人間国家側が役立たない
◆◇◇◇
「なによ! その女の胸から飛び出した気持ち悪いのは!」
……静寂がねぐらを支配した。
プレーンヴィッジ殿の方を見ると、ブラックドラゴンのくせにブルードラゴンにでもなったかのように顔が青くなっている。
オフィーリアの方を見ると、とてもイイ笑顔になっている。
……落ち着け、な?
ここで暴走するなよ?
信じてくれるかは分からないが……奥方に事実を伝える。
「魔王様ですよ」
「は? 何言ってんの!」
「ですから、魔王様ですよ。この国の王、世界で唯一瘴気を消滅させる能力を持つ魔王様ですよ」
「バカ言ってんじゃないわよ! あなた、このスラ……あっ!」
プレーンヴィッジ殿に何かを言おうとして言葉に詰まる奥方。
魔王様がスライムであることを思い出したようだ。
プレーンヴィッジ殿もスターフィード殿も世界の終わりのような反応を見せている。
奥方もこの状況を見て流石に現実を理解したようだ。
「プレーンヴィッジ殿。現在瘴気対応のためこれ以上この件に関わる時間がありません。それゆえ処分については瘴気対応後とします。よろしいですね?」
「……おう。申し訳ない」
夫が謝罪しているのを見て、奥方の膝が崩れ落ちそうになっている。
ドラゴンがそんな動きしたらねぐらが崩れるのでは?
「ではプレーンヴィッジ殿、瘴気対応のため協力願います。スターフィード殿、ちょっとの間並走願えますか?」
「ん? まあ少しなら構わんよ」
奥方を無視してさっさとねぐらから出ていく。
「あと、オフィーリア……あぁ、そのままでいい」
魔王様をお慰めしてくれと言おうとしたが、既に実施していた。
……悲しい思いをされた魔王様の心をお慰めするんだぞ?
……慰み者になれということじゃないからな?
……むしろお前からすれば後者を希望するんだろうが。
そのまま飛び立ち、飛行中に簡単に指示を出す。
「スターフィード殿、ねぐらであったことを宰相殿に報告願います。それ終わったら解散ということで」
「承った。では失礼するよ」
すぐに王都方面に飛んでいくスターフィード殿。
さっさと奥さんのところに戻りたいのだろうから大急ぎで報告してくれるだろう。
「プレーンヴィッジ殿」
「うむ」
「あなたがだれを愛そうと文句を言う権利は我らにはありません。ですが……」
「理解しておる。副宰相殿たちへの発言も問題だが、魔王様に喧嘩売るとは流石の我も想像できなかった」
そりゃそうでしょうね。
わたしたちでも想像できませんでしたよ!
「気が強いだけなら特に何か言うつもりはないのですが、周りからの指摘も無視してしまうとなるとフォローできませんからねぇ……」
「昔は単純に気が強かっただけだったが、我が種族代表となってから妙に立場に固執し始めた気がする」
「それを諫めるのがあなたのやることでは? 夫としても代表としても」
流石に代表としての誇りを失っていなかったようで、無言で首肯する。
数時間後、連絡あった三か国国境の砦に到着、情報収集に入る。
どうも、砦全体を瘴気が覆っており、ヨタバール教の者たちは絶望的とのこと。
短時間ならともかく長くて半年瘴気を浴び続けていると考えると……まあ無理だろうな。
その後、半年もの間じっくりたっぷり寝かせた瘴気を少しずつ消していき、二か月程で一通り浄化完了した。
当然ヨタバール教の者たちは全員死んでいた。
人間の側で死体をまとめて埋めるとのこと。
まぁ、流石にわたしたちに死体処理までやれなんて言い出したら戦争だったろう。
今度生まれたときにはこのような馬鹿げた宗教に耽溺しないことを祈る。
なお、その間色々と不満のたまったオフィーリアのために二週に一日ストレス発散を許可している。
その際に人間側には近くに畑がないか確認しており、今年の三か国は一部の畑で豊作となるだろう。
……ナニしたかはここまで読んでくださった方には今更説明不要だろう。
魔王国でもヤっていることだし、私もわざわざ説明したくない。
さて、浄化終了ということで魔王国に戻りたいところだが、ちょうど各国首脳がいるので軽く話し合いを行った。
参加者は人間国家群から各国の王、女王たち。
南西部に位置するサルーア国のニルク・ベラクルス・サルーア王、
北東部に位置するルンパリ国のネグローミ・ルンパリ王
南東部に位置するパルノ国のアブ=サン・パルノ王、
北東部に位置するノーザンコンフォート国のジャニス・パール・ノーザンコンフォート女王
そして以前の瘴気でやり取りした、中央部に位置するラシス国のオラン・ジェッド・フォン・ラシス王
そして『NTR』の代表、ビル・セシュ―・ウィッキー殿。
人間国家群のトップが集まっているので、こちらの懸念(というか、面倒事)をさっさと片づけに動くことにした。
「以前手紙をいただいた連絡手段についてなのですが、返信したのを読まれましたでしょうか?」
一斉に周りの空気が張り詰めたものとなる。
……でも、なんとなく真面目な雰囲気ではないんだよなぁ。
あえて言うなら『おかんに叱られる』雰囲気?
「ああ、読ませていただいたし他の国にも転送したので読んでいるはずだ」
ラシス国のオラン殿が代表して答え、他の王たちも一緒になって首肯する。
「ではドラゴン周回案は無理ということでしょうか?」
全員黙った。
いや、これが最善の案なんだがね。
これ嫌ならうちはフォローできんよ。
「その……それ以外は……」
ルンパリ国王ネグローミ殿がか細い声で聞いてくる。
ったく、夢見すぎなんだよ。
「そんな都合の良い話があるとお思いで?」
にこやかに返答すると、皆視線を逸らす。
「まず、我ら魔王国はあなたたちの親ではない。なのであなたたちがまともに動く気がないのであれば勝手に滅びていただいて結構」
本当に、こちらからしたら慈善事業でしかないんだから。
「滅びてから改めて瘴気を消し、その後魔王国の土地とすればよいのですから。たかだか数千年待てばいいだけですので、我らには特に影響ありません」
王達はいきなり滅びから始まる説明に一部は怯え、残りはいきり立つ。
「副宰相殿! それはいささか言葉が過ぎるのではないか?」