ちゃんと伝えてよ!
◆◇◇◇
「副宰相殿! それはいささか言葉が過ぎるのではないか?」
パルノ国王アブ=サン殿が怒鳴りつけてくる。
だが……。
「アブ=サン殿はお忘れのようだが、我々魔王国が瘴気対応を行っているのはただの善意だ。本来各国で対処を行わなければいけないところを人間の国々では処理できないと泣きついてくるのでやむなく手を貸しているに過ぎない」
「それがどうした!」
え、わからないの?
「はっきり言って我々からすれば積極的に手を貸す価値はないし、貸さなければいけない理由もない。いつ瘴気対応を辞めても構わんのですよ。なんせ、そちらが条約を守ろうとしないのですから」
「え?」
アブ=サン殿、何を驚いているのだ?
「条約上『魔王国側が瘴気を消すのに必要な協力を惜しまない』とある。ならさっさとドラゴン周回案に協力しなさい。それともこれ以上の案があるのでしょうか? あるならさっさとお出しいただきたい。いつまで待たせるんですか?」
「「「……」」」
「ちなみに、八十年程前にこの話をしているが未だに対処案もご提示いただけない。これでやる気がある、協力を惜しまないと判断できるとお思いで?」
「「「…………」」」
黙ってもこちらの心情は悪化するだけですよ?
「その……民を納得させるのが……」
サルーア国王ニルク殿がボソボソと言い訳を始めるが、その理由は悪手だ。
「今まで待たされた理由もその『民を納得させる』なのですが? 八十年たっても納得させるように動けないのなら何千年たっても同じでは?」
当たり前だよね?
人間の寿命を考えると王が二代くらい関わっていると思うんだが、五ヶ国が二代にわたって納得させる努力を放棄しているとしか思えないんだけど?
「別にすべての民を納得させろなんて言いませんよ。でも納得した民が全く増えていないのであれば……説得する側が無能か、説得する際に民への利益、不利益を提示していないのでは?」
「では、副宰相殿は何か思いつくとでもいうのですか!」
ノーザンコンフォート国女王ジャニス様が怒りをあらわにして問うてくる。
まあそちらの都合も理解はしているので、怒りたくなる気持ちはわからなくはないのですけどね。
「『ドラゴンの着陸地点の確保と毎月のドラゴン周回を認めよ。ダメなら魔王国がこの国を見捨てる。結果国が瘴気に犯され滅ぶがそれでもいいか?』と民に問えばよろしい。現状各国で瘴気を消すことができない以上従うしか選択肢はない。簡単でしょう?」
「そんなバカなこと言えませんよ!」
え?
なんで?
「なぜ? 魔王国のごり押しのせいにしておけばあなた方の立場への影響は最小限で済む。もし反対するものがいるのなら『瘴気が蔓延したら人は生きていられない。国が亡ぶが? 手を借りなくてもどうにかできるというのなら小さな瘴気でいいから消して見せよ』と言えば黙るでしょうね。あなた方みたいに」
「……」
今も黙ってますね(笑)。
「そして、着陸地点については人々が住んでいない、それでいてあまり王都から遠くない場所を探して一から環境を作ればよろしい。住んでいる所を無理に追い出そうとすれば当然反発は大きくなる。辺鄙な場所であれば大して関心を持たれないでしょうな」
ラシス王よ、これって以前あなたに説明したことなんですけどねぇ。
忘れたんでしょうか?
「最後に今回の教団が瘴気に巻き込まれて壊滅したことを大々的に説明してあげなさい。そして『魔王国と手を切れば、未来はこうなる』と説明すればよろしい。誰だって滅びたくはないし瘴気におびえたいとは思わないでしょう」
国王たちは黙り続けている。
怒りや憎しみではなく困惑が広がっている。
「副宰相殿、魔王国はなぜそのような……」
ジャニス様が困惑しつつも尋ねる。
まぁ気持ちはわかるが……。
「我ら魔王国の者は人間の国々の情勢に関心はないのです。我らの関心は『瘴気をそのまま放置するのは問題である』の一点のみ。ならばそれを解決する為にベストを尽くす。……あなた方は民を含め瘴気を放置する危険性を未だ理解されていないようだ。だからこそあなた方は民心を大事にし、瘴気による被害を軽く見る」
「そんなことは──」
「──あるのですよ」
ジャニス様は言いつのろうとするが、わたしはさっさとぶった切る。
「あなた方は民草に瘴気の危険性をどこまで周知されておりますか?」
「え? いつどこで発生するか不明、瘴気に長時間触れたら死ぬ、でしょうか?」
ジャニス様は他の王達にも問うが、皆『だいたいそんなもんじゃねぇの?』的な反応に終始する、が……。
……冗談でしょ?
