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9.見習い獣人使い

・森の中で ソル


 ガサガサガサッ、茂みから道へいきなり男が出てきた。

ソルとフローラが驚いて見ると、男の方も枷も首輪もしていないソルを目の前にして、動きを止めてしまっている。

「こんなところから出てくるなんて、どうかされたのですか?」フローラが声をかけた。

「えっ、あ、薬草を取りに入って迷いそうになったんです。なんとか道に出れてよかった。あの、この猪人は?」男はおどおどと答えた。

「彼はむやみに人を襲ったりしませんので、ご心配なく。」

「そ、そうですか。」

「良かったら村まで案内していただけないでしょうか。」

「は、はい。」


 男は村までずっとフローラと話っぱなしだった。

村の入り口までではなく、狩りの獲物を売る店まで案内してくれた。

男は尚も一緒にいたがったが、フローラに断られ、しかたなく去って行った。


・店前 ソル


 ソルは店の外に繋がれ、あぐらでフローラを待っていた。 

ふと、ソルのほうへ後ろ向きに近づいて来る女性に気がついた。

「別に悪さしようっていうんじゃないからさぁ。」

「そうそう、少し付き合ってもらうだけだから。」

どうやら男三人に追いつめられているらしい。このまますぐ近くまで来られると困った事になりそうだ。

 ソルが思いあぐねていると男達の方が自分に気づいたようだった。

「後ろ、気を付けないと猪人がいるぜ?」

女性は半分振り返ってソルを見た。「なんでこんな所に?」困惑した様子だ。

 「オマエ、何かしたのか?」ソルが尋ねた。

女性は話しかけられた事に驚いた様子だったが、しっかり答えた。「違うわよ。あっちが強引に連れて行こうとしてるのよ。」

「強引にってのは、ひどいなぁ。ちゃんと、お願いしてるのに。」男達の一人が言った。

言っている間にも、にじり寄ってきている。

 ソルはこれなら助けてやってもいいかと思い、

「オマエがオレを守ってくれるなら、アイツらから守るぞ。」女性に持ちかけた。

「え?」女性はとまどった。

「オレが暴れた後、”私を守る為にやった”と言ってくれ。そうしないと、オレは村人達に殺される。どうする?アイツらに襲われるか?」

「いやよ。お願い、助けて。」

 「ロープの端を手に取って”私を守れ”とオレに命じろ。」

女性は柱に駆け寄って、ロープを取ってソルに命じた「私を守りなさい!」

「ご主人様をいじめたなぁ!」ソルは叫んで、足と手枷がついた両腕とで三人をふっとばした。

「ちきしょう!猪人を使うなんてズルいぞ!」男達は逃げて行った。

 ソルはのんびり元の位置へ戻って、女性の前で座った。「たいした事なかったな。」

女性は驚くばかりで、動きを止めてしまっている。

通りを行き来する人々は遠巻きに見て、互いに話をしている。


 「ソル!何かあったの!?」フローラが店から飛び出してきた。

「獣人使いの命令をきいて、悪者を追い払ったんだ。」ソルが説明した。

「獣人使い?」フローラはロープを持っている女性を睨んだ。「どういう事かしら?」

「あ、あの。私が言い寄られて困っていたら、守ってやるって言われて・・・。」女性が答えた。

フローラはソルに向いて「自らやっかい事に首を突っ込んだのね?」

「あっちから来たんだ。こっちから突っ込んでない。」ソルはとぼけた。

 フローラは女性に向き直って「これ以上かかわらない方が得策かしら?ロープを返してくださる?」

「はい、でもお礼をさせてください。」女性はフローラに頼んだ。

「必要ないから。」

「いえ、そういうわけにも・・・。」女性はしっかりとロープを握って渡そうとしなかった。

「強情な人ね。騒がしくなってきたから、続きは人のいない所でしましょ。」フローラは女性の手を引いて急いだ。女性がロープを持ったままなので、ソルはその後をつていていく形だ。


・村はずれにて ソル


 三人は村のはずれまで来た。

「まずはロープを。」フローラが女性に要求した。

「あなたの猪人を勝手に使ってすみません。」女性はロープを返した。

「じゃ、ソル。この女性を放り投げなさい。」フローラがソルに命じた。

「えっ?」女性は身を引いた。

ソルは驚いた。「おい、フローラ。それは、やりすぎだろ!」

女に乱暴しろなんて、どうしたんだろう?

