呪いかけ直しと瘴気対応の歴史
◆◇◇◇
全力の子作り(あ、瘴気解除もしましたね)から三か月後、私たちは朝から謁見の間に集合している。
玉座には魔王様、その両隣にはケインとオフィーリア。
謁見の間をぐるりと囲むように魔王国騎士団総団長兼近衛騎士団長のタイバーン・ルドルフ・フォーブス殿を始めとして近衛騎士たちが勢揃いしている。
……あ、スゾッキィー隊長もサボらずに来てる。
アッカーメ隊員もいることから、『サボっちゃだめっスよ~』なんて言われたんだろうな。
単眼が死んだ魚のような目になってるし。
「副宰相マルコ、副宰相補佐サリア。呪い解除して少しは楽しめたかな?」
魔王様は問う立場にありつつも私たちに申し訳なさそうな雰囲気を感じさせる。
気にするなとは言わないが、夫婦で決めたことだからそこまで気を使わなくていいんだよ?
「はい、サリアともた~っぷり楽しませていただきました。ですが、あまりのんびりしていては瘴気対応が遅れるのも事実。我らの身に呪いをかける覚悟は既にできております」
『た~っぷり』の部分で魔王様に苦笑されるが、覚悟を聞くと真顔になる。
「では、魔王の名において命ずる。マルコ、サリア、汝らの体に呪いをかけよ」
「「かしこまりました」」
「BPKP9B632PP6」
「トルカペリシェンテ(呪い付与)」
◇◆◇◇
うっス。
ローパーのアッカーメっス。
あのエロ夫婦――副宰相夫妻の事っス――が呪いをかけるっつーことで近衛騎士団の上位者と第三部隊が全員参加となったっス。
一応呪いをかけなおすとは聞いているんですが、なんで呪いなんてかけるんっスかねぇ?
そんなことしないでも魔道具とかで魔力を溜めれば済む話な気がするんスけどねぇ。
チラッとスゾッキィー隊長を見ると暇そうにあくびをしてたっス。
流石に魔王様やタイバーン団長殿にばれないように気を付けているようだけど、隣にいる自分にはバレバレっス。
微妙に単眼から涙が出てるっスよ?
……どうせ暇だろうし、ちょっとさっきの疑問についてこっそり聞いてみるッスかね。
「隊長、質問なんですが、なぜ副宰相夫妻は呪いをかけるんっスかね? 他の手段ってなかったんスかね?」
スゾッキィー隊長は、珍しく真顔で答えてくれたっス。
……よっぽど暇だったんっスね。
「過去――といっても我々が生まれる前の話になるが――魔王国ができる前、まだ王都が小さな村だった頃に瘴気が村の近くで発生したそうだ」
魔王国の歴史って奴っスね。
「その時点で魔王様の能力――瘴気を喰らい消し去る力――は理解していたので、サクッと処分しようと動いたが、魔王様の力で除去すると残った瘴気が逃げようとする性質があることが分かった」
「瘴気に逃げる足生えてダッシュで逃げるとか……じゃないっスよね?」
モヤモヤした空気に手足が生えてテッテケテーと逃げ出す?
……あまり可愛く無いっスね。
「ああ、なぜか魔王様が喰らったところを中心に周囲に拡散しているんだ。結果、一部だけ除去しても大半が拡散するため完全な消滅ができないどころか手間が増えたと聞いている」
まあそうでしょうねぇ。
「それに加えて、魔王様の能力は連続使用ができない。精神の若返りが落ち着くまで次の除去ができないからだ。そのため、膠着状態となっていた」
ああ、うん、確かに。
「そこで、副宰相夫妻が提案したのが瘴気が逃げる場所をなくすよう結界で閉じ込めて、そこに魔王様を投入、瘴気を除去するという提案だった」
「おぉ、事態打破できそうっスね。ブレイクスルーとか言うんでしたっけ?」
「実際うまくいったが、一つ大きな問題が発生した。結界のサイズが副宰相夫妻に加えてケイン様が参加しても少々足りないという事態が発生した。なお、その時の瘴気は今でいうところの中規模サイズだ」
中規模で足りないとなると、いつ瘴気に滅ぼされてもおかしく無いっスね。
「その時何とか事態を乗り切ったが、このままではまずいと魔力蓄積の研究に乗り出した。その結果、一番効率的な対処が呪いによる魔力蓄積だった」
あぁ、今のやり方がここで確立するんスね。
「ちなみに宝石等物に蓄積したり、魔道具を用いたりはできなかったっスか?」
「どちらも試しては見たらしいぞ」
やっぱり試してはいるんっスね。
「ただし、宝石はあまりにも非効率、魔道具はあまりに蓄積量が少なかったと聞いている」
「非効率? それに蓄積量が少ないって何っスか?」
「宝石は国家予算数年分かけてやっと一月呪い状態と同じらしい。魔道具はもっとひどくて三日分程度を蓄積するのが精いっぱいだったとか……」
うっわぁ……本当に役立たずレベルっスね。
そのお金はうちらの給料に充ててほしいくらいっス。
「ただ、今後を見据えて研究は継続していると聞いている。それと、浄化系の魔術の研究も進めているとのことだ」
少しでも策が増えれば瘴気の対処も楽になるっスしね。
……あれ?
「ケイン様は同じように呪いを使わないんスかね?」
「試してみたそうだが、死体には聞かないようだ」
あ、やっぱり試しているんっスね。
「まぁ、不死者は存在自体が呪い発動していると考えられている。それを超える強固な呪いでないと無理だろう」
まぁ、そりゃそうっスね。
「そして、不死者の呪いを越えた結果、灰になって消えるという可能性もありうるので、そこは触れないようにしているそうだ」
ブハッ!
まぁ、研究の結果ケイン様が灰になったなんて流石に笑えないっス。
「それと、国を維持する三名が一斉に離脱する可能性は避けようという話になり、研究をケイン様がメインで行っている都合上、ケイン様が王都、夫妻が必要に応じて外に出でるという流れになった」
確かにケイン様インドア派っぽいっスしね。
むしろ喜んで譲ったんじゃないっスかね?
「それと、現状副宰相夫妻も実力が上がって、小型なら一人で十分、中型でももしかすると一人でできるのでは? ……という話があるのだが……」
「だが?」
「あの二人、『別々で呪い解除は嫌!』って言ってな。流石に色々苦労かけているのもあるので副宰相夫妻は二人一セットで運用している」
えええぇぇぇ……ここまでいい話だったのに。
「うーん。なぜ二人にこだわるんっスかね」
「アッカーメ隊員。お前さんに彼や旦那ができれば理解できるのではないかと推測している。ただ、俺は種族的に雌雄差がなく、婚姻という概念も無いのでピンとこないし説明もできないのだがな」
「いや、自分たちの種族も雌雄差も婚姻も無いんっスよね。まあ、種族内で子を作る方法は理解しているっスが、そこに愛情って入る要素がないんで……種族差って奴っスかねぇ」
「多分そうだろう。俺の種族もそっち方面は疎くてな、説明できず済まない」
「あ、いえ、いろいろ教えてくださってありがとうっス」
隊長からいろいろお話を伺い、この時点ではお話を楽しんでいたっス。
あの時、もう少し周りを気にしていたら……。