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「それで、夢見たのは最初の1回限りなのか?」


 問われて、そうだと頷いた後に何となく、首をかしげた。


「どっちだよ」

「見たような、見てないような・・・?」


 最初の事は凄くしっかり覚えているのだけれど、その後見たかと聞かれるとどうにも記憶が曖昧だった。

 あの最初の夢だけではない、悲しそうな声を聞いたような気がするといえばする。

 でもはっきりと思い出せずに唸る私に、カイルもまた困ったように眉根を寄せた。


「探してやるっつっても、アオがそんな状態じゃな・・・」

「だよね・・・手がかりが、レィニアスさんと同じ声の人ってだけだもんね」

「ああ。信じてやりたいが、確証が無さ過ぎる事だけは自覚しておけ」


 カイルのきっぱりとした言葉に、渋々ながら頷いた。

 異世界トリップの時点で、何でもありと思ったけれど、やはりこの世界に元から住んでる側からすると私の言ってる事は世迷言でしかないと断定された気分。

 落ち込む私を横目に、カイルも苦笑を返すしか出来ないようだ。


「本当、お前って・・・変な女だな」

「変って、全然嬉しくないんですけど」

「褒めてるだろ?」

「どこが!」


 むっとしてカイルの肩をぺちんと叩いた私の手を、彼が急に引き寄せた。

 只でさえ2人ベッドの中という近い距離が、更に近付いてしまい、少なからず何度かカイルに対してときめいた胸が音をたてる。


 ああもうだから、この男は・・・!


 またもや、カイルの時たま見せる甘やか攻撃かと思った私は、至近距離にある彼の瞳を睨み上げた。

 今度は負けるつもりはありませんよ。

 そんな私の気負いなんて気付きもしないで、カイルは握った手をそのままに、小首を傾げて笑った。


「そうやって怒ったりしてる方がお前らしいよ。泣いたり変な事考えて悩んだりしてるくらいなら、前みたいに俺に酒付き合えって笑ってる方が、な」


 思わぬ彼らしい気遣いに、私は目を丸くした。

 私だって本当は、悩むのは嫌いだ。

 子供といえる年齢でもないのに、自分が思っていた以上に弱かったんだと自分自身で思い知らされて落ち込むよりも、気晴らしに騒いだりする方がずっといい。


「夢の事も、殿下の事も話ぐらいならいつでも聞いてやる。帰りたいについては、流石にどうしてやっていいのかさっぱりだが・・・それもやっぱり、愚痴ならいつでも聞いてやるさ」

「カイル・・・」


 不覚にも胸の奥がじんとした。

 何だ、こいつは。

 何で毎回最後にはいいとこ持って行くんだ、本当に。

 女心なんて知りませんみたいな、ワイルドな顔立ちしてるくせに。


 けれど、素直に感謝するのはなんだか凄く悔しい、というか恥ずかしくて、カイルから視線を逸らして私は口を開いた。


「・・・私とお酒飲むのいい加減嫌にならないの?」


 二度も多大な、本当記憶から削除したいくらい情けない迷惑をかけたというのに。

 友達なら面倒も見るけど、私とカイルの関係って、私が一方的に頼ってたり、その場のノリで仕方なくそうなったというか、カイルしかいなかったというか、彼からしたらいい迷惑でしかなかったと思う。

 そんな気持ちをそのまま口にしたら、軽く小突かれた。


「俺が本当に迷惑だと思ってたら、さっさと他の奴にお前の事は引き渡してだろうよ。・・・そうだな、面識あるところで・・・ミハの奴はまあ嫌がるだろうが、アレンは何だかんだと面倒見のいい奴だからな」

「ふーん」


 なんとも気の無い返事を返した私に、カイルが噴き出した。

 え、私なんか変だった?

 彼らとはまだ二度しか会っていないし、会話らしい会話をした記憶もない私としては、そう相槌を打つくらいしか出来ないと思うんだけど。


「いや、ミハがお前の事気にしてたからな。なんか面白そうな子だから、お近づきになりたいですってな」

「えっそうなの? 友達はまだユーグしかいないから、是非誘ってって言っておいて」


 人懐っこそうなミハの顔を思い出しながら、そう告げると、カイルの顔が若干冷めたものに変わった気がした。


「・・・ふーん?」

「え、何?」

「いや・・・アオはそんな子供みたいな顔して、やっぱりそうなのか、って思っただけ」


 カイルの言い回しの意味がわからず、本気で疑問を顔に浮かべる。

 それになんか嫌なニュアンスが含まれてる気がして、私はカイルをじっと見つめた。

 そうなのかってどういう意味よ。やっぱりって。

 私の困惑と疑問を浮かべた視線をカイルはしばらく受け止めた後、彼は一度視線をさ迷わせてから、私に向き直った。


「男慣れしてんのかって事。普通の女ならそう易々男の誘いに乗ったりしないんじゃねぇか?」


 男慣れ!?