 「わかった?彼は言われるままじゃないの。私は彼を使っているわけじゃない。というわけで、お礼を言うならソルにどうぞ。」フローラは手をソルの方へ差し出した。

なんだ、本気じゃないのか。ソルはほっとした。

 女性はソルに向き直って「あの、セーラといいます。助けていただき、ありがとうございました。」頭をさげた。

「たいした事なかったぞ。ところで、オレはソル、コイツは親友のフローラ。」

「二人は親友なんですか?」セーラは驚いた。

「いろいろあって、コイツ、アイツの仲よ。」とフローラが答えた。

「そうなんですか。」

セーラとはここで分かれ、二人は宿へ向かった。


・宿  フローラ


 ソルの部屋でフローラは改めて文句を言った。「まったく、ちよっと間違ったら村人に殺されてたわよ。」

「でも、ほっといたら、セーラは悪者に襲われてたぞ。」

「白昼堂々どういう誘いかたしてるんだか。」

「森で会った男のような誘いかたの方が良かったか?」

「ちょっと、しゃべり過ぎだと思ったけど、強引に言い寄られるよりは良いわね。」

「そうか。」


・店 フローラ


 翌日、フローラが昨日とは別の店に入っていくと、カウンターにセーラがいた。

「あら。」

「昨日はありがとうございました。」

「こちらの店員さんだったのね。」

「実家なんです。今日は店員さんが遅れてて。何をお探しですか?」

フローラが買い物をしている間に、店員がやって来てセーラと代わった。


・ ソル


 「ソルさん、こんにちは。」フローラと共に店を出てきたセーラが挨拶した。

「お、偶然だな。」ソルがニッコリ答えた。

「こちらの店の子だそうよ。」フローラが説明した。

「へぇ。そうなのか。」

「これをどうぞ。」セーラが小袋を差し出した。

「これは?」

「昨日のお礼です。」

「オレに?」

「はい。」

「ありがとう。」”こんな風に女から物をもらうのは初めてだ”思わずドキドキしてしまう。

 「この後はどういう予定なんですか?」

「えーと。村をあちこち見て歩いて、明日には出ようと思っている。」いつもと調子が違う。

「じゃ、昼まで私に案内させてください。」

「えっ、いいのか?」

「それくらいは、させてください。」

「じゃ、フローラと並んで歩いてくれ。」

「?いいですけど?」

ソルが前を歩いて、フローラとセーラが並んで歩いて、村を歩いて回った。


・襲撃 ソル


 昼になって、セーラと別れた矢先、見覚えのある一団がフローラとソルの前に立ちふさがった。

「よう、昨日は世話になったな。」

「ソルさん!」セーラが一人に捕まえられている。

「ソイツをどうするつもりだ。」ソルが言った。

「後でお付き合いいただくとして、まずはお前に痛い目にあってもらわないとな。

その為に、格闘家を一人連れてきたんだ。」筋骨たくましい男が前に出てきた。

「枷をつけたまま、この人と対戦してもらおう。」


 「対戦?私達は所詮、行きずりだから、見捨てて行くこともできるんだけど?」

フローラが相手に言った。

「それなら俺達は彼女とお楽しみと行くさ。猪人を殺しはしない、賠償できないからな。あくまでも格闘演習の申し出だ。」

 「見捨てるなんていやだ。アイツは友達だ。」とソル。

「私も同様な気持ちだけど、不利よ?」フローラは慎重だ。

「ハンデ戦でどこまで戦えるか、やってみたい。」ニヤっと笑った

ソルは剣士だが、刀を失った際の格闘も少し教わっている。

「ホント、好きね。首輪をはずすから、行ってらっしゃい。」

フローラは首輪と剣をはずしてからセーラに声をかけた。「なるべく早く自由にするから。そっちもがんばって。」


 ソルは枷付きの両手で相手と組んだ。力ではソルの方が上回った。

格闘家がソルの両腕を横に流した。ソルは足技で攻めだした。ことごとく防がれてしまう。

枷を振るって攻撃してみる。「ぐぉっ!」ソルが殴られて、地面に倒れた。

格闘家は追い打ちはかけてこなかった。立ち上がるまで待っている。

「一気に終わらせないのか?」

「すぐに終わらせたら、おもしろくないだろ。」

「そうか。」

 もう何回か倒されてからソルは根をあげた。「やっぱり、ベテラン相手にハンデ戦は無理かぁ。」

