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逃亡劇 1

 あわわわっ何でっ私が・・・っ


「畜生っ何処に行きやがった!?」

「あそこだっ早く捕まえろっ」


 何で私が追われなきゃ行けないのーっ!









 死の危険を感じる鬼ごっこが始まる数時間前。

 私は別の意味で身の危険の中にいた。

 そう、デュラとお風呂でばったりあらら事件、だ。


「何でここにいるの!?」


 驚く私を他所に、デュラは至極当然という顔で私がいる浴槽へと近付くと、桶で軽く自身の身体にかけ湯をした後、その身をお湯の中に沈めた。

 彼が入った事で、私の動揺と同じくらいに湯面が波立つ。


「用事が思いのほか早く終わったので」

「その中途半端な返事はいらないの」

「約束だったでしょう? 一緒に風呂に入り、身体を洗うと」

「してないっ絶対してない!」


 話しながらこちらへと近付いてくるデュラを避け、反対側へと逃げる。

 さっきまで広かったはずの浴槽は、本来なら二人入っても余りある広さがあったはずなのに、今はやけに狭く感じた。


 これは、角に追い込まれる前に、先手を打たなくちゃ。


「デュラ、私、お風呂は足伸ばしてゆっくり広々入りたいから」


 デュラを睨みつけながら、そう言い切ると、彼は渋々ながらも納得したと頷き、私から少し離れた場所で、その背を浴槽の淵に持たれかけさせた。

 なんとか、浴槽内での身の安全を無事確保する事に成功した私は、ほっと安堵の息をつく。


 お湯の中で迫られたら流石にのぼせるし、気付けば裸でベッドの上でした。

 なんてマジで勘弁。

 次はどうやってここから逃げ出すかなんだけど。


 1、もうお風呂は十分だからと上がる。

 2、話題を変えて話し込み、のぼせそうだからと上がる。

 3、デュラに目隠しさせて、その間に上がる。

 4、デュラを殴って上がる。

 5、逃げられなかったら、殴りまくる。


 ・・・ろくな提案が生まれない自分の頭を呪いたくなった。

 それでも無難に1から試すしかないと、私が切り出そうとした時、手元でお湯に浮かぶ花をすくい、くるくる回していたデュラがこちらへ顔を向けた。


「まだ髪が乾いてるね。入ったばかりという所かな」

「え? あ、うん」


 って、何素直に答えてるの私っ!

 自分の阿呆さ加減に泣きたくなった。

 強制的に2番に移行しよう。


「それで、デュラさっきの事なんだけど」

「では私があなたの髪を洗っても?」

「うん?」

「良かった」

「えっちょっと待って、今のうんは返事じゃ」

「これでも人の髪を洗うのは得意なので」


 期待して欲しいとデュラが言う。

 そんなの言われたら、不覚にも興味が沸いてしまった私の中から、2番の選択肢が消えてしまった。


 だってね、美容院で男の人に髪洗ってもらうの好きなんだよ。

 あの大きな手でがしがしっと洗われるの好きなんだよね。

 友達は断然女の人の繊細な指で丁寧に洗われる方がいいって言ってたけど、人の好みはそれぞれって事で。


「それって目隠ししながらなんて・・・」

「あなたの目に泡が入ってしまっても?」


 う、そうだよね・・・


 身体洗うのと違って、髪洗うんだから見えてないと辛いよね。

 美容院だったら、逆にお客である私が目隠しされる立場だし。

 そこでふと、自分が目隠しされて、デュラに髪を洗ってもらうのを想像してしまい、そのあまりに危険な妄想に慌てて、頭を振った。


 ないないっそれは流石にないっ!


 とにもかくにも、デュラの最もな意見に納得して消えた3番目の選択肢。

 残るはデュラを殴るだけど、それは頭を洗ってもらってから考えようかな。


「のぼせそうなのでは?」


 お湯の温度なのか、今の妄想のせいなのか、先程よりずっと赤くなっている私を見て、デュラは怪しく微笑むと立ち上がり、私に手を差し出す。

 その手に捕まり自分も立ち上がろうとした所で、はたと気付いた。


「タオル取って」

「残念」


 確信犯だったのか!


