再起の誓い! 怒れる女王と二つの勇気
1.束の間の安息と、ラーネの弱々しい願い
モーガンとディグビーは、戦闘の衝撃が比較的及びにくい洞窟の壁際に、彼らの得意とする土遁の術で瞬く間に小さな横穴を掘り上げた。そこは、ラーネを一時的に避難させるには十分なスペースだった。
「ラーネ、しっかり!」
アントは、傷つき意識が朦朧としているラーネを抱え、その避難場所へと運び込む。ビバムがすぐに駆け寄り、手持ちの薬草を噛み砕いて傷口に塗りつけ、布で強く圧迫止血を試みる。オルカは【深海の盟約】で清浄な水を生み出し、ラーネの額の汗を拭い、傷口を洗い清めた。
「きゅ…ラーネ…」
アントは、自分の腰の革袋に大切にしまっていた、最後のひとかけらのハチミツ(以前村でもらったものだ)を取り出し、震える手でラーネの口元へと運んだ。
「ラーネ、これ…あまいやつ…これ食べて、元気だして…」
その声は涙で潤んでいた。
ラーネはうっすらと目を開け、アントの顔を弱々しく見つめた。そして、差し出されたハチミツをほんの少しだけ口に含むと、かすかに微笑んだ。
「アント…ありがと…みんな…ごめんなさい…私の、せいで…」
「ラーネは悪くない!」アントは首を横に振った。「僕が…僕がもっと強ければ、ラーネを傷つけさせなかったんだ…!」
その拳は固く握りしめられ、悔しさに肩を震わせている。
一方、洞窟の広間では、鉄の爪団の冒険者たちが女王とドローン兵の群れを相手に激しい戦いを繰り広げていた。彼らはギルドに所属するだけあって個々の戦闘能力は高く、リーダーの女戦士の指揮のもと、巧みな連携で女王に肉薄しようとする。しかし、女王の底知れぬ魔力と、無限とも思えるドローン兵の波状攻撃の前に、徐々に押され始めているのが遠目にも明らかだった。
2.女王の逆襲! 鉄の爪団、絶体絶命の苦境
「フフフ…なかなか楽しませてくれますわね、この世界の戦士たちは」
女王は、まるで遊ぶかのように鉄の爪団をあしらいながら、新たな攻撃を仕掛け始めた。彼女がその手に持つ蜜杓を天に掲げると、洞窟の天井や壁から、巨大な鍾乳石のように粘着性の高い黄金色の蜜がいくつも滴り落ちてきたのだ!
「な、なんだこれは!?足が…!」
冒険者の何人かが、その粘蜜に足を取られ、動きを封じられてしまう。さらに女王は、残ったドローン兵たちに特殊なフェロモンを放ち、その体を凶暴化・巨大化させた。通常サイズの倍はあろうかという巨大ドローン兵が、怪力で冒険者たちを薙ぎ払っていく。
「くっ…これではジリ貧だ!総員、一度体勢を立て直せ!」
リーダーの女戦士が叫ぶが、粘蜜と巨大ドローン兵の猛攻の前に、鉄の爪団の陣形はみるみるうちに崩壊していく。仲間が次々と粘蜜に捕らわれ、あるいは巨大ドローン兵の一撃で吹き飛ばされていく。
「ここまでなのか…!だが、ハチミツ村の村人たちとの約束だけは…!」
女戦士は、最後の力を振り絞るかのように剣を握り直し、覚悟を決めた表情で女王を見据えた。
3.再起の誓い、七色の逆襲、そして女王の最終変貌
避難場所でその光景を見ていたラーネが、アントの手を弱々しく握った。
「アント…あなたの力は…そんなものじゃないはず…仲間を…みんなを守りたいという、その強い気持ちが…あなたの一番の力になるのよ…忘れないで…」
ラーネの言葉は、アントの心に深く突き刺さった。倒れた仲間、苦戦する新たな仲間、そして何よりも、自分を信じてくれるラーネの想い。
「……うん!」アントは力強く頷いた。「僕、もう逃げない! ラーネも、みんなも、ハチミツ村も守る! それから、女王様からいーっぱいのハチミツも取り返すんだ!」
(やっぱりハチミツは譲れないけど、今はみんなが一番だ!)
ビバムは、アントのその言葉と瞳に宿る強い光を見て、静かに頷いた。
「よし!ラーネのことはモーガンとディグビーに任せる!残りのメンバーで鉄の爪団を救援し、一気に女王を叩くぞ! 短期決戦だ!」
「「「応!!」」」
ホーク、オルカ、そしてビバムの決意の声が響く。アントの瞳には、先ほどの赤黒いオーラとは違う、仲間を守るための純粋で、それでいて今まで以上に強力な金色のオーラが、まるで太陽のように輝き始めていた。
アント、ホーク、オルカ、ビバムの四人は、ラーネとモグラ兄弟に後を託し、再び女王が待つ戦場へと躍り出た。
「鉄の爪団の皆さん、ご無事ですか!加勢します!」ビバムが叫ぶ。
絶体絶命だった女戦士は、アントたちの再登場に目を見張る。「あんたたち…まだ戦う気力が残っていたのか!」
「当たり前だ!僕の仲間とハチミツを傷つけた落とし前は、きっちりつけてもらう!」アントが叫ぶ。その声には、不思議な力が宿っていた。
ここから、アントたちと鉄の爪団の、即席だが魂のこもった連携攻撃が始まった。
ビバムの的確な指示が飛び、オルカが【深海の盟約】で水の壁を作り出して女王の粘蜜攻撃を防ぐ。その隙にホークが【絶対空域】で巨大化ドローン兵の関節や目といった弱点を正確に射抜き、動きを鈍らせる。鉄の爪団の戦士たちが、アントと協力して女王本体に肉薄し、その魔導士が援護魔法を放つ。
そしてアントの拳は、仲間を守りたいという強い意志に呼応するかのように、以前よりも格段に重く、鋭くなっていた。
「おおおおおおっ!」
アントの渾身の一撃が、ついに女王の持つ蜜杓を捉え、甲高い音と共に砕け散らせた!さらにその勢いのまま、拳は女王の体にも深々と叩き込まれる。
「ぐっ…!こ、この小僧が…!」
女王は初めて苦悶の表情を浮かべ、後方へと吹き飛んだ。
しかし、女王は倒れない。それどころか、砕けた蜜杓から溢れ出た濃密なハチミツを、自らの傷口から、そして口から、まるで渇望するかのように吸収し始めたのだ。
「フフフ…アハハハハ!まさかこの私をここまで追い詰めるとは…褒めてあげますわ、小さき者たち!ですが…本当の絶望は、ここからですよ!」
女王の体がみるみるうちに膨張し、その姿は美しい人型から、より蟲に近い、巨大で異形の何かへと変貌を遂げていく。背中の翅はさらに巨大化し、手足は鋭い爪と鎌に変わり、その瞳は赤黒い憎悪の光で爛々と輝いていた。
「さあ、私の真の力…その身に刻み付けて、甘美なる楽園の礎となりなさい!」
真の力を解放した(あるいは暴走した)女王の咆哮が、崩れかけた洞窟に響き渡った。




