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5.護衛

・村中で ソル


 ソルは店前の柱に飼い犬のように繋がれていた。立っているだけで恐がられるので、

座って待つことにしている。背を柱にあずけて、行き来する人々をぼぅっと眺める。あちらが、めずらしそうに眺めていくのはしかたない事だとわりきっている。

村中で女とすれ違っても意外な程に落ち着いている。

 そういえば、母さんは必要とあれば、一人で猪人の村中を歩いたという話だ。

途中で襲われないという事は、順番が決まっているからか皆、むやみにやったりしないという事だ。


 森で狩った獲物を売ってもらった後、宿に入った。

獣人OKだった。以前、狼人と人間の傭兵ペアが泊まった事があるそうだ。

この二人にはそのうち会う事もあるだろう。

 フローラが食事を持ってソルの部屋へ入ってきた。「お待たせ。」 

「うまそうだ。」

 最近、同じ部屋で食事ができるようになった。

フローラに女を感じないというか、女と意識しないようにしているというか。

仲間といった感が強い。



・強盗 ソル


 村から出てしばらくして林の中に入った。

「そろそろ、枷をはずしてもいいかしらね。」フローラが声をかけてきた。

「だめだ。人間がいる。」ソルが答えた。

フローラが「どこに?」と訊ねる前に、男達4人が林の中から出てきた。

全員、剣を抜いている。そこまではわからなかった。

 「その獲物をこちらへよこせ、お前は見逃してやる。」一人が言った。

「強盗なら、やっつけてもいいよな?」フローラに訊いた。

「襲われたら自分を守らないと。お互い、なるべく一人残すってことにしない?」フローラが答えた。

「余裕があったら、そうする。」答えながら腕をひねった。ガチッと音がして、手首の枷が外れた。

「おいっ、自分で外せるのか!?」強盗が叫んだ。

「村人を怖がらせない為の演出なの。」

 フローラが説明している間にソルは背負っていた剣を抜いた。フローラも腰につけられている、剣を抜いた。


 顔を見合わせ二人で敵に突っ込む。

「うおぉぉぉぉ!」吠えながら両手で剣を強く打ち付けて相手をひるませ、片手で腹を横から切る。敵が腹を抱えて横たわった。手ごたえはあった。即死でなくても重傷は確実。

横でフローラも敵の首を切りつけたようだ。

 残りの一人がソルに切りつけてきた。左腕のガントレットで剣をはじき、

右腕の肩近くを切った。敵は傷口を押さえてうずくまる。

剣を向けて言った。「降参しなければ、殺すぞ。」

男は剣を手放した。「降参する。」

フローラの方も男が肩を押さえてうずくまっている。

 しばらく後、枷をつけてフローラに連れられているソルは、さらに前に縄をつけた男二人を引き連れて、村へ戻った。


・依頼 フローラ


 フローラは男達を引き渡し、手続きをした後、別部屋を用意され待たされていた。

 「お前が”獣人使い”か。」部屋に入ってきた男が言った。

「何か誤解をされているようですね。私は猪人を道具として使っていませんので。」とフローラ。 

「そうか?猪人を使って強盗を捕らえたと聞いたが。」

 「それを言いたくて、引き留めたのですか?」

男はかぶりをふって言った。「実力を見込んで、護送を頼みたい。」

「護送ですか?」

「護送車に一人乗せて、隣の村まで。」

「いずれにしろ、彼に負担をかけるわけにはいかないので、おことわりします。」

 「猪人には檻付きの車を用意する。」

「動物用の檻では困ります。人間用の護送車をもう一台用意していただかないと。無理でしょう?」

「それなら一台の護送車に両方乗せれば良い。」

 「そんな事せずに、他の人に頼めば?」

「明朝、出発の予定なんだが、護衛の人間はさっき君達が使い物にならなくしてくれたのでね。」

「あんな悪党共に依頼したんですか!私達のせいにされても困ります!」

