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更に仲良く?

 何度も柔らかな温もりが頬に押し付けられる。

 回数を重ねれば重ねるほど、その温もりに慣れ、親しみが沸いてくるから、私って大概単純だ。

 でも流石に、デュラの手が私の顎にかかり、自分へと向きを変えさえ、明確な意図を持って顔を寄せた時は、流石に本気で拒否の姿勢を見せた。


「これは絶対駄目」


 デュラの唇と私の唇の間に、手を割り込ませて、彼を睨む。

 手や頬へのキスは理由を言われるとそうかもね、と納得して許せても、やはり唇へはお互いの愛情を持ってが一番だ。


 流され体質の私でも、あったあった、駄目なこと。

 昔の遊女も言ってたじゃないか。

 体は許しても唇は許さない。

 うん、そういうの大賛成。

 我ながら安直な概念ではあるけれど、これくらいは女としてのプライドっていうか。

 私だってね、節操なしじゃないんだよ!


 私の拒否に文句を言うかと思ったデュラは、思いのほかあっさりと顔を離した。


「残念」


 デュラは薄く笑うと、私のこめかみあたりに唇を落とす。

 うーん、唇は駄目って言ったけど、じゃあそれ以外は何処でもOKってわけでもないんだけどなと、それを受け入れながら考える。

 でもいつまでも、こんな甘い時間を過ごすわけにはいかない。

 なし崩しに、いけない事が始まってしまいそうな気配を感じるし、ここは何か話題を変えよう。


「あ、そうだ。デュラは本当に負の感情、怖くないの? 慣れても怖いものは怖いと思うんだけど」

「・・・そうだね、怖いというよりも嫌悪は感じるよ。どんな人間も、こんなものを生み出すのかと、ね」


 デュラの唇に先程までとは違う笑みが浮かぶ。

 それは今まで散々他人の負の感情を直接見てきただろう彼の、他者を軽蔑し寄せ付けたくないという厚い氷の壁を感じさせる笑みで、それを感じた私の背がぶるっと震えた。

 私の震えを腕に感じたデュラが、その笑みを消し去り、安心させるように微笑んだ。


 でもね、でもさ。


「ねえ、デュラ、私にだってその感情あるよ? 自分じゃどうしようもないくらい嫌な気持ちになる事ってあるんだよ」

「わかっているよ。人に感情がある限り、それも必ず付いてくるものだとね」


 ああ、デュラはちゃんと解っているんだ。

 でも、それでもデュラはあんな笑みを浮かべるくらいに、それを軽蔑している。

 それは、何故?


 流石にそこまで聞いていいものだろうかと、私は口を噤んだ。

 俯いて流れた私の髪を、デュラがそっと持ち上げて私の耳にかけながら、口を開く。


「あなたはどう思う? あれを直接見て、どう思った?」

「それは怖いって感想以外?」

「そう」


 あの黒い靄・・・つまり、負の感情を見て、怖い以外の感想!?


 昨日の今日で、さっぱりそんな事は考えてない私は、何があるかなぁ?と素直に首をかしげた。

 そんな私を見て、デュラがふっと小さく吹き出す。


 何よ、人が真剣に考えてるのに!

