「親の失態で手に入れたお金だとしても」
「大丈夫? ごめんね…………」
「大丈夫、びっくりしただけ」
心優は転ばせてしまった少年をソファーに座らせ、両手を握りながら何度も謝る。
焦りに焦っていたため、まったく気にしていない少年の様子に一安心。
目線は、窓側に座っている犬宮に向けられた。
視線を向けられている犬宮は気にせず、机の引き出しに入っていた本を片手に読んでいる。
心優は少年の目線を追うように犬宮へと顔を向けた瞬間、すぐに彼の元に走り持っていた本を取り上げた。
「気になるならあの子を親御さんへ届けてから解説付きで読み聞かせしてあげますから! 今は読まないで!!!」
「心底必要ないから安心して」
犬宮が手にしていたのは、心優の宝物であるBL本。
やっと気になってくれたのかと、怒りつつも喜んでいた心優は、彼の言葉に涙を流す。
その際に呪文のような言葉をぶつぶつと呟いているが、犬宮は欠伸を零しながら心優を無視、少年へと近づく。
その際、犬宮は鼻をスンスンと動かし、誰にも気づかれないようにニヤリと笑う。
最古の隣に座っている少年の前に片膝を付き、目線を合わせた時には、いつもの無表情へと戻っていた。
「君、名前は言える?」
「えっと、僕は、たかぎたくまだよ」
少年の名前は高木拓真。明るい茶髪が乱雑に切られ、前髪はガタガタ。
体は細く、肌も白い。服はぼろぼろで、臭いが気になる。
どのような環境で育ったらこのようになるのか、想像すらしたくない。
「何でここに来たの」
「たんていじむしょに、来たかったから。。ここは、たんていじむしょ?」
「そうだよ、ここは俺の探偵事務所だ」
子供の言葉に合わせ、犬宮も質問を続ける。
「探偵事務所に、何かお願いしたい事でもあるのかな」
「…………ある」
「何をすればいいのか。お兄ちゃんに教えてくれる?」
犬宮は顔色一つ変えず、拓真に合わせ情報を聞き出す。
だが、最後の質問に対して、拓真が急に黙り込んでしまった。
顔を俯かせてしまい、心優は犬宮がどうするのか見続ける。
「――――翔」
その時、何を思ったのか。
隣でニコニコ笑顔を浮かべている最古を横目で見た。
――――犬宮さん、いきなり最古君を呼んでどうしたんだろう。
最初は何の反応も見せなかった最古だったが、何をすればいいのか察し、首を縦に振った。
すぐに最古は顔を俯かせている拓真の手を握り、顔を覗き込み目線を合わせる。
数秒後、やっと話す気になった拓真は顔を見上げた。
「お、にいちゃんが、い、なくなった。もう、何日も帰ってきてないの。お願い、おにいちゃんを、見つけて…………。あと、おかあさんも…………」
「お母さんも……ねぇ……」
か細い声で説明した拓真。
一つでも情報を聞き逃さないように、犬宮は途中相槌する事なく最後まで聞いた。
だが、最後の付け足したような言葉に対しては疑問を抱き首を傾げる。
「…………なるほどね。少しだけ待っててくれるかな」
「うん」
拓真の返事を聞き、犬宮は「ん」と頭を撫で立ち上がり、事務机に移動。
本を片手に待っていた心優は、机の引き出しを漁る犬宮に問いかけた。
「犬宮さん。あの子供の依頼を受けるのですか? 普通にお買い物とか、仕事とかのおちですよ、きっと」
「そう決めつけるのは、良くない。子供だからと舐めない方がいいよ」
「どういう事ですか?」
「話、聞いていたんじゃないの? 聞いていればわかると思うんだけど」
――――なによ、その言い方!!
馬鹿なの? と言いたげな視線を送られ、心優はこぶしを握る。
パタンと引き出しを閉じながら、犬宮は目線を逸らしつつ付け足した。
「簡単な話、餓鬼の説明に違和感があったから」
「違和感、ですか?」
「あとは、これ」
自身の鼻を差し言うと、クククッと悪魔のような笑みを浮かべ拓真の元へと戻る。
「…………金の匂いがしたということね」
――――最初にそれを言えばいいでしょうが!!
と思っても、口には出さない。
文句を言っても意味がないことは、今までの経験で知っている。
犬宮賢という人物は、一つ一つがめんどくさい言い方をする。
かと思えば、めんどくさがって説明を省き、結果だけを伝える時もあった。
その時の気分で行動が変わるため、周りは彼の気分に合わせなければならない。
非常にめんどくさい人物である。
「というか、金の匂いって。まさか、拓真君本人からじゃないよね……」
頭を支えながら嘆くと、犬宮は足を止めた。
――――え、まさか聞えていたの?
すぐに口を閉ざすが意味はない。
犬宮は、クルリと振り返ると、にやりと笑って見せた。
「金の出どころは、どうでもいいんだ。たとえ、親の失態で手に入れたお金だとしても、な」
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