第一章 旅の用心棒 1.巡り会い
R18にならないように配慮したつもりです。
完結しているので、順次公開します。
・プロローグ
ある夜、村の一角が猪人の一団に襲われた。猪人とは半獣人の一種で、人間の体に猪の頭と体毛を持つ亜人のことだ。襲われた家の中には”獣人殺し”の異名を持つ戦士の一家も含まれていた。
素手でも猪人に負けないと言われた戦士も寝込みを襲われては、村を守ることはできなかった。男と子供は皆殺し、女は連れ去られた。一帯で生き残ったのは少女一人だけだった。
・成人式 ソル
猪人のソルは急いでいた。期待と喜びでいっぱいだった。
「よう、ソル。これから長老の所へ行くのか。」同い年の幼なじみ。ギムが声をかけてきた。
「よかったな。その格好も似合っているぞ。」ギムの一歳上の兄、ギリも声をかけてきた。この二人はいつも一緒だ。ギムとギリとはなれなれしい話し方ができる仲だ。
猪人は年上への敬語をしっかり教えられる。
猪人は一つの村が一つの家族で、8歳まで年上を"アニキ"、8歳以上を"オヤジ"と呼ぶ。年下は"弟分"となる。
「そうか?」ソルは少し照れて、自分の身なりを見直した。儀礼用の下帯に加えて、上着を身につけている。
「この半年長かったけど、やっと大人の仲間入りができる。」
ソルは小柄で発育が悪いとみなされ、8歳半になってようやく一人前と認められたのだった。獣人は人間の倍の早さで成長するので、人間だと17歳相当だ。
「次から一緒に戦えるな。」とギム。彼は半年前から後方で参戦している。
「どうせ、長老の一言で終わるんだ。さっさと行ってこい。」とギリ。
「あぁ。そしたら、剣の練習をしてくれ。」ソルはギムへ言った。
「いいけど、ソルとはやりづらいんだよなぁ。」ギムは顔をしかめていた。
「いつも負けるからだろ。」ギリがからかった。
「次は負けねぇよ!」ギムはいきまいた。
「を、言ったな。じゃ、ソル待ってるからな。」二人はそろって駆けていった。
「あ、"兄さん"待ってくれ。」
同じ母から産まれた者だけを"兄さん"と呼ぶ。
二人はそろって駆けていった。
ホント、あの兄弟はいつも仲が良いよな。兄弟のいないソルはうらやましかった。
・長老の言葉 ソル
「ソル。女戦士を始末してもらいたいのだ。もちろん、大人の戦士としてだ。」
30歳を超えるという長老から告げられた。
ソルは驚いた。大人と認められるだけと思っていたのに。
「ナイチンゲールをですか?」数日前から話題になっているヤツだ。女なのに戦士として参戦するだけでなく、ヤツの跳びまわるところには必ず死が訪れるのでそう呼ばれている。
「そうだ。これまで何人か首を切られている。知ってるな?」
「はい・・・。」突進が得意な猪人は身を軽くする為に、防具は軽く、少なめにしている。ここ数日で首の守りを足す者が増えてるらしい。
「なんでオレに?レッド先生なら勝てるでしょう?」レッドは剣の達人でソルの先生だ。毛に赤みがかっている。
「そのレッドがお前が勝てると言うのだ。変わった剣技を作ったそうだな。」
「先生がオレを・・・。」
ソルはレッドの指導を受け、猪人としては風変りなスタイルを創りだした。
他の猪人は大型の剣を両手で使うが、ソルはより小さい剣を使い、片手両手を柔軟に使い分ける。先生が自分に獲物をゆずってくれたのだ。
「ヤツをどうにかできたら、褒美をやろう。詳しい話はレッドに聞け。」
「はいっ。オヤジさん達のカタキをとってきます。」
「あまり気負うな。しっかりやってこい。」
「はいっ。」
ソルは長老の元を後にした。
・初戦 ソル
「そら、あそこにいたぞ。まずは、よく見ろ。」レッドが指した。
皮アーマーを多めに付けたソルは指の方向に顔を向けた。集団戦の経験がないソルはレッドに最前線まで連れてきてもらったのだ。
ナイチンゲールは、赤い皮アーマーで目立っている。すばやい動きで猪人達を翻弄している。猪人の剣を避け、細身の剣でアーマーのない部分を突き、脇を走り抜けつつ切る。別の者には首を切りつけ、かがんだ相手の肩を乗り越える。
なる程あれじゃ、やりづらそうだ。オレもまともに相手をしたら危ない。一発勝負だ。
「行ってきます。」レッドに告げた。
