進路相談はハチミツ次第!? いざ、言葉を話す樹の森へ!
1.次なる冒険はどっち? 喧々諤々の進路相談
ハチミツ村での一件も落ち着き、ラーネの怪我もすっかり癒えたある日、アントたちの拠点では、次の冒険について熱い(そしてどこかズレた)議論が交わされていた。議題は、ハチミツ村の村長がもたらした二つの噂――「東の大きな森の言葉を話す巨大な樹」と「南の山脈の空飛ぶ船作りの老人」――のどちらを先に見に行くか、である。
「うーん、どっちもハチミツがありそうだなぁ…樹の蜜とか、空飛ぶ船でしか行けない秘密のハチミツ島とか!」
アントは両腕を組み、真剣な顔で悩んでいる(悩みの中心はハチミツだが)。
「愚問だな!当然、空飛ぶ船に決まっているだろう!」ホークが鋭い声で割って入る。「大空は俺様の庭だ!その船を操縦し、世界中の誰よりも高く、誰よりも遠くへ飛んでみせる!そうすれば、伝説の天空ハチミツも見つかるかもしれんぞ!」
「私は、言葉を話す樹とその周囲の獣たちのコミュニティに非常に興味がありますわ」ラーネが冷静に意見を述べる。「もし彼らと友好関係を築ければ、未知の薬草や、私の糸の材料になるような特殊な植物繊維が見つかるかもしれません。それに、彼らの生態は研究対象として非常に魅力的です」
ビバムは腕を組み、現実的な視点から口を開いた。「空飛ぶ船の技術は確かに魅力的だが、我々の今の目的は、この拠点をより安全で豊かな場所にすることだ。言葉を話す樹が本当に存在し、その周囲の獣たちが我々に協力的であれば、彼らの知恵や力を借りられるかもしれない。まずは生活基盤の安定を優先すべきではないだろうか?」
新メンバーのモーガンは、いつものように日陰で腕を組んだまま、「どちらも騒がしそうだな…俺は地下で静かに新しい鉱脈でも探していたいもんだ」と乗り気ではない様子。しかし、弟のディグビーは目を輝かせている。
「空飛ぶ船だって!?すげえ!もしかして、地面の中も飛べるのか!?超高速地下鉄みたいな!?それなら俺も乗りてえ!」
「ボフッ…(水の上を安全に、速く移動できるなら、船も良いかもしれないな)」オルカも、空の旅よりは水上の旅に関心があるようだ。
喧々諤々の議論は平行線を辿るかと思われたが、最終的にはアントの鶴の一声(というよりは、その場の勢い)で決まった。
「よし!じゃあ、まずは東の森の大きな樹さんに会いに行こう! 樹さんとお友達になって、美味しい木の蜜をもらって、それからみんなで空飛ぶ船にも乗りに行けばいいんだ! そうすれば、みんなハッピーだ!」
そのあまりにも楽観的で単純な結論に、ビバムは額に手を当てたが、他のメンバーは「まあ、アントらしいか」「それも面白そうだ」と、不思議と納得してしまったのだった。
2.旅の準備と、ちょっぴり成長した拠点(と仲間たち?)
目的地が決まれば、準備は早い。ラーネもすっかり回復し、今回の冒険には最初から万全の体調で参加できる。
アントは、道中の食料として、拠点に貯蔵してあったハチミツの大部分を自分のリュックに詰め込もうとし、ビバムとラーネに「みんなの分も考えなさい!」と叱られていた。ラーネは新しい植物採集用の道具や、珍しい昆虫を観察するための拡大鏡を丁寧に準備。ホークは自慢の弓と矢を念入りに手入れし、オルカはモーガンとディグビーに頼んで、特大の水筒(土と粘土を焼いて作った頑丈なもの)を作ってもらってご満悦だ。モーガン兄弟も、携帯用の選りすぐりの土(?)と、新しい採掘用具を準備し、まんざらでもない様子。
今回は全員で旅に出ることになったが、ビバムは少しだけ拠点のことが気がかりだった。しかし、アントが【真・女王の勅命】の力で、最近拠点に住み着くようになった数匹の賢いビーバーや、働き者の大きな黒アリたちに声をかけた。
「ビーバーくんたち、アリさんたち!僕たちが帰ってくるまで、このお家と畑のお世話、よろしく頼むね!美味しい木の実は、帰ってきたらお礼にいっぱいあげるから!」
すると、ビーバーたちは器用に前足で胸を叩き、アリたちは触角を振って応えた。彼らは完全に言葉を理解しているわけではないだろうが、アントの優しいオーラと「お願い」の気持ちは伝わっているようだった。拠点には、ささやかながらも、アントを中心とした自律的なコミュニティ運営の萌芽が見え始めていた。
3.いざ東の森へ! 道中の珍道中と、森の気配
数日後、準備を整えた一行は、朝日を浴びながら東の大きな森を目指して出発した。
道中は、相変わらずの珍道中だった。アントが道端で見つけた色鮮やかなキノコを「これ、ハチミツ味かな!?」と食べようとしてはラーネに「毒キノコかもしれませんわ!」と止められ、ホークが「近道だ!」と言って誰も通れないような崖の上を指さしてはビバムに「現実的なルートを頼む…」とため息をつかれ、ラーネが道端の小さな光る苔の観察に夢中になって一行とはぐれそうになり、モーガンが強い日差しを避けるためにディグビーの掘った浅い穴にカメのように避難し、オルカが通りすがりの川を見つけては仲間たちの制止も聞かずに豪快な水浴びを始め、その水しぶきで焚き火が消えかけるなど、日常茶飯事のハプニングが続く。ビバムは、そんな自由奔放な仲間たちの保護者兼ツッコミ役として、地図とコンパスを片手に奮闘していた。
幾日か旅を続けると、一行の目の前に、目的の「東の大きな森」がその姿を現した。そこは、今まで彼らが見たこともないような巨木が天を衝くように生い茂り、地面は深い苔とシダ植物で覆われ、どこか神秘的で、それでいて圧倒的な生命力に満ち溢れた空気が漂っている。太陽の光は木々の葉に遮られ、森の奥は薄暗いが、不思議と陰鬱な感じはしない。
森の奥へ一歩足を踏み入れると、動物たちの気配が格段に濃くなった。しかし、彼らはアントたちを警戒しつつも、明確な敵意を見せる様子はなく、むしろ遠巻きに、好奇心に満ちた目で一行の様子を見守っているかのようだった。
「なんだか…不思議な感じがするな」ビバムが周囲を見回しながら呟いた。「まるで森全体が、私たちを歓迎しているか、あるいは…何かを試しているかのような…」
その時、一行の目の前に、ひときわ巨大で、その幹は数人がかりでも抱えきれないほど太く、枝葉は天蓋のように空を覆う一本の巨木が姿を現した。その樹は、まるで意志を持っているかのように、ざわざわと葉を揺らし、静かに佇んでいる。そして、その太い根元には、狼や鹿、熊、猿といった様々な種類の獣たちが、まるで集会でも開いているかのように静かに集っていた。
獣たちの中から、一際美しい銀色の毛並みを持った、賢そうな瞳の狐が、音もなくアントたちの前に進み出た。そして、静かに、しかし凛とした声で問いかける。その声は、誰の耳にも直接、まるで心に語りかけるように響いてきた。
「……あなた方は…どこから来たのですか? この聖なる『目覚めの森』に、何の御用でいらっしゃいましたか?」
新たな出会いと、言葉を話す獣たちの登場。アントたちは驚きと期待に胸を高鳴らせながら、この不思議な森での新たな物語の始まりを予感するのだった。




