表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/43

8.農家の争い

・告白  フローラ

 「僕をあなたの恋人にしてください。」

「は?」フローラは何を言われたのかわからなかった。

後からやっと意味がついてきた。自分に告白をされる日が来るとは!!

「本気なの!?」

「もちろんです。」

フローラはあっけにとられた。

 フローラは今まで恋とは縁がなかった。

並みの男戦士よりも強かったので、近づきがたい存在だったし、同性と話が合うわけもなかった。目の前の小柄な彼は昨日、一緒に仕事をしただけだ。しかも、フローラが加勢しなければ、確実にやられていた。間違いなく弱い。


・宿の部屋 ソル


 部屋に戻ってきたフローラは機嫌が悪かった。

「又、からかわれたのか?」

フローラは女剣士という事で男の剣士から何かと言われる。

 ぐいっと酒をあおってから。「いいえっ。ちよっと言い寄られただけよ!私と付き合うなら、せめて同じ強さじゃないとっ。」

ベテランと言われる程じゃないと無理だろう。

「そりゃあ、なかなかいないだろうなぁ。」

ソルは苦笑した。自分もそうだが、フローラも苦労しそうだ。


・傭兵ギルド フローラ


 フローラは傭兵ギルドの店に入った。

カウンターではギルドの男が小柄な初老のおじさんと話をしていた。

「今すぐにどうにかしろと言われましてもねぇ。」

「のんびり待ってらんないんだ。すぐに声をかけられるヤツがいるだろ!?」

「まぁ、確かにいなくはないですけどね。」男がフローラを指した。

おじさんが振り返った。

「どういう状況なんですか?」フローラはギルドの男に尋ねた。

「今、来られたばかりで、受付もしていない状態です。だから、一切の保証なしです。

もし今、その方と契約されるのなら、こちらは関係なしで個人どおしの契約となります。」

 フローラは頷いてから、おじさんに向いた。

「女獣人使いを雇う気がありますか?二人分のお金でそれ以上の働きをしますよ。ただし、相棒の猪人を私と同じ扱いでお願いします。」

「猪人に人間と同じ扱いをしろだと?」

「はい、同じ食事、部屋は別で同様のものを。」

「家には娘がいる、猪人を家の中で離すわけにはいかん。」

「それでは、他の人を雇ってください。」

「俺が納屋で一晩過ごす。主と同じなら文句あるまい?」

「は、はい。」驚いた。主人の方が粗末なほうへ来るなんて!