「おう、後ろは任せろ。」
ソルは剣を両手で構え、ナイチンゲールに向かってダッシュした。
ナイチンゲールが自分をターゲットにしたと見るや、右手だけで剣を突きだしながら身を沈めた。首を狙ってきた剣が頬を切るのにまかせ、左手で相手の剣を持つ腕を捕まえた。体を回しながら地面に倒れこみ、相手も地面へたたきつけ、動きを止める事なく自分の剣を離し殴った。
・ナイチンゲール ソル
「うぅ。」という声にソルは振り向いた。自分のベッドに横たわっているナイチンゲールがモゾモゾと動いている。
「気がついたか。」ナイチンゲールへ声をかけた。
「ここは・・・。」さるぐつわをかましているので、うまく話せないようだが、何をいっているのかはわかる。
「オレの家だ。」
「私を負かしたのはお前?」
「そうだ。」
「殺さずにおくとは余裕ね。後悔するわよ。」
「オマエにはやってもらうことがある。」
「それより、ジュディは無事なの!?」
「ジュディ?誰だそれ。」
「戦いになる前に女を連れ去ったでしょう!?」
「知らない。」
「しらを切るな!」
「本当に知らない。新しいオバさ・・いや、妻が来れば皆知る。」
「・・・。」ナイチンゲールは尚も睨みつけてくる。
「信じてないな?それより、オマエには長老に会ってもらう。」
ナイチンゲールの両手を後ろにくくり、首に縄をつけて自分の前を歩かせた。後ろを歩かせたら危ないと思ったからだ。
「ナイチンゲールを捕まえて来ました。」ソルは長老に女戦士を差し出した。
「よくやった、ソル。頬の傷はその時のものか?」長老が手当の跡を見ながら言った。
「はい。勲章です。」ソルはにこやかに答えた。
「そうか。レッドもたいそう喜んだろう。」
うなずいて答えた。「はい。コイツを連れて帰れたのも先生のおかげです。」
「約束の褒美をやろう。望みを言え。」
「どんなものでも良いですか?」
「褒美として妥当であれば、それを与える。」
「では、コイツが欲しいです。」ソルはナイチンゲールを指して言った。
「オレはこの半年、皆にさんざん半人前とバカにされてきた。子供を作れる大人だということを解らせてやる。」
二人のやりとりを黙って聞いていたナイチンゲールは、驚きのあまり目を見開いた。
「お前は手柄をたてて十分に一人前の証明をした。その女を皆の物にするのはイヤか?」
「じゃあ、最初にオレが子作りしたい!オレが捕まえてきたんだから、良いでしょう?」ソルは必死で敬語で話すのも忘れた。
長老は両脇の老人達に目配せしてから告げた。
「半年間その女をソルの専用妻とする。その間、他の女に手を出すことはゆるさん。」
「はいっ。ありがとうございます。」ソルは喜んで答えた。
ナイチンゲールはあまりの事にワナワナと震えていた。
「その女は、お前の母以上に手を焼くに違いない。気をつけろよ。」
「はい。」ソルはにっこりして答えた。
「ところで、長老。コイツの他に最近、女を捕まえたんですか?」
「いや、そんな事はない。どうしてそう思う?」
ナイチンゲールを指して言った。「コイツがオレ逹が最近、女を捕まえたはずだって。」
「そう言ってきた人間には、我々とは関係がないと返事をした。」
「それでなんで、戦いになってんですか?」ソルは首をひねった。
「人間からの言いがかりと思っている。」
「違う!本当にいなくなった!猪人に捕らわれたのを見たという人がいたと・・・。」
ナイチンゲールが猿ぐつわ越しに叫んだ。
「では、その人間が嘘をついているのだ。」長老がナイチンゲールを睨みながら言った。
「そんな・・・。では、戦いを止めさせないと!私を帰して!!」
様子を見ていたソルが驚いた。「だめだ!逃がさないぞ!!」
長老が手を上げて遮った。「それは我々に任せてもらおう。一兵士のお前では役不足だろう?」
ナイチンゲールは歯をくいしばった。
「我々も人間のいいがかりについては、隊長達にしか教えていない。理由がどうあれ、戦士逹は戦うしかない。」長老はソルに向かって言った。
ソルは頷いた。
「明日、使者を出して話し合いをする。安心しろ。」
「はい。」ソルはうなずいた。
・めぐり合い ソル
