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女王陛下の甘い罠!


1.女王の威圧、そして甘美なる問いかけ

黄金色の光と共に繭から現れた「地の底の女王」は、その場にいる全ての者を圧倒するような、静かな威厳を放っていた。蝶の翅を持つ美しい女性の姿でありながら、その瞳の奥には蟲特有の冷徹な光が宿り、手にした蜜杓からは、周囲の濃厚なハチミツの香りをさらに凝縮したような、抗いがたい芳香が漂ってくる。

「……あなたたちが、私の眠りを妨げた…小さき者たちですか?」

女王の声は、まるで上質な絹を滑るように滑らかで、しかし有無を言わせぬ重圧を伴って洞窟の隅々まで響き渡った。

アントたちは、その圧倒的な存在感の前に、一瞬身動きが取れなくなる。

「なぜ私の領域を侵し、私の愛しきしもべたちを傷つけたのですか?」女王は静かに続ける。「あなたたちからは…どこか懐かしい、それでいて異質な…そう、まるで世界の外から来たような匂いがしますね」

その言葉に、ビバムたちが息を呑む中、ただ一人、アントだけが女王の持つ蜜杓に釘付けになっていた。そこから滴り落ちる一滴の黄金色の液体は、彼にとって何よりも魅力的な至宝に見えた。

「は、ハチミツ…! きゅるるる! 女王様、それ、ちょーだい! おいしい?」

アントの空気を読まない、しかし純粋な問いかけに、女王は初めてその表情を微かに変え、妖艶に微笑んだ。

「ええ、これはとても甘美なものですよ。私の力の源…そして、あなたのような『特別な子』には、格別の味に感じるかもしれませんね」

ビバムが慌ててアントを制し、一歩前に出た。

「女王陛下、我々はハチミツ村の者たちを救いに参りました。あなたの僕たちが村を襲い、ハチミツを奪っていると聞いています。どうか、それをお止めいただきたい」

交渉を試みるビバムに対し、女王は冷ややかに首を横に振った。

「あの村の甘露は、永き眠りから覚めた私の渇きを癒し、力を取り戻すために必要な供物。それを邪魔するというのなら…小さきあなたたちも、私の楽園のための礎となってもらうまでですわ」

その言葉と共に、女王の瞳から慈愛のような光が消え、絶対的な支配者の冷酷な輝きが宿った。

2.女王の鉄槌! 絶望的な戦いの幕開け

女王がその手に持つ蜜杓を軽く振るうと、洞窟の壁や、先ほど倒したはずのロイヤルガードの残骸から、おびただしい数の小型の蟲型モンスター――硬い外骨格を持つ蟻のような「ドローン兵」――が、まるで湧き出るように姿を現した。その数は瞬く間に数百に膨れ上がり、アントたちを取り囲む。

「「「「キシャァァァァァ!!!」」」」

ドローン兵たちは一斉に威嚇の声を上げ、アントたちに襲いかかってきた。

「くそっ、数が多すぎる!」モーガンが悪態をつきながら、ディグビーと共に土の壁を連続で作り出し、ドローン兵の突進を食い止める。しかし、ドローン兵は壁を乗り越え、隙間を縫って次々と襲いかかってくる。

ラーネは【運命の編み手】で粘着性の高い糸の網を張り巡らせ、ドローン兵の動きを封じようとするが、数が多すぎて処理しきれない。ホークの矢も、一体一体は弱いが群れで押し寄せるドローン兵の勢いを止めるには至らず、オルカが【深海の盟約】で呼び出した水流も、次から次へと湧いてくる敵の前には焼け石に水だった。

さらに、女王自身も戦闘に参加してきた。彼女が蜜杓を振るうたびに、黄金色のハチミツが凝縮されたかのようなエネルギー弾が放たれ、着弾した場所では小さな爆発と共に甘ったるい香りが立ち込める。その一撃は、ビバムが張った防御魔法をいとも簡単に打ち砕くほどの威力を持っていた。