「相棒は外にいるのか?」

「え!?はい。」

おじさんが驚いたままのフローラの前をドカドカと通り過ぎた。


・ギルド前 ソル


 ギルドのドア脇に繋がれ、座って待っていたソルは、扉が勢いよく開いたのに気がついた。小柄な初老の男が指を向けた。

「今から女獣人使いと共に明日、応援が来るまで、俺の農園を守れ。」

ソルはいきなりの事に驚いて、男の後に立ったフローラへ声をかけた。

「もう、仕事を引き受けたのか?」

「まだお名前も聞いてないんですけど。」フローラは男に言った。

 「そうだった。スティーブだ。明日、俺の息子達が着くまで農園を守って欲しい。」

「悪いヤツらが畑を荒らそうとしてるのか?」ソルが顔を引き締めきいた。

「悪いヤツら?そうだ。荒らされてはたまらん。守らなくては。」

「どうして急に?」とフローラ。

「突然の事で俺も驚いている。もう、近くまで来ているかもしれない。ぐずぐずしていられないのだ。」

 「悪いヤツから守るんだったら、オレはやってもいいぞ。」

「話がわかるな。よし、行くぞ。」スイーブが立って歩きだした。

「私はまだ引き受けるとは言ってません。」フローラが止めた。

スティーブが振り返った。

「何かまだ聞きたい事があるのか。」

「今のお話に嘘はありませんね?」

「ない。金は二人分払う。食事も俺と同じ物を出させる。」

フローラはスティーブをじっと見た。「引き受けました。農園へ向かいましょう。」


・農園 ソル


 「あそこが俺の農園だ。」スティーブが指した。

「あのへん全部が?個人の農園にしては広いですね。」フローラが答えた。

「家族だけでなく、人も雇っている。」

「これを二人で見回るのか。」荷馬車の荷台からソルが身を乗り出しきた。

手枷、首輪は外してある。付けていたら護衛ができないと納得済みだ。

「俺も入れて三人だ。」

「スティーブさんも?」フローラが驚いた。

「見張りくらいできる。悪い奴がきたら、お前らを呼ぶ。夜は三人が交代で見回れば良いだろう。」

「わかった。」ソルが答え、横でフローラもうなずいた。


 荷馬車が家に着くと、中から娘が飛び出してきた。「父さん!お帰りなさい。」

美人ではなさそうだが、お年頃といった感じだ。

スティーブがあわてた。「今すぐ家に戻れ!客を泊める準備をしろ!」

娘は荷馬車に乗っているのが猪人とわかると、慌てて家の中にかけ戻った。

「いいか、娘に指の一本でも触れたら殺すからな。」ソルを睨みつけた。

「相手にその気がなければ触れない。」

「そんな気などない!絶対ない!」

「そんな感じだな。」

 「お前はここで待ってろ!家の中にも入るな!」

フローラが顔をしかめた。「人間と同じ扱いをすると約束されたはずですが。」

「人間の傭兵でも同様の扱いをしたいくらいだ。荷物を置くだけなら、お前だけで済むだろう。すぐに農園を案内する。」

 ソルはそのまま荷台でフローラを待った。本当にすぐに戻ってきた。

「荷物は部屋まで持っていってもらえるそうよ。ソルの分は後で納屋へ私が持っていくから。」

「そうか。わかった。」

さほど待たずにスティーブも戻ってきた。「さて、行くぞ。」


・見張り ソル


 三人で農園を一周し、持ち場を決めた。

日が暮れるまで見張り続けた。何事も起こらなかった。

 フローラがソルの所へやってきた。「夕食にしましょ。」

「ここを離れていいのか?」

「夕食の間くらいでは、そんなに荒らせないだろうって。」

「それならいいが。のんびりした話だな。」

「今のところ何もおきてないからでしょ。早めに戻りましょ。」


 デッキのテーブルに三人分が用意されていた。

スティーブ、フローラ、ソルが席についた。

「天気が良いから外で食べるのも良いだろ。」

「しゃれてるなぁ。」ソルはキョロキョロ見渡した。

フローラが気むずかしい顔をしているのに気がついた。

「どうした。何かおかしな物でもあるのか?」

「いえ。まぁ、確かにいい夕暮れだし、この家の主が一緒に食事をするのだから、これは好優遇よね。」

「?」ソルはフローラの言っている事が良くわからなかったが、食事を優先することにした。


 夕食は盛り沢山だった。終わり頃に娘がお茶を持ってきた。ソルはつい、じっと見てしまった。子供を作るには申し分なさそうだ。

「置いたらすぐに家に戻れ。もう、持って来なくて良い。呼ばれれば取りに行く。」

スティーブが娘に荒く言った。

「ソルでしたら、17才の人間の男と変わりなく、襲いかかったりしないから大丈夫ですよ。」

フローラが娘に声をかけた。

「17才の男?ますます近づけたくないな。」スティーブが即答した。

娘とフローラが驚いて、スティーブをまじまじと見た後、顔を合わせて苦笑いした。

ソルはどうしたら良いかわからず、むしゃむしゃと食べる事に専念することにした。


・納屋 ソル


 夜は交代で見回る事にした。

スティーブが戻ってきた音でソルは目を覚ました。「家の中で寝ないのか?」

「納屋で寝る約束をしたからな。気候も良いし、懐かしい。」

「懐かしい?」

「子供の頃は弟と一緒にわらの山で寝たものだ。」

 「弟がいるのか。」

「いたんだ。この農園は父さんと三人でここまで広げた。弟は新しい作物を作りたがったが、俺と父さんに反対されて出て行ったんだ。」

「音沙汰がまったくなくて昨日になって、弟の息子だと言う男が訪ねてきた。弟は去年、病気で死んだと言う。今更、農園の一部が欲しいと言われて、すんなりOKできるわけなかろう。再度、味方を引き連れて来ると言って去って行った。」

