改良した丈夫なロープや、携帯用の浄水フィルターなどを準備。モーガンとディグビーは、沼地でも足場を確保しやすいように、特殊な粘土を混ぜた「固まる土」の塊をいくつも用意した。ホークは、遠くまで見通せる高い木に何度も登り、影の沼の方角の天候や、上空からの地形を詳細に観察し、ビバムの地図に情報を書き込んでいく。オルカは、万が一の水不足と、汚染された水との戦いに備え、ビバムが以前作ってくれた魔法の革袋に、大樹様の祝福を受けた泉の清浄な水を満タンに蓄えた。

そしてアントは、大樹様から餞別として特別に分けてもらった「生命力に満ちた黄金の木の蜜」を、小さな小瓶に大切そうにしまい込んだ。「これでラーネも、みんなも、どんな時でも元気いっぱいだ!」と、その蜜の力に絶大な信頼を寄せている。

出発の日、目覚めの森の獣たちが、アントたちのために集まってくれた。彼らは言葉を話せないまでも、その瞳には心配と、そして強い信頼の色が浮かんでいる。子供のウサギやリスたちは、自分たちで見つけたキラキラ光る小石や、一番甘い木の実を、アントやラーネに餞別として差し出した。

「アント兄ちゃん、ラーネ姉ちゃん、気をつけてね!」「みんな、絶対に帰ってきて!」

言葉は通じなくとも、その想いは確かにアントたちの心に届いていた。

銀狐以外の獣たちは、危険な影の沼へ同行することはできない。しかし、彼らの温かいエールは、アントたちにとって何よりも心強いお守りとなった。ビバムは、この森の動物たちが示す無償の優しさやコミュニティの絆に触れ、「我々が目指す拠点も、いつかこんな風に、種族を超えて支え合える場所にしたいものだ」と、胸の内で静かに決意を固めていた。

2.禁足地への道、忍び寄る穢れの不協和音

銀狐を先頭に、一行はついに「影の沼」へと続く、これまで誰も通ったことのない険しい道へと足を踏み入れた。美しい陽光が降り注ぎ、生命力に満ち溢れていた「目覚めの森」の様相は、進むにつれて徐々に影を潜めていく。木々は幹をねじ曲げ、葉の色はくすみ、地面は常に湿り気を帯び、空気は重く淀み始めた。

「ここからは、穢れの影響が特に強い区域です」銀狐は声を潜めた。「気を引き締めて。何が潜んでいるか分かりません」

道中、穢れの影響で正気を失い、凶暴化した小動物や、毒々しい紫色の斑点を持つ奇妙なキノコなどに何度も遭遇した。そのたびに、銀狐が森の知識と俊敏な動きで的確な指示を出し、アントたちが連携して対処していく。

アントの【真・女王の勅命】から放たれる黄金のオーラは、穢れに汚染された植物をわずかに浄化し、周囲の淀んだ空気を清める効果があるようだった。そのおかげで、一行は瘴気による体調不良を最小限に抑えながら進むことができた。

モーガンとディグビーは、ぬかるんで歩きにくい地面に「固まる土」を撒いて即席の道を作ったり、崩れやすい崖を土の力で補強したりと、そのユニークな土木技術を遺憾なく発揮する。彼らにとって、どのような土壌であっても、それはただの障害ではなく、利用可能な資源なのだ。

ホークは、常に上空や周囲の気配を【絶対空域】で探り、危険をいち早く察知して仲間に警告する。彼の鋭い目は、瘴気に紛れて姿を隠す魔物も見逃さない。オルカは、その強靭な肉体で先行し、行く手を阻むねじれた木の根や倒木を力強く排除していく。彼の感覚は、汚染された水と清浄な水の境界を敏感に感じ取ることができた。

しかし、進めば進むほど、穢れの気配は濃密になり、一行の疲労も蓄積していく。

「なんか…空気が重くて、息がしにくいぜ…」ディグビーが額の汗を拭う。

「ボフッ…この先の水は…かなり濁っている。生命の気配が、ほとんど感じられない…」オルカも、いつになく険しい表情で沼の方向を見つめていた。

3.影の沼到着、そして静寂を破る沼の番人

数日間の困難な行軍の末、ついに一行は「影の沼」の入り口に到着した。そこに広がっていたのは、彼らの想像を絶する光景だった。太陽の光さえ届かないかのような薄暗い湿地帯には、ねじくれた枯れ木が無数に突き出し、水面はヘドロのようなもので覆われ、毒々しい紫色の霧がそこかしこに立ち込めている。鼻を突くような腐敗臭と、全ての生命が拒絶されたかのような不気味な静寂が、一行の心に重くのしかかる。

「ここが…影の沼…」ビバムが息を呑む。

銀狐は毛を逆立て、鋭い眼光で周囲を警戒しながら声を潜めた。「大樹様の力が最も届きにくい、森の最果て。穢れが凝縮し、淀んだ場所…それがこの影の沼です。一歩足を踏み入れれば、何が起こるか分かりません。皆さん、くれぐれも油断なきよう」

アントは、いつものようにハチミツの匂いを探したが、ここには甘い香りの欠片もなく、ただただ不快な匂いがするだけだった。

「うぇ…ここ、ハチミツ全然ない…なんか、すごくまずそう…」と、心底嫌そうな顔で鼻をつまむ。

一行が、ぬかるんだ沼地に最初の一歩を踏み入れようとした、その瞬間だった。

ゴボゴボゴボッ…!

静寂を破り、沼のヘドロ状の水面が激しく泡立ち、中から巨大な影がぬるりと姿を現した。それは、何本もの太く黒い触手を持ち、巨大なナメクジのようでもあり、あるいは沼そのものが意志を持って動き出したかのような、名状しがたい異形の魔物だった。その体からは絶えず濃密な瘴気が流れ出し、触れた周囲の枯れ木を瞬時に腐らせていく。

「出たな…! あれこそが、この影の沼の番人…『ヌシ・オドロ』と呼ばれる存在だ!」銀狐が鋭く叫び、戦闘態勢に入る。その声には、強い警戒と共に、かつてないほどの緊張が宿っていた。

アントたちも即座に武器を構え、目の前の巨大な敵を見据える。影の沼の最初の、そしておそらくは最大の試練が、彼らの前に立ちはだかったのだ。この強力な番人を打ち破らなければ、穢れの源へとたどり着くことはできないだろう。

静まり返った沼地に、アントたちの荒い息遣いと、ヌシ・オドロの不気味なうなり声だけが響き渡っていた。


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