9ー1番外 セーラの婚約
・ セーラ
彼は席に着くなり話し出した。「猪人を使って荒くれ者を退治したんだって?」
彼はウチより大きな商店の跡継ぎだ。噂を聞いて慌てて会いにきた。
「そうよ。私は見習い獣人使いになったの。」
「・・・いつの間に。どこから猪人なんて仕入れたんだ?今は家に置いているのかい?」
「あの場だけの話よ。彼は旅を続けて、ここにはもういない。」
「彼?ずいぶん猪人と親しくなったんだな。」
「彼からはプロポーズされたわ。」
ガタっ彼は思わず立ち上がった。
「猪人がプロポーズ!?もちろん断ったんだろう!?」
「相手が決まっていて、来年には結婚するって答えたわ。そしたら、こんないい女ほっとかれるわけがないと言ってくれた。ねぇ、そうでしょ?」
「あぁ、それは・・・。」彼は言葉に詰まったようで、ゆっくりと椅子に戻った。
彼とは親どおしの約束があるだけで、今まで具体的な話はなかった。時々お互いの家を訪ねて、お互いその気でいると思っていたのに。
「私は彼に嘘を言ったのかしら?」なんか悲しくなってきた。
「君の左手のひらを見せてくれ。」突然言われた。
「何よ、占いできめるの?」疑いながら左手を差し出した。
「君の運命は決まっているだろ?」
左手をひっくり返され、指輪を差し出された。
「半年後に結婚式をしよう。」
驚いた。その気がある事を確認できればいいと思っていた。とっても嬉しい。
「はい、よろしくお願いします。」
薬指に指輪がはめられた。指輪をじっくり見ながらきいた。
「これまで何もなかったのに、どうして?」
彼はかぶりをふった。
「いい女をほっといたら、他人にとられちゃうだろ?さすがに猪人に取られるとは思わないけどさ。」
「あら、彼はすてきな人だったわよ。きっと私よりいい女を見つけるわ。」
「いい女って人間の?」
「そうよ。ソル君はそれほどの男よ。だから、私をしっかりつかまえといて。」
「そうするよ。」
彼は立ち上がって私に近づいてきた。