 むっと睨む私の視線の先で、彼は浴室の淵にかかっているタオルを取ると、渡してくれた。

 あっち向いててよね、と言う私の言葉に素直に従うデュラを確認してから、私は腰と胸にタオルを巻く。なんとも頼りない装備だけれど、無いよりましだよね。


 ここは混浴、ここは混浴。

 私は水着着用中・・・


 自分に暗示をかけるように何度もそう繰り返しながら、私は浴室に備え付けられている木の椅子に腰掛けた。

 日本でよく見かける低いタイプと違い、この国の風呂椅子は普通の椅子の高さがある。

 初めて見た時戸惑ったものだけれど、すぐに慣れた。

 髪にお湯をかけて濡らす私の背後で、デュラが手でシャンプーを泡立てながら、何やら溜息を吐いている。

 溜息というか、感嘆の声というか、甘い吐息というか。

 うん、ここも怖いから考えるのは止めようと思う。我ながら懸命な判断だ。


「では・・・」


 それからデュラに髪を洗ってもらったけど、本当彼は慣れているのか、気持ちよかった。

 男の人の細くて長い指と、大きな手の平に頭全体を包まれるように洗われるのは、恥ずかしいけれど、やっぱり好きだ。

 泡を流し終えると、次にリンスが髪に塗られ、彼の指が私の髪を丁寧にすく。

 その間も、彼の吐息は何度も私の耳に落ちてきた。

 彼の手が髪を持ち上げる仕草と同時に、私の背や首筋に必要以上に触れている気がする。

 なにより、彼の手が私の肌に触れるたびに、ぴくりと反応してしまう自分の身体が恥ずかしい。

 そして、それをデュラが明らかに楽しんでいる気配を感じる。


 なんか本気でやばい気がする・・・


 またデュラの手が、私の首筋あたりを撫で上げ、私は思わず、んうっと息を漏らした。

 同時に、背後の彼の吐息が熱さを増した気がしたけれど、気付かない振りをした。

 浴室は温かくデュラの手は確かに気持ちいいのに、それらを意識してしまうと、私の背中に薄ら寒い悪寒が走るからだ。


「デュラありがと、本当に気持ちよかった」


 リンスも流し終え、ほっとしながら肩越しに彼を振り返る。

 すると、デュラは艶めいた甘い光をその細い瞳に宿して微笑んだ。

 私にとっては見かけるのも珍しくもないけれど、彼の端正なラインの頬が紅潮している。


「では、もっと気持ちよい事をしましょう」


 言うなり、デュラは私に覆いかぶさってきた。

 私は悲鳴を上げて彼を殴った。

 それはもう殴りまくった。


 風呂桶で。


 結局、選択肢は4と5のコンボで終わった。

 そして、倒れたデュラを尻目に危険な浴室から、慌てて飛び出したのは言うまでもない。










 そんなわけで、私はデュラから逃げはしたけれど、こんな知らない人達から追い回される理由なんて無い。

 時間はまだ日も高かったので、頑張れば王城の自分の部屋までたどり着けるのではないかと、白莉殿を飛び出したまでは良かった。

 遠くに見える王城を目指しながら歩いているうちに、道に迷い、日も暮れかけて来た頃。

 何となく嫌な感じがする人達を見かけた。

 それは、あの白莉殿の集めの器が安置されている部屋で感じた、あの寒気と凄く似ていた。

 本来だったら、無視すべき所だったのに、その時の自分はどうかしていたとしか思えない。


 あえて言うなら、怖いもの見たさ?


 なんとなく近寄って、その人たちの様子を伺おうとした時、彼らの内の一人が私の存在に気付いたのだ。

 そうだ、その時、見た顔が黒い靄で覆われていて、私は驚いて逃げ出したのだけれど。

 私の態度はいかにも怪しげな彼らを刺激したらしい。

 わらわらと男達が私へと走って来たので、私は更に足に力を込めて、全力疾走を繰り広げ、今の危険な鬼ごっこへと強制参加する羽目になったのだ。


「何処行きやがった」

「何か、勘付いてるならまずい。さっさと捕まえろっ」


 あわわ、私は何も勘付いてません。

 ただ素直に怖かっただけです。

 お願いだから、見逃して!

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