 ソルは慌てた。「おい、襲ってくるのは弟の息子なのか?」

「悪者を何人か引き連れて来るに違いない。ここを守らなくては!」

「同じ父さんの血を引く者どおしで争うのか!?」

「あちらがその気なら、しかたあるまい。」

「人間は血の繋がりを大切にしないんだったな。猪人と人間でもわかり会えるのに。」

「お前とあの女剣士の繋がりが、どれ程のものだと言うんだ?」

「オレはフローラを信じてる。」

「ふぅん。相手もそうだといいな。」スティーブは本気にしていないようだった。


・朝食 ソル


 翌朝、フローラが納屋へやってきた。「朝ごはんができてるわよ。」

「姉さん。オレはここは襲われないと思う。」ソルは浮かない気持ちで言った。

「姉さんだと!?」

スティーブが驚いているのをよそにフローラはソルに答えた。「どうして、そう思うの?」

「それは・・・。」ソルは言いよどんだ。

「話は食べながらでも良いだろ。せっかく妻が用意したものが冷めてしまう。」

スティーブはさっさとデッキへと向かい始めた。ソルとフローラは顔を見合わせてから、後を追った。


 食事をしながらソルはフローラに理由を話した。

「ソルの言う事はわかった。どうしても嫌なら、ここで仕事を終わりにしてもいい。お金には困ってないし。」フローラは口を開いたスティーブを手で制して続けた。

「でも万が一、甥子さんが悪い奴らを連れてきたらスティーブさんが困ってしまうから、どんな人達が来るか確かめるまでは、ここにいましょうよ。」

「わかった。そうする。」ソルがうなずいた。フローラはスティーブの方に向いた。

「猪人は人間よりも血の繋がりを大切にします。だから同じ母から生まれた私を姉と慕ってくれています。それで一緒に旅をしています。」

「本当の姉弟なのか。」スティーブがつぶやいた。

「私達が一緒だからこそ、ソルは血の繋がった甥子さんを信じたいと思うんです。」

「そうか、血の繋がりがあれば人間と猪人でも、わかりあえると・・・。」


・援軍 ソル


 「あなた。」スティーブの妻が急ぎ足でテーブルへ向かってきた。

「ここは、俺にまかせろと言っただろう。」

「昨日来た甥が又、来たんですよ。」

スティーブが立ち上がった「何人連れて来た!?」

「奥さんと赤ちゃんの二人。」

「何!?」スティーブは口を開いたまま動きを止めた。ぶるぶると頭を振って、

 「確かめて来る、しばらく待ってろ!」言いながら走りだした。

妻はソル達に軽く頭をさげて、急いで夫のあとを追った。

「戦闘にはならなそうだな。」ソルが言った。

「そうね。話し合いにしかならないでしょ。」フローラがにっこりとして言った。


 しばらくしてからスティーブが戻ってきた。

「お前の言うとおりだった。仕事はこれで終わりとする。帰りは送っていけないが、歩いて帰れるよな。」

「あぁ、歩いて帰れる。」ソルが答えた。

「代金だ。送れないのと、いくつか教わったから、上乗せした。」

「何か教えたのか?」ソルがフローラに聞いた。

「さぁ、何かしら?」フローラがにっこりして答えた。

「猪人とでもわかりあえる。お前が教えてくれた。」スティーブがソルに手を差し出した。

「そうだ。人間とでも仲良くできる。」ソルはスティーブの手を握った。

「息子達とも話合って甥となんとか、うまくやってくよ。」

「うん。きっとできる。」


 「さ、行きましょ。スティーブさんはこれから強力な援軍を相手にしないといけないから。」

「あぁ、あれはかなり強力だ。」スティーブは苦笑いした。

「甥の妻は剣士だったのか?まさか、赤ん坊は闘わないよな?」ソルがスティーブに聞いた。

フローラは笑いながら言った。「あとで、ソルに交渉術の初歩を教えてあげる。剣を使わずに相手に勝つ方法よ。」

「そんなのがあるのか!?ぜひ教えてくれ!」ソルがフローラに詰め寄った。

「歩きながらね。」フローラが身を引きつつ答えた。

 「かわいい弟だな。」スティーブが目を見開きながら言った。

「なんで、オレがかわいくなるんだよ!」ソルがスティーブに吠えた。

「仲の良い姉弟だなという意味よ。さ、行きましょ。失礼します。」フローラがソルをうながした。

「そうか?それならいいんだ。じゃぁな。」ソルはフローラの後について歩きだした。

スティーブは、しばらく二人を見送っていたが、あわてて家の中に戻っていった。


・帰り道 ソル


 「なぁ、ホントに妻と赤ん坊が強力な援軍なのか?」並んで歩きながらソルが訊いた。

「ソルだって、妻と赤ん坊を泣かせるような事はできないでしょ?」

ソルはしばらく考えた。「うん、そんな事はやっちゃいけない。」うなずいた。

「だから、赤ちゃんの父さんに酷い事はできないのよ。二人が泣いちゃうでしょ?」

「勝てないじゃないか!」

「そう。スティーブさんは三人と仲良くするしかない。」

「俺達はどうするんだ?援軍はいないぞ。」

「私達は二人で協力すれば、まぁ負けないでしょ。」

「そうか、そうだな。」ソルとフローラは微笑みあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