「女を縛りつけるなんて許されないが、オマエは戦士だ油断できない。」
ナイチンゲールは顔面蒼白でソルのベッドに手足を結ばれていた。
「オレの子を産んでくれ。」
「いやだ!猪人の子なんか産まない!」ナイチンゲールはソルを睨みつけながら叫んだ。
「オレの母さんは”獣人殺し”の妻だけあって、何度も子作りを拒んだ。けれど、オレを産んだ時には泣いて喜んで名前と乳をくれたそうだ。こんな女は他にはいない。オマエもそうしてくれ。」
「誰が母親だって?」ナイチンゲールが驚いた様子で尋ねてきた。
「”獣人殺し”の妻マリアがオレの母さんだ。」
ナイチンゲールは俯いてわなわなと震え、苦しげに言った。「お前、何歳だ?兄弟は?」
なんでそんな事を聞かれるのかわからず、きょとんとしたソルはそれでも素直に答えた。
「8歳だ。兄弟はいない。母さんは弟を産む前に死んでしまって、オレが物心ついた時にはもういなかった。オマエには弟がいるのか?」
「私に弟などいないっ!!いてたまるか!おぞましい!!」ナイチンゲールがものすごい剣幕でさけんだ。
「おぞましいって何だ?オマエ、何の話をしてるんだ?」
ナイチンゲールが何を興奮してるのかソルは不思議に思った。
ナイチンゲールが涙顔をソルに向けて言った。
「何の話?教えてやる!私の父は”獣人殺し”アレクサンダー。8年前、私が9歳の時に猪人に殺され、母マリアは連れ去られた。」
顔を伏せて続ける。「すぐに死んだと思ってた。」
「え!?オマエの母さんがオレの母さん!?」つまり、ナイチンゲールが姉さん!?ソルは唖然とした。
「ウソだろ?」信じられない。
「事実だ!」
「事実?」分からない言葉に又、ソルはきょとんとしてしまった。
「本当の事よ!お前が嘘をついているだろう!」ナイチンゲールが泣き叫んだ。
「オレはウソをついてない・・・・。」あっちの方が嘘にきまっている。
でも、”獣人殺し”アレクサンダーと妻の名を知っていた。では、ホントに姉弟??
ソルはあまりの事にものが考えられなくなった。
「・・・姉弟でも子供は作れるよな?」ソルはノロノロと考え進めた。
「やめた方が良い。体の弱い子が産まれやすい。」ナイチンゲールが答えた。
「そうなのか?」
「長老に確かめるといい。」
今すぐに長老に相談しないと。でもそうしたら、姉さんと別れる事になるのではないだろうか。ナイチンゲールは人間だ。敵だ。姉さんが敵。この場合は?
「オレはどうしたら良いか解らなくなった。」ソルは頭をかかえながら言った。
「・・・・」返事はなかった。
「一晩考えてみて明日、長老に相談する。」ソルはうつむきながらナイチンゲールから
離れた。
・母の血 ナイチンゲール
ナイチンゲールと呼ばれた女戦士はソルという名の猪人が別室へ去って行くのを見送った。
母さんがあのケダモノを産んだ!?信じられない。でも、あのソルという猪人は”獣人殺し”アレクサンダーの妻マリアが自分の母さんだと信じているようだ。
ソルが嘘をついていないとしたら、周りの猪人が話を作った事になる。何の為に?
何度も子作りを拒んだ?猪人は力まかせに犯さないのか?ソルも頼むところから始めていた。母さんは猪人に逆らって子供を産む前に死んだと思っていた。
猪人を産んだ事を泣いて喜んだって!?そんなはずはない。
他にこんな女はいない?こんなフレーズを聞くのは初めてじゃない。母さんは逸話に事かかない人だ。父さんとの結婚からしてもそうだ。”美女と獣人殺し”と言われるほど、母さんはとても華奢で父さんは猪人に負けない巨漢だった。ソルは父さんより小さいのではないだろうか。まさか,母さんの血が強いとか!?
母さんが名付けたって?ソル、太陽なんて名前、夏に産まれたからとか?
母さんは曲がった事が嫌いな人だった。ソルは規則に忠実らしく、長老に許可をとるまで手を出そうとしなかった。納得してしまいそうな考えを女戦士は頭を振って追い払った。
ナイチンゲールは猪人に対するこれまでの考えが実際と違うという事と共に、ソルと母の共通点を考えている事に気づいた。
そうだ、自分の事より、戦いを止めないと。でも、囚われの身では何もできない。自分の体を使ってでも、ソルを説得するべきだったか?