 むっと私が頬を膨らませた、その時、部屋の扉がこんこんっと遠慮がちにノックされた。


「デュラルース様、こちらにいらっしゃいますか?」


 年配の男性の声が、扉の外から聞こえた。

 ちらっとデュラに視線を移すと、彼は無視を決め込むつもりなのか、自分の唇のあたりに人差し指をあて、しぃっと静かにするよう促す。


 まあ、無視なんてそんな事、私が許さないんだけどね。


 足を上げて、デュラの足を思い切り踏みつける。

 彼の顔が痛みに歪み、私を非難する色がその群青の目に浮かんだけれど、私はそれこそ気にもせずに立ち上がると、扉へと歩きそれを開いた。

 廊下には薄いベージュの色のローブを纏った年配の男性と、その背後に同じ様な服を纏った女性が立っていて、私と目が合うと軽く頭を下げられた。

 私も同じ様にお辞儀を返し、更に扉を大きく開きながら口を開く。


「デュラならここにいます」

「・・・全く」


 ソファに座ったまま、デュラは小さく呟いたけれど、諦めたように息をついて立ち上がり、こちらへと近寄ってきた。


「申し訳ありません。封じの器が・・・」

「用件は歩きながらで結構。アオイ、今日は好きにこの辺を散策して、夜にまたここで」

「うん、私もさっきの質問考えておくから」


 そう返すと、デュラは何故かまた笑った。

 そんな私達の会話を、後ろに控えていた人たちは驚いたように見つめていたけれど、デュラが歩き出すと、慌てて彼の後を追う。

 あんなローブ着た人を従えて歩くデュラを見ると、本当に偉い人なんだと改めて思いながら、私は扉を閉め、先程のソファにどかっと座り直した。


 そういえば、私またここにお泊り決定?

 まあ、一人で帰れないからそれでもいいんだけど、仕事とかユーグに心配かけたままなのはカイルが何か言ってくれてるのかな?


 電話や携帯が存在しないこの国は、ちょっと不便だなと、ごろんとソファに横になりながら考える。

 そして、デュラの言った台詞を思い出した。


 負の感情に怖い以外の感想。


 ・・・・・・・・・何だろう?


 思い切り眉を寄せて、怖い以外に何があるのか考える。

 いや、怖い以外考えられない。

 黒い靄に触れた時を考えると、この広い部屋で一人いる事も怖く思えてくるので、そこは考えない。


 一頻り考えたけれど、堂々巡りの考えになってきた私は、徐に立ち上がると部屋を見渡した。

 いくつかある扉を開け、目的の場所を見つけると、嬉々として入り込んだ。

 家での気分転換に持って来いの場所へ。









「はあ~やっぱりお風呂はいいよ~」


 薄いピンクの入浴剤は花の香りがして、慣れない考え事に痛んだ私の頭を癒す。

 一緒に置いてあった花も、勝手に浴槽に浮かべて遊ぶ私は、先程まで異世界がどうだとか集めの器や負の感情でナーバスになってたのが嘘のように図々しいなと、我ながら笑った。


「お風呂最高~」


 ちゃぷちゃぷお湯を揺らしながら、足を伸ばしたりしてみる。

 先日まで私が使っていた部屋の浴槽は、ここよりも小さくて、シャワーがメインの感じだった。

 客人用の部屋だから、浴槽よりも人に洗ってもらったりするスペースの方が広く取ってある感じ。

 ここは、浴室自体結構な広さがあるけれど、浴槽も私が両手両足伸ばしてかろうじて届くかなというくらいに広い。

 軽い温泉気分になりながら、私は心からやすらいでお湯を堪能していた。


 やっぱね、日本人はお風呂だよね!

 身も心も癒されるっていうか。


 そこで、私は、ふと気付いた。


 負の感情。


 私がそういう嫌な気持ちになった時は、大抵友達とぱーっと飲んで騒いだり、こうやってお風呂に入ってゆっくり落ち着いたりして、嫌な気持ちを薄めていく。

 嫌な気持ちの度量によっては、何日か引きずる事もあるけれど、それでも乗り越えていくものだ。

 人によっては、どうしても耐え切れず心の病になって、カウンセラーに見てもらう事もあるけれど、ほとんどの人が自分の力で乗り越えるもの。


 それをここの人って全部、あれに任せてるんだよね・・・。


 なんとなくデュラが言いたかった事が解った気がして、私は一人うんうんと頷いた。


「デュラが嫌な祭りって言うわけだね」

「ああ、何か解ったようだね」

「それは流石にね・・・って、なっななななっ」


 何でデュラがここにっ!


 急に聞こえた声に、思わず返事をした後。

 顔を上げればそこにはタオルを腰に巻いてはいるけれど、裸のデュラの姿があった。

 文官で細身なイメージのデュラだったけれど、その体はいつ鍛えているのか、適度に引き締まっていて、目を奪われる。


 って、奪われてる場合じゃない!

 どうする私っ!?

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