「君達に責任を取れというわけではない。だから、実力を見込んでと言っている。」


 「・・・。一緒に乗せるというのは、護送者の身の安全は保証されなくても良いという事ですか?」

「そう、私はすぐにでも殺してしまいたいのだが、隣村の人物が護送を切望していてね。」

「逆にこちらの猪人の安全は?」

依頼人は驚いた「猪人の安全なんか考える必要があるのか?」

「キズモノにされては困るという事です。」

「アイツに猪人をどうこうできるとは思えんが、心配なら護送者を縛っておいて良い。」

「今夜、宿泊する部屋を二つ用意していただけますか?」


 フローラはあてがわれた宿の部屋でソルに依頼を受けたいきさつを説明した。

「フローラがやると決めたんなら、いいんだけど、いやな感じだな。」ソルは首をひねった。

「さすが、わかってる。」

「どういうことだ?」

「断っても脅されてやらされたかもね。」

「そうなのか?なぜわかる。」

「ドアの外にゴツイ男達が控えていたから。」

「なんでそんなにオレ達にやらせたいんだ?」

「さぁ?ひと暴れしないとやめられなさそうだし、車が町を出るまでは大丈夫。」

「町を出たら?」

「身が危なければ車を置いて逃げる。」

「そうか。わかった。」


・護送者 ソル


 ソルは手枷をはめたまま護送車に乗り込んだ。先に乗せられていた護送者はフード付きの外套を着せられて顔もよく見えなかった。手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされているようだ。ソルに気づくと目を見開いて、体を車の隅に押し付けて、震えだした。話を聞かされていないらしい。

護送車が動きだした。

 ソルは相手に言った「オレ達はオマエを守るのに雇われた。オレを襲わなければ、オレもオマエを襲わない。約束するか?」相手はただ震え続けるだけだった。

「そんなに怯えるな。何もされなきゃ、襲ったりしない。いいな?」

相手は必死にガクガクとうなずいた。

 「そうか、それじゃ」ソルは腕をひねった。ガチッと音をたてて手枷がはずれた。

相手はさらに目を見開いて体をのけぞらせた。

「オマエもほどいてやる。頭をこっちへ出せ。」相手は軽く頭をふって、嫌がった。

「襲うつもりならとっくにやってる。それとも、そのままの方が良いか?」

相手は、おずおずと顔を下にして頭を差し出してきた。

ソルは相手のフードをとって、猿ぐつわをはずした。「オレはソルだ。オマエは?」

相手は顔をあげた。「レジーナよ。」顔をこわらばせながら女が答えた。


 え?女!?ソルは目を見開き、体をのけぞらせた。女だとは思わなかった!フローラに知らせて、ここから出ないと!レジーナがソルの様子を見て、目をパチクリさせている。

 う、驚かれてる?そういえば、いろいろ聞いてみて欲しいと言われていたんだった。落ち着け。話くらいできなくて、どうする。フローラに知らせるのはそれからだ。


 体を元の位置へ戻した。「相手が女とは聞いてなかった。」

「あ、あの私を殺さないんですか?」

「襲われなければ、襲わないと約束したからな。」なんとか落ち着いて相手ができそうだ。

「猪人を襲うなんて、できるわけないじゃない。」

「寝ているところを襲われたら死ぬ。手足も出せ。」

ソルはレジーナの手足の縄をほどいた。

 「ところでどんな悪い事をしたんだ。」ソルは尋ねた。

「聞いてないの?」レジーナが問い返した。

「外にいるフローラも聞いていない。ワケを猪人にもわかるように簡単に教えてくれ。」

「猪人にも解るように?」

「人間の事はよく解らない。」レジーナは頷いてからソルに説明した。


 「つまり、隣村の人間はオマエが書いた紙束が欲しいという事か?」

「そう。あなた方の依頼人は私ごと無かった事にしたいの。でも、あそこで私を殺したり、紙束を燃やしたりしたら、かえってひどい事になる。だからこの先で車を襲うようにしくんでるわ。」