だいたい、あいつは何を悩んでいるのか。私を皆の共有にして、別の女を占有するしかない。そんな事も解らない程、頭が悪いのだろう。
結局、隙を見て逃げ出す以外にない。ナイチンゲールはジリジリと時を過ごした。
・囚人 ソル
ソルは大きな物音で目を覚ました。まだ暗い。何か騒がしい。外へ飛び出した。「敵襲だ!」という声が聞こえた。急いで引き返し、剣を背負う。目を覚ましていたナイチンゲールをベッドから離し、両手を後ろにくくり、首に縄をつけて再度、自分の前を歩せる。 「ここを出るぞ。でも、逃げるなよ。」ナイチンゲールに告げ、外にでた。ギムとギリにぶつかりそうになった。
「おいソル。女を連れて何をしている。敵襲だぞ。」とギム
「わかっている。コイツをあずけてすぐに行く。」とソル。
「急げよ。」と言ってギリは二人で駆けて行った。兄弟っていいよなぁ。
ソルは二人を見送った後、ナイチンゲールに急ぐようにうながした。
しかし、ソルは村の中心ではなく、外れを目指した。
「どこへ行くつもり?」村の境界が見えるに至ってナイチンゲールが振り返った。
「静かにしろ。村を抜け出す。」
「はぁ!?逃げるの!!??」
ソルは驚いたそんなつもりはなかったからだ。「そうなるのか。」
「違うの!?」
ソルは考えこんだ。
「ちょっと。お前は戦士でしょう?」
「そうだ。」
「じゃ、戦わないと。」
ソルは少し驚いた。「オマエ、オレに戦って欲しいのか?」
「え?そういえば・・・。でも、戦士としてゆるせない。」
「オマエはオレの物だ。だまって言う事をきけ。」
しぶしぶという感じでナイチンゲールは村の境界を越えた。
しばらく進んだところで人間達に囲まれた。
「おとなしく、その女を離せ。」人間の一人がソルに声をかけてきた。
「あっちへ行け。」ソルがナイチンゲールに低い声で告げた。
ナイチンゲールは驚いた顔をしたが、すぐに声をかけた戦士に駆け寄った。
「ロック、アイツを生け捕りにできないかな。」とナイチンゲールが言っているのが聞こえた。よけいなお世話だとソルが思った次の瞬間に後頭部に衝撃を受け、意識を失ってしまった。
どうやら、最初から生け捕りにするつもりで待ち伏せされたらしい。と気が付いたのは、運ばれている途中だった。
・人間の村 ソル
ソルは両手足を縛られて吊り下げられていた。ぱっと見、獣の猪を吊り下げているように見える。
バシッと体に木材が叩きつけられた。「ぐっ。」ソルはうめいた。先程から罵られ、
痛めつけられ続けている。人間ならアザだらけになっているのだろうが、茶色い体毛でわからない。しかし、ところどころ血がにじんでいる。
と、ソルはが女が部屋に入ってきたのに気が付いた。裸で吊るされているが、ジタバタしてもしょうがない。ソルは何も気にならないフリをした。何をしに来たのかとよく見てみると、ソイツはナイチンゲールだった!
