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カイル。1

 しんみりしてる時間なんて本当一瞬だった。


「アオッ!さっさと来い」


 カイルは体もでかければ、声もでかい。


 あの朝食の後、二人が私の事をどう説明したのかわからないけれど、私はあの質素極まりない部屋から客室と思われる無駄に広い部屋へと移る事になった。

 私自身、あの夜の青年には会っていない。

 危険はないと判断された事と、今が丁度三年に一度の祭事の準備で忙しいらしく、異世界から来たとはいえただの女の相手をするよりも、そちらを優先というわけで、私の事は見送りという事になったらしい。


 時間が取れれば会うって言ってるみたいだけど、無理しなくていいのに。

 王族と対面なんて緊張する事出来れば避けたいんだ私は。

 暇な時間はどうか彼女と会ってあげてね。


 そんなわけで、それまでは祭事を見に来た他国からの客という扱いで、私の身の振り方はそれらが終わってからというわけだ。

 じゃあそれまで自由に王城生活で食うに困らず、寝るのはふかふかベッド、更には観光気分~なんて気楽に思った私だったけれど、そう世の中甘くはなかった。

 カイルが一言、こんな事を言ったからだ。


「一ヵ月後放り出されるかもしれないんだぞ。遊んで暮らしていいのか?」


 ・・・ひどい。本当ひどい。

 少しくらい夢見させてくれたっていいのに。

 働かざる者、喰うべからず。

 異世界人よ、世界を知れ、だった。


 そして、カイルのお勉強タイムが始まった。


「何度も言わせんな。50カノで1セス。20セスでこの銀色の小さい方、1セルスになる」


 ・・・もういいじゃん、買い物行ったらとりあえず大きいお金で払っておけば。

 そう言ったら、ぼったくられたうえに、金を持ってると思われて裏路地連れ込まれて、見ぐるみ剥がされるぞって脅された。ひえっ


「お前洗濯やった事ないのか?全然汚れ取れてないだろ」


 ・・・日本の洗濯機普及率をなめるなよ。手で洗った事なんかないよ!

 そう言ったら、便利な世の中だなって感動された。


「料理は・・・なんか出来そうな感じがしねぇな」


 ・・・はっきり言うけど、料理は自信あるよっ!これでも一人暮らしは長いんだからね。

 そう言ったら、ちょっとだけ驚いた顔になった後、苦労したんだなって頭を撫ぜられた。

 ついでに、すごい笑顔で今度食べるのを楽しみにしてるな、だって。


 そんなやり取りのおかげで、カイルとは最初あんな出会いだったにも関わらず、彼の飾らないさっぱりとした性格と態度で、すぐにさん付けも敬語もなくなっていた。

 彼の筋肉質な体を見ると私の好みからは外れてしまうけれど、一人の男として見るなら、やっぱり彼はかなりいい男だと改めて思う。

 なんだかんだと世話焼きなところもポイント高いよね。

 すれ違うメイドさんっぽい人たちが、彼が挨拶しただけで嬉しそうに頬を染めたのを見て、こっちが恥ずかしくなったほど。うーん、罪作りな男だな!


