表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/57

 何処で会ったのか?

 どんな容姿をしているのか?

 何故、気になるのか?

 私よりもそんなに相手のほうがいいのか?


 矢継ぎ早に浴びせられるデュラの質問攻めに、私はひきつった笑いを返すしか出来なかった。

 無理に上向かされてる首が痛い。

 こういうタイプには慣れていないどころか、初めて会う部類の人間のため、どうしていいかわからないというのが、正直の所。


「あの、私も一つ聞いていいかな?」

「・・・どうぞ」

「デュラこそ、何で私をそんな気にかけてくれるの?」


 気にかけてっていうのは語弊があるかもしれないけれど、遠まわしに聞くにはそれしかなかった。

 流石に、セクハラばかりでうざいんだけど、何てそんな事言えないじゃないか。

 私の言葉にデュラは、呆れたような顔をした。


「何故ってあなたが好きだからでしょう」

「え」


 当然と返された言葉に、私はぽかんと口をあけた。

 好きって、私達まだ、片手の指分も会ってないよね?


「ど、どこが?」


 驚き、目が点になっているだろう私の顔を、デュラは至極真面目な細い瞳で覗き込んだ。

 端正のとれた顔に改めて間近で見つめられると、相手が例え変態だと身にしみて解っている彼相手でも、私の胸はどきっと小さく音を立ててしまう。

 悔しく思う私に、デュラは目を細めて甘く微笑んだ。


「顔が」


 ・・・殴りたい。


 いや、わかってたはず。

 わかってたはずなのに、何だろう、無性にデュラを殴りたい。

 私の一瞬のときめきを返せ、この野郎。


 こちらの様子を伺っていたユーグが、いたたまれないとうようにそっと顔をそらしたのがまた痛い。

 どうしてくれようかと右手を握り締めた私の耳に、その時、馬の嘶きが聞こえた。

 ガラガラガラッと車輪の回る音が近づいてくる。

 ん?と音のした方に顔を向けると、こちらに向かって小さめな馬車がやって来る所だった。


「ああ、やっと来たね」


 デュラが私から離れて、建物の傍で止まった馬車へと向かった。

 御者のおじさんが降りてきて軽くお辞儀をするのを受けて、二人は何やら言葉を交わす。

 しばらくすると、御者のおじさんは馬へと近寄り、馬車の向きを変えた。


 来る時は、10人くらい乗れる大きいのだったけど、やっぱりああいう小さめな馬車もいいな。

 いかにも観光って感じで可愛い。

 やっぱ料金が高くなるのかな?


 そんな事を考えながら、ぼんやりとその様子を眺めていると、いつのまにか隣に立ったユーグが私の顔を遠慮がちに覗き込んできた。


「・・・あの先程の事は・・・」

「ん?」


 首を傾げる私に、ユーグは言いづらそうに視線を伏せた。


「アオイさんは、その・・・祭司長と・・・」


 ああっ!あれかっ!

 ないないないっ!絶対ないっ!!


 慌てて首を振る私を見て、ユーグはどこかほっとしたような様子で息をついた。

 真面目なユーグの事だから、きっと、身分の高い人の想い人って事で、何かまた遠慮しなきゃとか態度改めなきゃとか、考えたんだろうなと思う。

 普通はそうかもしれないけど、なんせ相手は私だ。

 たぶん、顔が好きってのも、彼の好む趣向の幼い顔の理想にぴったりだっただけの話しだし、デュラに対する敬意は立場的に必要だと思うけど、私に対しては、さっきまでのままでいいからね!


 そんな感じの事を力説すると、ユーグは、はいと頷いた。

 その目元がうっすらと赤いのを見て、きっと、こんなふうに惚れた腫れたの恋愛面の話しを、彼は今まであまりした事がなかったのではと、やっぱり思えてしまう。

 そうなると、私の考えは一つ。


 ・・・いろいろ教えてあげたい!


 付き合ってと言われれば、相手のルックスやら性格やらで、まあいいかって流れで付き合うような恋愛しかして来なかった私は、こういう純な子って初めてだったりする。

 まさか、こんなにも悪戯心が刺激されるなんて。

 そんなわけでまたもや、ユーグをからかいたくて仕方なくなった私の手が、動きかけた時。


「全く、私がいるでしょう」


 その言葉と一緒に、ユーグに伸ばされかけた私の手が、他の男、つまりデュラの手に絡め取られた。

 いつ戻ってきたんだ、こいつは。

 驚き、私が抵抗して手を引っ込める間もなく、その手が彼の口元へと運ばれた。

 その直後に、指先に走る痛み。

 剣呑な光を宿した灰群青の細い目と、痛みに顔をしかめた私の目が合った。


 か、噛んだ!