 それってつまり遊んでるって事ですか。

 いやいやないって。


「カイルの周りの普通がどういう感じか知らないけど、私の周りじゃ普通だと思うんだけど・・・」

「そうなのか?」

「だって、遊びに行くだけでしょ?」


 相手の事を生理的に受け付けないとか、こう相手に期待持たせるべきじゃないと解る時とか。

 あと友達の彼氏に誘われたら絶対に行かないとかね。

 ある程度のダメな状況を除いた場合、男女が一緒に遊びに行くなんてよくある事だと思う。

 女同士の方がずっと楽しかったりもするけれど、男の人も混じってのちょっとした緊張感があるのも私はいいと思うのだ。


 女は気を抜くとすぐにおばさんになっちゃうからね!

 お肌の曲がり角年齢の私としては、楽ばかりしてるわけにいかないのですよ!

 でも最近じゃお肌の曲がり角が二十歳とかって言われるし、かなり前に過ぎたっつーの!


 ぐっと力こぶしまで作って力説すると、カイルは脱力するように溜息を吐いた。


「後半はよくわかんなかったが、改めてアオとは生きてきた世界そのものが違うって事だけは理解した」


 解ってくれて良かったと頷いて、自分の相手の誘いに乗る乗らないのレベルについて付け足す。


「それで簡単に言うと、デュラに誘われたら上手くかわすけど、ユーグとかミハに誘われたら、まあいいかなーって感じで、カイルに誘われたら絶対行くって感じかな」

「そりゃどういう意味だ?」

「危険な感じがする人と、友達、もしくは友達未満。それと、友達以上の位置づけ」


 へえ・・・とカイルが頷いた。


「俺は友達以上か?」

「あ、私にとってはね。カイルにとっては、多大な迷惑をかけられる相手くらいにしか思ってないのは、重々承知だから」

「だから、別に迷惑だとか思ってないって言っただろ」


 あ、そういえばそういう話もしてたっけ。


「本当に嫌だったら適当にあしらうし、今も一緒にいねーだろうな」


 こう見えて俺は忙しいんだと言葉を付け足すカイルの態度に、なんだか嬉しくなってしまった。


「私の介抱に疲れて、部屋戻るの面倒だからここで寝ちまえとかかと思った」

「いやそれも確かにある」

「あるのか!」

「そりゃあるだろ。お前の場合、酔っ払って吐くだけじゃなくて、水持って来い、ベッドに運べって散々・・・」

「ぎゃああっそれは言わないで!」


 墓穴を掘ってしまった事に慌てて、カイルの頬を叩いた。

 叩いたというよりも、こう向きだけ返る程度のそれなんだけど、カイルは楽しそうに笑っている。


「とにかく、俺も迷惑とか思ってないから。酔ってるお前も面白いから好きだけどな、自分の適量を学び始めろよ」

「・・・勉強します」

「って、酒の勉強ってのも変な話だな」


 そうだねと2人して笑う。


 夜はいろいろ暗くなってしまったけれど、こんな風に楽しく朝を迎えられる事に素直に感謝する。

 カイルがどこまで私に付き合ってくれるつもりなのか彼の言動だけでは正直わかりきれないけれど、こうやってじゃれあったり出来る相手がいるって事は本当に助かる。

 弱い心はこうやって人との触れ合いでなんとかなるって改めて思う。

 だからこそ、集めの器やらに頼るこの国、というか世界って何だか不思議。

 便利だけど、何処かで綻んで歪んじゃうんじゃないかって思ったりもするけれど、それは私なんかが考える事じゃないよね。うん。


 今の私は、とりあえず。


「そういえば、私に何かあったらカイルが助けてくれるって約束だったもんね」

「・・・そうだったか?」

「祭事が終わって私が1人になるようだったら、お嫁にもらってくれる約束したじゃん!」

「それだけは、絶対にしてない事だけはわかるわ!」


 この温もりを大事にしたいと思って、笑った。

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