……何百年も前に指摘した記憶があるんだけど?
って、あれ?
ビル殿、なぜ慌てているの?
と思っていたら、ビル殿から各位に質問が飛んだ。
「あ、あの、すいません、もしかして皆さまは自国民に瘴気の事を、魔王様がいらっしゃらなければ瘴気を消せないことを説明していないのですか?」
え?
なにを馬鹿なk……。
「「「あっ!」」」
え?
噓でしょ?
まさかとは思いつつも念の為確認する。
「ちょ、ちょっと待って。つまり、魔王様が対応されなければ瘴気を消せないことをあなたたちの国民は知らないと?」
「「「……」」」
うっそ~ん……。
ったく、この馬鹿者共が……。
魔王様にどれだけ助けていただいたと思っているんだ。
助けてもらっている癖に助けた相手への恩義は感じねぇってか?
ろくでもねぇな。
あぁ、NTRのビル殿が慌てたのは納得だ。
NTRは特定の職業――商人や宗教関係者――を除き、各国の民へ何か説明することは基本無い。
その部分は国、この場合王や女王の担当だからだ。
そして、その位は国の方で対応しているのだろうと
「瘴気がどのようなものか、どうやって対処しているのかを上の者だけしか知らなければ訳の分からない反対論が出て当然です」
ギロッと睨みつけると皆ビクつく。
「なんせ、反対することでどれだけ国に被害が起こるのか理解していないのですから。確か、以前何代か前の王たちにお伝えして民に周知することを徹底していただいたはずですよ」
何百年前か正確には思い出せないんですよねぇ。
流石に千年は立ってないと記憶してますが……。
そんなことを言うと、王たちは愕然とする。
まぁ、愕然となる程度には事態を理解していると思いたいのだが……。
どこで民へ伝えることを辞めたのか、もしくは……。
「国に帰られましたら早急に民に事態の説明、瘴気についての知識を展開を願います」
王たちはおとなしく頷く。
「なおいつから瘴気の情報を広めないようになったのか歴史書等から調査をお願いします。最悪この知識の断絶がヨタバール教による可能性を捨てきれませんので」
「えっ?」
オラン殿が『なんで?』といった雰囲気の反応をするが、忘れたの?
「言葉通りです。ヨタバール教による横槍の結果、民への瘴気の危険性の説明を不要と認識させられた可能性があると申し上げております」
「そ、そんな馬鹿なことが」
オラン殿がありえないといった表情をするが、本当に忘れたの?
冗談でしょ?
「オラン殿、あなたは最近似たような経験をなさっているのでは?」
「似たような?……あっ!」
「ヨタバール教を信仰している貴族に愚かな行動をされ、我ら魔王国から見捨てられかけたのをお忘れで?」
「あ、ああ。その通りだ」
やっと思い出したか。
というか、あれだけ失態をやらかしておいて忘れるなよ。
「適当な理由をつけて反対するだけなのでそんな難しい事ではないのでは? 例えば予算がない、貴族がちゃんと管理すれば民に教える必要はない、瘴気のことを知ることで民が暴動を起こすのではないか……パッと思いつくだけでもこれだけ理由は作れますが?」
「「「……」」」
「ちゃんと自国を、民を守るためのことであることを周知徹底させるのが王族や貴族の役目では? そして、魔王国ではそこまで対応はできかねます。ご自分たちで民にちゃんと通達しなさい」
王たちはがっくりしつつもうなずく。
「……まぁ、魔王国に取り込まれたいというのであれば別ですが」
軽口のつもりだあったが、アブ=サン殿が本気で悩んでいるようなのが怖かった。
一応、他の王たちはそんな気はないとばかりにムッとしていた。
アブ=サン殿、こっちの方々の反応が普通だぞ?
その後、砦の後片付けを任せ我々は魔王国に戻り、もう一つの懸念事項である白無能族への対応について、ケインとタイバーン殿から情報を得る。
……うん、そっちもすごかったんだね。
お二人ともご苦労様。