「よう、フローラ。コイツに何か用でもあるのか?」ソルを痛めつけている男が声をかけた。
"フローラ"だって?ソルは今更ながら、"ナイチンゲール"は猪人がつけたあだ名だった事に気が付いた。
「別にソイツに用があるわけじゃなくて、ほどほどにしとけと言いに来たのよ。特にあんたよ、ロック。」ナイチンゲールことフローラがロックに答えた。
「そりゃ、わざわざどうも。お前はいいのか?恨みがあるだろ?ペットにされて愛着でも湧いたか?」ロックは下卑た笑いを浮かべて言った。
フローラが顔をしかめたのにソルは気がついた。コイツがイヤなのか。
「それは嬉しいな。人間とじゃもの足りなくて、オレと子供を作る気になったか?それなら明日の楽しみにとっておくんじゃなかった。」体を振ってみせた。
周りにいた男に顔を木材で殴られ。バキッ。「ぐっ。」続いて腹を突かれた。ドガッ。「ぐへっ。」
「もう一度言うけどね、猪人の子供なんか産む気はない。」フローラはソルに告げた。
「明日から家畜として使おうという意見もあるんだから、支障のない程度にしといてよね。」フローラがロックに注意した。
「俺はなぶり殺しにするべきだと思うがな。家畜にするなら去勢は必須だな。」
「それは今ここで決められない。こんな事してないで、祝宴に参加したら?もう、酒も食べ物も出てるし、ジュディを助けたビリーだけが主役をやってるわよ。もう一方の主役がここにいていいの?」
「すぐに行くよ。もちろん、相手をしてくれるよな?」
「助けてもらったお礼くらいは言うわよ。じゃ、先に行ってるから。」とフローラは言い残して出て行った。
・脱出 ソル
引き下ろされる音でソルは目を覚ました。
「いってぇ。」うめきながら、股間を押さえる。
「挑発するからよ。」フローラが近づいてきて、下帯を放ってきた。
「オレをどうするか決まったのか?」辺りがまだ暗いのを見ながら訊ねた。
「お前の処分は私が決める。他人の意向など納得できない。」
「どうするつもりだ?」
「一緒に来てもらう。」
両手をくくられ、首に縄をつけられ、フローラの前を歩かされた。
「前と逆になったな。」ソルは村を出てからフローラに話かけた。
「明るくなってきたから、黙って急いで歩け!」
「・・・・・。」
ソルは村を出てしばらく歩いた後、前を見ながら言った。「頼みたい事がある。」
「なんで、お前の頼みをきかなきゃいけないのよ!」
「もう、戦いにでるな。次は殺されるぞ。レッド先生はオレよりはるかに強い。」
「・・・死ぬのを怖れてたら戦士はできない。最初から解っている事よ。」
「せっかく人間の村に戻ったんだ。長生きしてほしい。」
「ジュディは無事に連れ戻された。猪人のせいじゃなかった。この戦いは終わる。」
「そうか、良かった。」ソルはほっとした。
切り立った崖の上まで来て、端に押しやられた。
「どうして、私を逃がしてくれたの?」フローラは低い声で尋ねた。
「オレはそんな事してないぞ。」ソルはとぼけた。
「村から連れ出して、すんなり人間へ引き渡した。」
お見通しか・・・。ソルは正直に話すことにした。
「この先、姉さんに嫌われつづけるのはイヤだ。それに・・・。」これは言いにくい。
「何なの?」
ソルは顔をそむけながら言った。「その方が母さんが喜ぶかなって・・・。」
顔を戻して聞いた「オマエは母さんに似ているのか?」
フローラは顔をしかめたが、すぐに表情を戻して言った。
「私は大柄な父さん似。だから戦士になれた。私を逃がしたら、次はお前を殺すってわかってたわよね?嫌われたほうがマシじゃないの?」
「猪人の子を産みたかったか?」
「何度でも言う、お断りする。」
「姉さんの事を考えたら、逃がすしかないだろ?」
「長老が何と言うか考えた?」
「村から追い出されるかも。」
「それでもまだ、人間の私を姉さんと言うの?」
「敵とかカタキとか、妻と考えようとした。それでも自分の姉さんだと思ってしまうんだ。もう他に考えられない。」ソルは首をもたげ、左右に振りながら答えた。
フローラはしばらく黙ってじっとソルを見ていた。
「お前の名前の由来は?」突然きかれた。
「由来って?」フローラの顔を見た。
「どうしてソルという名前になったのか。」
「太陽がいっぱいの季節に生まれたからソルと・・・。なんでそんな事を聞くんだ?」
フローラは顔をしかめた。「花がいっぱいの季節に生まれたからフローラ。」
そうなのか、姉さんも母さんから名をもらったのか。なんか嬉しい。
「それじゃ、崖から飛び降りるか、私の剣を受けるか、好きな方を選びなさい。」
フローラは剣を構えながら言った。
「逃がしてくれるのか?」ソルは驚いた。
「高さはそうでもないけど、急流だから助かるとはかぎらないわよ?」
「なぜ、逃がすんだ。」
「私を逃がしてくれたお返しがしたいだけ。」
「・・・ありがとう、姉さん。」
「私を二度と姉さんなんて呼ばないで。次に出会ったら、ためらいなく殺す。」
ソルはうなずいた後、崖から飛び降りた。
この世界に銃はまだありません。
語り口が安定しない。視点が不安定。段落とか字下げとか。
拙い文章ですが、ひき続きお願いいたします。