或る廃墟にて
私の家から数十メートルのところに「出る」と言われている場所がある。そこは元々大きな100円ショップで、10年ほど前に潰れてから看板も剥がされ、新しい店になるでもなくずっとそのまま放置されている。
その廃墟はあまりにも近所なので、夜になると男子たちの声が聞こえてくることがある。
それはいつも同じようなバカ騒ぎから始まり、数分後に突然止む。複数人で騒いでいたのに、だ。
そんな出来事が何度もあったにもかかわらず、私の学校にはそこへ肝試しに行ったという子が1人もいなかった。
私は不思議だった。
100円ショップが騒がしい時に、何度か知っている声を聞いたのだ。それなのに、翌日学校に行って聞いてみると皆「行ってないよ」と口を揃えて言う。
普通、怖いものを見たら誰かにその話をするはずである。友達を巻き込んで道連れにしたり、本当にヤバかったのなら注意喚起をするはずだ。
なのに、彼らはそのどちらも選ばなかったし、私に「行っていない」と嘘をついた。それがいったいなにを意味するのか、私には分からなかった。
こんなの、明らかに普通じゃない。人智を超えた何かの存在まで感じてしまうほどだった。
当然怖い。
しかし、今の私の好奇心は僅差でそれに勝っていた。
こんな一時の感情でヤバいものを見に行くわけにはいかないので、私は寝ることにした。好奇心なんてものはホラー小説に出てくるバカ主人公の死亡フラグ以外のなにものでもないのだから。
翌朝、目が覚めると恐怖心がなくなっていた。どうやら寝ている間に巨人と化した好奇心に踏み潰されてしまったようだ。
私はすぐに着替えてあの店へ向かった。
普段は前を通らないように遠回りをして学校に行っているので、正面から見るのは数年ぶりだった。
駐車場には車が10台ほどあって、入口の前には大きなトラックが駐まっていた。
なんというか⋯⋯ホッとした。ああは言ったものの、やはり幽霊は怖かったのだ。幽霊の線が消えてくれて助かった。
窓は全て目張りされていたが、ちらほら隙間があったので、中を覗いてみることにした。
中には棚も机もなにもなく、ただ十数人の人間が円になって内側を向いて立っていた。その十数人は全員が全員大きく口を開けていて、魂の抜けたような顔でボーっとしていた。
いいご身分だな、と思った。私はこれから学校なのに。4時過ぎまで帰れないのに。朝っぱらからこんなゆっくり出来るなんて無職はいいなぁ。
その後は怒りを抑えながら登校し、いつものように1日を過ごした。あの店の中を見たのになにも変わらない。こんなものかと思った。
⋯⋯夜、行ってみるか。
ということで、夜に来た。朝と同じくらい車もあってトラックもあるし、中は普通に電気ついてる。どっかの会社がこの場所を借りて何かやっているのだろうか。
朝と同じ場所から覗いてみると、今度は少し様子が変だった。
十数人が円になっているのは同じだが、全員が口から真っ黒な何かをゴポゴポと零しながら、大粒の涙を流していた。
見てはいけないものを見てしまった。そう思った瞬間、全員がこちらを振り向いた。そして後ろから肩を叩かれた。
後ろを向くと、私と同い歳くらいの女の子が1枚の紙を持って立っていた。
『他言無用』
そう書いてあった。
そして数秒後、女の子がニッコリ笑って「分かった?」と私に声をかけた。
私は「分かった」と返事をし、すぐに家に帰った。
でも、本当は分かってなんかいなかった。
私バカだから、アレ読めなかったんだ。
言う、しか分かんなかった。
⋯⋯勉強しよ。
もちろん次の日にみんなに話したよ。めっちゃ怖かったもん。あんな怖い体験、黙ってらんないよ。うん。