「みんな、女王本体の攻撃に注意しろ!あれは危険だ!」ビバムが叫ぶ。

アントは【女王の威光】を発動させ、仲間たちを鼓舞しながらドローン兵の群れに突撃し、その怪力で数体をまとめてなぎ倒す。しかし、女王がアントに気づき、その美しい唇で囁いた。

「あなた…面白い力を持っていますね。私の『同類』の香りもする…。さあ、こちらへいらっしゃい。もっと素晴らしい甘露を差し上げますわ」

その声はアントの脳内に直接響き、甘美な誘惑と強烈な眠気が彼を襲う。

「きゅ…あたまが…ふわふわする…ハチミツの夢…」

アントの動きが鈍り、ドローン兵に囲まれそうになった瞬間、ラーネの糸が彼を引き寄せ、オルカが体当たりで敵を蹴散らした。

「アント、しっかりして!あれは精神攻撃よ!」

3.明かされるハチミツの秘密と、深まる絶望、そして…

どれだけドローン兵を倒しても、女王が蜜杓を振るえば新たな兵が補充され、キリがない。アントたちの体力と集中力は確実に削られていく。

「なぜ…なぜこれほどの蟲を…これほどのハチミツを必要とするのですか!?」

ビバムが苦しげに叫ぶと、女王は恍惚とした表情で答えた。

「この甘露は、ただの蜜ではありません。大地の生命力を凝縮した、私の力の源…そして、やがてこの地上全てを、蟲たちの永遠の楽園に変えるための聖なる触媒なのです。あなたたち人間が汚したこの世界を、清浄で甘美な、私の子供たちのための世界へと再生させるのですよ」

村のハチミツが、女王の恐るべき野望のための重要なエネルギー源であることが、絶望的な形で示唆された。

その言葉を証明するかのように、女王の体から放たれるオーラはますます強まり、ドローン兵たちの動きもさらに凶暴化していく。

「もう…ダメかもしれない…」ディグビーが膝をつきそうになる。モーガンも肩で息をし、その表情には焦りの色が見える。

ホークの矢も尽きかけ、ラーネの糸も消耗が激しい。オルカの体にも無数の傷が刻まれ始めていた。

そして、ついにその瞬間が訪れた。

女王が放った一際大きなエネルギー弾が、仲間を庇おうとしたラーネの肩を直撃したのだ。

「きゃあああっ!」

ラーネは悲鳴と共に地面に崩れ落ち、その手から糸が力なく滑り落ちる。

「ラーネ!!」アントが絶叫する。

「これで一人…次はどなたが良いかしら?」

女王は、まるで美しい花を摘むかのように、冷酷な微笑みを浮かべた。

仲間が目の前で倒れ、絶対的な力の差を見せつけられ、アントの心は絶望と、そして今までにないほどの強烈な怒りに包まれた。

(ラーネが…僕の、僕のハチミツ仲間が…!)

その時、アントの体から、金色のオーラとは異なる、どこか禍々しくも強力な、赤黒いオーラが微かに立ち昇り始めた。瞳の奥に、野生の獣のような、あるいはそれこそ蟲の王のような獰猛な光が宿りかける。

「女王…お前だけは…ぜったいに…!」

アントが怒りに身を任せ、何かに目覚めようとしたその瞬間。

ゴゴゴゴゴゴッ…!!!

突如、洞窟全体が激しく揺れ動き、天井から大量の土砂が降り注ぎ始めた。

「な、なんだ!?」ビバムが叫ぶ。

女王も、この予期せぬ事態に初めて驚きの表情を見せた。

「この振動…まさか、外から…?」

洞窟の入り口の方から、誰かの大きな叫び声と、金属のぶつかり合う音が微かに聞こえてくるような気がした。

絶望的な状況の中に差し込んだ、ほんの僅かな、しかし確かな変化の兆し。

アントたちの運命は、そしてハチミツ村の未来は、一体どうなってしまうのだろうか。


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