 この人、私の指、噛んだーっ


「口で言ってよ!普通こんな事しないからねっ」


 ぶんっと腕に力を込めて、捕らえられた手を引っ込めた。

 デュラに噛まれた指先の痛みを失くすように、手をぶんぶんと振る。

 彼の行動のせいで、私の頬は熱を持ち、たぶん、真っ赤になっていると思う。

 それが恥ずかしくて、私は眉を寄せて、彼を睨んだ。

 けれど、デュラはそんな私の視線をものともせず、じっと私を見据えて言った。


「あなたを前にして普通でいろと?それは無理な話しだよ」


 触れたくて触れたくて、自分を止められない。


 そう言い切ったデュラの目があまりにも真剣で、その瞳に揺れる熱が激しくて。

 私の背が恐怖で、ぞぞっと震えた。


「ほっほらデュラそれって犯罪だよ?私そんな事まだ誰にもされた事ないし・・・」


 勿論嘘だけど。

 でも一応、彼の中では私はかなり幼い設定になってるはずだ。

 カイルがばらしてさえなければ。


 焦りじりじりと後ろに下がる私に、デュラは颯爽と詰め寄るってくる。

 その笑顔が怖い。


「大丈夫、待つよ。でも、犯罪にならない程度は良いのでは?私とあなたの仲なのだから」

「犯罪にならない程度って・・・」

「以前にやったように、髪に触れたり食事の手助けをしたり、服の着替えを手伝ったりだよ。次は一緒にお風呂に入って、背中を流してあげよう」


 アウトーッ!

 はい、それもう完全アウトだからっ。


 駄目だ、カイルやっぱりデュラは駄目だよ。

 本物の変態とは会話にならない事を今日知ったよ。

 今日は本当に収穫が多い日で、もうお腹一杯大満足だから。

 今すぐ誰か私を助けて。


 そう願う私の意志は誰にも届かず、デュラの手が再度私を捕らえようと、伸びてくる。

 ユーグはやはり身分差とかいうもので動けないみたい。

 これはもう自分の身は自分で守るべく、一発殴るしかない・・・!

 そう私が心を決めた、その時。


「あ」


 白莉殿から、人が出てくるのが見えた。

 私の意識がそちらに向かったのに気づいて、デュラも顔を向ける。

 建物の影から、侍女の服装をした女の人を後ろに連れて、毅然と歩く人物に私は目が釘付けになった。

 強くうねった陽に輝く黄金の髪。整った美麗な顔立ち。

 青く澄んだ大きな瞳に、薔薇色の唇。

 あまりに美しいその姿を見て、緊張した私は思わずこくんと喉を鳴らした。


 天使だっ本物の天使がいる・・・!


 そんな馬鹿な事を思ってしまう程に、綺麗なその女性に私はぼうっと見惚れた。

 この世界に来て、いい男は結構見てきたけど、やっぱりいい女もしっかりいるんだって変な所で感動する。

 彼女は、デュラに視線を合わせると、花が綻ぶように微笑んだ。


「アシュレイ様、今日は有難う御座います」

「このようなお忍びは、これが最後にして下さい、リヴィエラ様。私が殿下に怒られます」

「まあ。そのような事がないよう、言っておきますわ」


 デュラの言葉に彼女は微笑を崩す事なく、そう返すと、侍女らしき人の手を借りて馬車に乗り込んだ。

 一つ一つの動きが洗練されていて、綺麗だなって見惚れているうちに、馬車は私達の前を通り過ぎて見えなくなってしまった。

 馬車が私達の前を通り過ぎる一瞬、彼女の天使の微笑が私に向けられた気がして、ある意味、恋に落ちそうになった。

 隣でユーグも同じ様に、ぼうっと頬を赤くしている。


「・・・凄い綺麗な人だったね、ユーグ」

「・・・はい」

「いいなあ・・・」


 同じ女として、綺麗な人には憧れる。

 ほうっとため息をつく私の頬にデュラの手が触れた。


「私にはあなたが一番だから」


 ・・・そんな事言われたって、あんな美人を見た後だったら、空しいだけなんだよ。

 女心がわかってない。

 私は自分の頬にそえられたデュラの手の甲を、遠慮なく捻り上げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