「そろそろ飯食うか。腹減ったな」


 ここでの生活習慣を学び、知るべく、私が手伝えそうな事を探すという時間の過ごし方は本当あっとゆうまで気付けば外は暗くなっていた。

 私のお腹も空きまくりのぺこぺこになるわけだ。


 でも、本当の客人のように部屋で食事っていうのは出来れば遠慮したいな・・・

 広い部屋で一人でご飯は寂しい。


 素直にそう言ったら、そうだなって笑って私の頭をがしがしと撫ぜた後、城で働く人たちのための食堂へと案内してくれた。

 普通より遅い時間のせいか、人はまばらだった。

 食事というよりはお酒を飲んで、まったりくつろいでる人のほうが多い。

 ここで働いてる人達の食堂なのに、お酒なんて飲んでいいの?と聞いたら、仕事が終わった後、馬鹿騒ぎしなければいいんだって。素晴らしい職場だ。


「そういえばカイルって何歳?」


 食事を終え、折角なので私もお酒が飲みたいと言ったら、いいのか?飲めるのか?と何度も確かめられた。

 自分の世界では普通に飲んでたよと話したら、ようやく甘い女の子向けだっていう桃色のお酒を持って来てくれた。

 何でそんなに聞くんだろうって思ったけど、それの答えがようやくわかった。


「あ、言ってなかったか?26」 

「へ~私の二つ上か。もっと上かと思った、良い意味で」


 私のそんな軽口に、彼はたっぷり10秒間を取ってから、一言まぬけな返事を返した。


「・・・・・・は?」

「あ、怒った?ごめんね」

「いやそっちじゃねぇ」

「そっちってどっち?」


 首をかしげる私をカイルは唖然とした顔で見つめ返し、振るえる指で私を指した。


「24!?」

「あははっやっぱり若く見えてた?」

「見えてた。どんな手使ったんだよ?」

「失礼な。日本人は比較的童顔ってだけで、普通だよ」


 そりゃ化粧品はしっかりと揃えてるし、週一でパックをかかさなかったりするけどね。

 それにしてもそんなに驚くくらいに私は若く見えてたのかと正直呆れた。

 お世辞も入ってるだろうけど、よく二十歳くらいに見えるとは言われる。

 でもそれは、私だけじゃなく、同じ年齢の友達だってそうだ。

 職場の先輩も実年齢を聞くと驚く事が多々ある。

 

 というわけで、やけに私の頭撫ぜたりお酒の事を気にしたり、料理で苦労ってどんな時代だよって思ったけど、私の事をかなり幼く思ってたからだ。

 でも、実際何歳に見えてたのかは、やっぱり聞くのが怖いからやめておく。

 だってお酒気にされる年齢ってうちの世界では二十歳だけど、なんか彼らの態度を思い出すと、明らかにそれ以下な接し方をしてた気がするからだ。

 若すぎる年齢を言われるのは逆に怖い・・・というか恥でしかないよね。


 そんな事を思いながら、ちびちびお酒を飲む私をカイルは顎に手をあてて、繁々と見つめていた。


「それデュラには言わない方がいいかもな」

「なんで?」

「なんでってあいつが変態だって言っただろ?あいつはいわゆる少女趣味だ」

「げっ」


 危ないなぁとは思ってたけど本物だったんだ!

 うわーうわー初めて会ったっ!

 ん?でもちょっと待って。


「幼い子が好きなら私の年齢言っちゃった方がいいんじゃないの?」

「わかってねぇな。あいつは少女趣味ってだけで、犯罪に走るような馬鹿じゃない。けど、その顔でその年齢だったら、何も問題はないってわけだ。むしろ、理想の女を見つけたって速攻落としにかかるだろうな」

「こわっ!!」


 青くなる私を見て、カイルは心底楽しそうに肩を揺らして笑っている。


 いやいや、笑い事じゃないよ!

 異世界ライフ一日目にして、貞操の危機発覚だよっ!


 ぶうっと頬を膨らませると、ますます彼の笑いが大きくなって、なんだどうしたと周りの注目を集める羽目になってしまった。

 そんなふうに人に見られるのに慣れていない私は赤くなって、手元に残っていた自分のお酒をぐいっと一気に喉に流し込んで立ち上がった。


「ご馳走様っ」


 全くもうっ人をからかって楽しむなんて最低だっ。

 食器を片付けてさっさと食堂を出て行こうとする私を、カイルが慌てて追いかけてくる。


「怒るなよ。いい女だって事だろ」

「今の会話のどこに私がいい女だって出ましたか?」

「・・・出てねぇな」


 この正直者っ!!

 コロスッいつか絶対こいつをぎゃふんと言わせてやるっ!!


 私はそう心に決めて、足音荒く廊下を歩き。

 

「おいっアオッ!」


 思い切り酔いが回って、ぶっ倒れた。

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