「自分で用意した車を自分で襲うのか?」なんか、だまされた気分だ。

 「チキショウ、気にくわないぞ。」

「私もよ。」ソルはレジーナを見た。

「そうか、それは気が合うな。」ソルは右手を差し出した。レジーナはじっとソルの手を見つめた後、握手した。

「よろしく。猪人と握手するなんて初めて。」

「オレもあまりした事がない。」

「変わった猪人ね。」

「そうだな。」ソルは苦笑した。


・襲撃 ソル


 フローラに状況を伝えた。

「本当は護衛も一緒になってレジーナを襲うはずだったのね。」フローラがつぶやいた。

「これは私達ごと殺すつもりかな。」

「そうなのか?じゃ、逃げよう。」

 「もう、来たわよ。」護送車が止まった。

ソルはレジーナに声をかけた。

「お前はここから出るな。」

フローラから、剣を受け取った。手枷が左腕のガントレットの上に着けられていて、

盾がわりにされている。


 レザーアーマーを付けた6人が馬車で道をふさいでいる。

一人が言った「車を置いていけば、お前たちは見逃してやる。」

「アイツを見捨てるのはイヤだ。」ソルはフローラに訴えた。

「逃げ出す方が頭いいとは思うんだけど、私もあいつらの好きにさせたくない。」

「じゃ、全滅させるしかないな?」

「できれば一人残して。ソルは車を背にレジーナさんを守って。」

「おう。」


・ フローラ


 ソルの方へ四人いった。少し離れて構えるフローラに二人が迫ってきた。

大柄な男が一人を止めて近づいた。

「あんた結構強いんだってな。だが、俺は昼の奴らよりも腕が上だ。やめとくなら今のうちだぞ。」

「へぇ、それは倒しがいがありそうね。」

「しかたないな。」二人は剣を構えて対峙した。


・ ソル


 一方ソルのほうは「頼みがあるんだが。」

「なんだ?命ごいか?飼い主見捨てて逃げたいか?そんなのダメにきまってるだろ。」

「そうじゃなくて、あっちの戦いを見たい。あっちが終わってから始めないか?」

「飼い主の最期を見届けたいのか。まぁ、いいだろう。」

お互い警戒しながら二人の戦いを見守った。


 フローラと大男は剣を打ちあわせ数撃の後、つばぜりあいとなった。

フローラがぐいっと男を押してわずかに離れた。男は剣の角度を変えて首を守った。

だが、フローラの突き出した剣はそれより下方の横腹を貫いた。

「ぐぁ!」男は傷口を押えてうずくまった。フローラは頭を蹴飛ばし大男は倒れた。

フローラは動きを止めず、もう一人に切りかかり、こちらも数撃の後に右わきを押さえてうずくませた。


 「同じ所ばかり狙うわけないだろ。バカだなぁ。」ソルが漏らすと、

囲んでいた四人があらためて視線を集めてきた。

「俺達は違うぞ!」四人がうなずいた

「そうか?それでどうするんだ?あっちに三人行くのか?」

四人は顔を見合わせ、しばらく動きが止まった。と、次々と逃げ出し馬車で走り去った。

 「まだ戦えるのに逃げるなんて、情けないヤツらだ。」剣を収めてフローラへ歩み寄った。

「昼に四人やっつけたから、かなわないと思ったんでしょ。」

「コイツらはどうする?」うずくまった二人を見やった。

「た、助けてくれ。」気を失っていない一人が涙目でうったえてきた。

フローラは肩をすくめた。

 「レジーナさんには御者台へ来てもらって。手足を縛って車内に押し込みましょ。」

「悪者はほっといても、いいんじゃないか?」

「着いた先で誰に雇われたか話してもらいたいのよ。」と悪者を見下ろした。

「は、話すから助けてくれ。」男は必死だ。

「ふーん、捕虜って事か。」

「そんなところね。死んでほしくないから手当してあげて。」

「おいっ、コイツに手当させるのか?」悪者が驚いた。

「私よりうまいから大丈夫よ。」

「あぁ、たぶんオレのほうがうまいぞ。」フローラに軽く睨まれた。


・ フローラ


「ソルを信頼してるんですね。」レジーナがフローラに言った。

「ええ。とっても。」

「うらやましい話ね。人間どおしでも信頼しあうのは難しいのに。」

「彼とはいろいろあったので。最初は本気で殺し合いましたから。」

レジーナは驚いたようだった。しかし、穏やかに言った。

「今これだけ信頼できているのであれば、それも必要だったのかもしれませんね。」

「そうね。この件もうまく収まると良いのですが。」


 護送先でレジーナもソル達も丁重な扱いを受けた。

「話を解っていただいて、ここで雇ってもらえる事になりました。」とレジーナ。

「それは、よかったですね。私達もボーナスまでいただけましたし。」にこやかにフローラが言った。

「お互いよい結果でなによりです。この村へ又、来ることがあったら声をかけてください。たいした事はできませんが、歓迎しますよ。」

「ありがとうございます。」

「オレも歓迎してもらえるのか?」とソル。

「もちろん。恩人ですから。」

「そうか、恩人か。よかつた。」

「はい。」


 歩きながらフローラはソルに言った。

「この先、たまに護衛の仕事を引き受けても良いかなと思うんだけど、どう?襲われなければ、戦闘しないし。」

「悪人だったら切っても良いよな?だったらやりたい!」ソルは嬉しく思ったが、すぐに真顔に戻った。

「人間は同じ人間を簡単に殺すんだな。仲間も置いて行くし。」

「人間は猪人ほど同族であることを重視しないのよ。私達は人間とも、猪人とも仲良くやっていかないと。」

「そうだな。まずは、姉弟からだよな。」

「そうね。」

二人は微笑みあった。

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