「ソル、そろそろいいでしょ!?」フローラが声をかけてきた。

「うーん。このまま負けるのはイヤだから、ズルさせてもらうか。」とソル。

 立ち上がり、両手首をひねるとガチっと音がして、手枷がはずれた。

「自分で枷をはずせるのか!」格闘家が叫んだ。男達も唖然としている。

そのスキにセーラが捕まえられている手を引き離した。

ソルははずした枷を武器代わりにして、男達のほうへ駆けた。

「待て!」格闘家が後を追いかけようとしたが、猪人の猛進はすさまじかった。

格闘家はソルを追いかけるのをあきらめた。


 「あなたの方こそ待ちなさい。」フローラが格闘家に詰め寄ってきた。

「剣を持った相手とも対戦できる?」

「やめとくよ。あの猪人よりアンタの方が強いんだろ?」

「同じくらいよ。」適度な間合いで足を止めた。


 ソルは枷で男達をなぎ倒していった。

「そこまでだ!」残った一人が再びセーラを捕まえていた。

ソルはやもなく動きを止めた。

「ソル!」フローラがショートソードを投げてよこした。

フローラは普段、ソルが使っている剣を引き抜いて両手で構えた。

「ソイツを痛い目に会わせたら、オマエを切る。どうする?」ソルが男にせまった。

「わかった。降参する。許してくれ。」男はあっけなくセーラを離した。


 「通りがかりの雇われだったら、町から逃げてもいいわ。」フローラが格闘家に持ちかけた。

「そうか?すまないな。」格闘家は逃げだした。

残りの男達はロープに数珠繋ぎにされ、剣、首輪、枷を付けなおしたソルの前を歩かされて、連行された。


・女友達 ソル


 「あらためて、ありがとうこざいました。」セーラが二人に頭を下げた。

「いや、今日はオレが獲物だったから。」とソルが言った。

「友達だから見捨てられないって言ってくれたでしょ?」

「あー、あれは・・・。」

「最初に助けてくれた時から友達だったわ。そうでしょ。」

 ソルはセーラをじっと見つめた。

「セーラ、オレの子供を産んでくれないか?」

セーラが動きを止めた。しまった、嫌かな?

「ごめんなさい。私は幼い頃から相手が決まっていているの。」

ソルはがっかりした。

「そうか。そりゃこんないい女ほっとかれないよな。」

「ありがとう。ソルさんとは良いお友達でお願いします。」

「猪人とでも友達で良いのか?」

「もちろん。」セーラは手を差し出した。

「よろしく。」二人は握手した。

「フローラさんとも。」

「よろしく。」フローラも握手した。


 「二人はとても信頼しあってるんですね。枷が自分ではずせるなんて。」

「普段は手枷、首輪なしで対等の関係なの。」セーラに説明した。

「じゃ、ずっと獣人使いのフリと使われてる猪人のフリをしてたって事ですか?」

「そういうこと。」

「それなのに、私に使われるフリをしてくれたのね。ありがとう。」

ソルはテレた。

 その様子を見たセーラがきいた。

「あの、ソルさんは何歳ですか?フローラさんと私は近そうだけど。もしかして、年下?」

「8歳だ。」

「8歳なの!?」セーラが驚いていた。

ソルはセーラを睨みつけた。「俺は大人だからな。」

「猪人は成長が早くて、8歳で大人になるの。ソルは人間でいうと17歳くらい」とフローラが説明した。

 「そうなんですか。それじゃソルさんっていうより、ソル君って感じねぇ。」

「ソル君!?」ソルは拍子抜けした。

「そう、フローラさんも弟と一緒にいる感じでしょう?」

ソルとフローラは顔を合わせた。

「友達なら、いいか?」

「彼女ならいいでしょ。」

「は?」とセーラ。

「実は・・・」ソルは実の姉弟である事を明かした。

セーラは再び驚いた。


・見送り ソル


 「ソル君、又、ウチへ来てねー!」翌朝、セーラが見送りに来てくれた。

ソルは枷付きの手をあげて答えた。「結局、ソル君で決まりか。」ボヤいた。

フローラも手を降って「ふふ、女友達ができてよかったわね。」

「あぁ。」

二人は微笑みあって、歩き出した。

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