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「そんな話を信じろって?」

「信じる信じないは別として、本当の話しなんです」


 デザートを口に運びながら、私はここにいたる経緯を彼らに話していた。

 とはいっても、家帰って寝てたはずが気づいたらあの部屋に立ってましたとしか言えない私の状況は彼らとしても、どうしたものか考えあぐねているようだった。


 あ、彼らっていうのは間違いかな。


 主に私と会話してうんうん唸っているのは赤茶色の髪をした彼で、灰群青の髪の男の人は何を考えているのか私の後ろに立って、私の髪を櫛ですいている。

 たまに、はあ・・・と甘い溜息が髪に降りてくるのは、なんだか怖いので気付かない振りをした。

 赤茶色の髪の人は寄せた眉をそのままに、灰群青の人に視線を上げた。


「お前は信じるか?」

「彼女がそうだというのなら、そうなのだろうね。子供が好きそうな絵空事だとも確かに思うけれど」

「だよな・・・普通は信じられねぇよなっ。でも殿下の命を狙ったとかいう賊なら、あっさり俺に捕まり過ぎだしよ」


 あ、やっぱり昨日私を締め上げてくれたのこの人だったんだ。

 いつかあの痛み返してやるからな、こんにゃろう。

 などと思いながら、私はデザートの食べ終わったお皿をテーブルの上に置いた。

 灰群青の髪の人にまた唇を舐められてはいけないと、しっかりと口元を布巾で拭ってから口を開く。


「私からも質問してもいいですか?」

「ん?おう」

「ここは何て場所ですか?世界と国を教えて欲しいです。ちなみに私は地球って世界の日本という国で生まれ育ちました。あ、国によって地球って言い方もしないんですけど、私の国では世界の事を地球って言ってました」


 この際、太陽系だか銀河系だかいろんな難しい事は置いておく事にした。

 だって普通に生きてたら、そこまで考える事ってないし、何より彼らには更に関係ない事だと思えたから。

 私が口を閉じると、何故かよしよしというように、背後に立っている灰群青の人に頭をなぜられた。


 ・・・この人本当、何だろう?


 少しばかりあせりを感じながら、私は目の前の赤茶色の髪を持つ彼の返事を待った。

 彼はうーんと眉を寄せて顎に手をあてて考える人の仕草をする。


「チキュウもニホンも聞いた事ねぇな。ここはユグリス、国の名前はシュランツだ」

「・・・フランスなら知ってるけど、シュランツ・・・わかんないや」


 彼の言葉を口の中でぼそぼそと繰り返してから、私は自分の中で出ている答えに、はあっと溜息を吐いた。

 これはいわゆるあれだ。あれ。あれしかない。

 小説や漫画なんかでありふれていて、少し前には映画にもなった、異世界トリップ。

 それがまさか自分の身に起きる事になるなんて。


「それにしても、いきなり違う世界にやってきたって割には、お前さん落ち着いてねぇか?」

「昨日はちゃんと頭混乱してましたよ。でも、私の世界じゃよくある事なので」


 物語の中で。

 そう付け加えるのを忘れた。


「そうなのかっ!?すげぇなおい。俺だったらたぶん泣いてるなっ」

「嘘を言うな。お前がいきなり他の世界に着いたら、まず誰かれ構わず殴り倒して、一通り暴れまくり、疲れてようやく人の話を聞くというところだろうな」

「るせえっ!・・・そうか、それにしても自分達の世界離れて、お前らは何するんだ?」

「え。それは男だったら大抵勇者で、女だったら巫女とか崇められたり・・・」


 言ってから、しまったと思った。

 目の前の赤茶色の髪の男の人の目が輝きを増したからだ。

 その目が如実に、じゃあ私は何が出来るんだと期待に満ちた目をしている。


「ごっごめんなさい。私には何も出来ません」


 だって何より物語の中でって言い忘れただけなんだもん。

 私たちの国は妄想大好きおたく文化なだけなのだ。

 赤茶色の髪をした男の人の眉が残念そうに下がったのを見て、私はもう一度ごめんなさいと謝った。


「そんな事はたいした事じゃない。そんな話しより最も重要な事を我々は忘れている」


 え?と顔を上げると、灰群青の髪をした男の人が微笑んだ。

 すっと私の前に周り軽く屈んで、私の手を取る。


「あなたのお名前は?お嬢さん」


 言いながら手の甲をくるりと優しく撫ぜられた。

 この人は本当スキンシップが好きなんだね・・・と、先ほどからのもろもろの出来事でだいぶ耐性が付いていた私は愛想笑いでそれを流した。


 ・・・なるべく近づかないようにしよっと。


 そう心の中で密かに誓う私の前で、そんな彼の行動には慣れたものなのか、赤茶色の髪の男の人は、一瞬きょとんとした表情の後に、大きな声で話しだした。


「あーそうだよな、忘れてた!俺はカイル。カイル・クロウリーだ。一応騎士。って言ってわかるか?」

「えーっと、簡単に言うと馬とかに乗って剣とか武器を持って国を守る人、ですよね?」

「まあそんなとこだな。んで、そいつはデュラルース・アシュレイ。見ての通り変態だ」


 その紹介に私は思わずぷっと吹き出した。

 でゅらるーすさんが心外だという表情で肩をすくめて見せた。


「私は逢坂蒼です。アオイ・オーサカって言い方の方がいいかな?蒼が名前です」

「アゥィ?」

「アオイです。ア・オ・イ」

「アウィ」

「・・・」


 ・・・まあ、変な発音になるのは、お互いしょうがないよねって事で。

 

 改めて自己紹介が終わり、その後もお互い質問答が続いた。

 そこでわかったのは、ユグリスには大まかに4つの大陸があり、この国はその何処にも属していない、周りを海で囲まれた島国である事。

 異世界トリップにつきものな魔法の類は遠い昔に存在したらしいけれど、今は失われてしまったらしい事。ちょっとだけ期待していただけに、残念。

 ついでに言うなら、黒髪黒瞳も珍しくはないらしい。

 日本人の愛され要素がって思ったけど、私髪染めてて茶色でした。てへ。

 最後、私はシュランツ国の第三王子の寝室に夜中いきなり現れたという事。

 現れたのが第一王子だったなら、そのまま殺されてもおかしくなかったぞとカイルが笑った。

 いや、笑い事じゃないからね!


「異世界っていうより、海外旅行にいきなり来たって感じかな・・・」


 窓から見える町並みが、以前に友達と行った海外の町並みに似ている事から、異世界に来たっていう実感がいまいちわかず、そっと声に出して呟いた。

 現れた場所が説明出来ないのと、国の名前を知らないという事以外は海外と何も変わらないように思えてしまう。

 今二人は殿下に報告すると言って部屋を出ていた。


 ある意味、王道っていえば王道なメンバーかな。

 殿下と騎士と・・・あれ、結局デュラルースさんがどんな役職なのか聞いてないや。

 まいっか、変態で。覚えやすいし。


 ようやく一人で今の状況を考える時間を与えられ、私は苦笑した。


 高校も大学も就職も特に何も考えないできたけど、まさか異世界までやってきちゃうなんて。

 さすが流されまくりのくらげ女。あはは。

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