白無能族代表交代
◆◇◇◇
それから二か月後……。
「白無能族の新代表を連れて参った。魔王様へお目通り願いたい」
予想より一月ほど早くヴェルスタンドは仕事を成し遂げたようだ、チッ。
なんか、一気に老けたな。
おでこが広がってるぞ。
連れてきた白無能族の新代表はへデリと言うそうだが……ヴェルスタンドからよほど脅されたのだろう、今のところは大人しくしている。
だが、視線や言葉の端々から感じられるのは『こちらに喧嘩売りたくて仕方がない』『こちらを自分より下に置きたい』という傲慢さのみ。
やるならさっさとかかってきやがれとも思うが、相手が大人しくしているのにこちらから煽るのもまずい。
相手に先に手を出させたうえで滅ぼす形にしないと後々面倒だからな。
代表引継ぎ式も終わったところでヴェルスタンドから質問を受ける。
「引継ぎも終えたことだし、罰は終わりと言うことでよいか?」
「あぁ、黒無能族代表ヴェルスタンド殿。今回の引継ぎ式終了をもってあなたへの罰は終わりとする。再度愚かな行動を取らぬことを切に願う」
「……了解した」
……ちょっとくらい愚痴ってくるかと思ったんだが……晴れ晴れとした表情を浮かべやがった。
その反応からすると、へデリはよほど愚か者か?
「では我は帰らせてもらう。へデリ殿、流石にそちらの集落までは自力でお帰り願いたい」
「あぁ、案内助かったぜ」
そう言うとヴェルスタンドはさっさと帰っていった。
むしろ逃げ帰ったと言う方が近いか?
「あ~、俺も帰るが構わないか?」
へデリも軽い雰囲気で聞いてくる。
「構わんよ。次回の定例会議にまた来ればよい」
「うぃ~っす。そんじゃアバヨ」
こっちもサッサと帰っていったが……。
「タイバーン殿」
「既に監視は付けております」
「流石ですな」
話も仕事も早いと楽でいいね。
その日の夜、執務室に影人族の伝令がやって来た。
「失礼。あの二名の動向について報告です」
「もうですか? もっと時間かかると思ってたのですが……」
魔王様に反逆する意思があるのなら、まず王城の弱点を探すか王都の民を扇動できるか調べるだろうと思ったのだが、違ったか?
まずは報告を聞こうか。
「まず、ヴェルスタンドは直ぐに王都を出ていきました。これはへデリの尻拭いを避けるためと推測致します」
あ~、それはよくわかります。
何というか、いつ発火するか分からない危険物としか思えないですし。
「そしてヘデリについては……王都内の酒場で飲んだくれておりました」
……え?
「現時点で酔いつぶれて宿で寝ております。なお、飲んでいる間の発言として
『魔王なんて俺様が指先一つで倒してやるぜ!』
『何なら人間族の国もまとめて面倒見てやるか?』
『スライムと死人と俺らに追い出されて逃げてった雑魚エルフ如きが上にいる国なんぞ砂の城より脆そうだ』
などと言っているとのことです」
ほぅ?
言うねぇ?
ちょうど執務室にいたタイバーン殿は……確かあなたの肌の色は緑ベースじゃなかったか? 真っ赤になっているぞ?
死人呼ばわりされたケインは……何か黒いのが身体から噴き出てないか?
ただのスライム扱いされた魔王様は……オフィーリアの乳を揉んでいた。
あ、こちらはお気になさらず存分にお楽しみください。
「ねぇ、あなた」
我が愛しのサリアが声をかけてきた……が、サリアよ、目が怖いんだが。
「イイ表情してるわ♡」
は?
「気づいてないの? あなたの視線が怒りに満ちているようにみえるわよ?」
そんなに危険な目でしたか?
「魔王様をチラ見したときを除いてだけど」
普段通りの魔王様見て怒りを維持しろと言うのはちょっと無理かなと思うのですよ。
……オフィーリアの胸見ていたわけではないぞ?
「あー、ヘデリの監視は王都を出るまで継続でよろしぇが?」
少し落ち着いたのか、ケインが話をまとめに入る。
「そうですね、ただの大馬鹿っぽいので大した情報は得られないかもしれませんが」
タイバーン殿も落ち着いたのか肌が元の色に戻り始めている。
アンガーマネジメント成功ですね。
おやケイン、何か懸念でも?
「あのへデリという者、何で言うが我々との敵対関係をワザと演じでらように感じだのんだども……」
演じている?
「もしかすると白無能族側でも別の意見たがぐものがいるのがもしれねぁねぇ」
正直、過去に代表代理であったルディを殺された側としてはそのような考えは思いつかなかったが、第三者の視点で見たらワザとらしさに気づいたのかもしれない。
「ヴェルスタンドの方はヘデリと縁を切りたそうですし放置でいいかと思いますわ。ヘデリは何と言うか……ノリで反乱起こしそうな気がします。もう少し様子見しては? 最低でも領地に戻って数か月程度は監視した方がよろしいかと」
チェリーさんが意見を述べるが、『ノリで反乱』って……。
でも言い回しはともかく認識は合っているんだよなぁ。
「とりあえず、ヘデリについてはチェリーさんの指摘通りに三か月監視どするす。問題あった場合延長もあり得るでいうごどで」
ケインの発言に頷きとりあえず解散……とはならなかった。
「さぁ、あの馬鹿どものおがげで遅れだ作業時間取り戻すべが? さっさど始めねど『文武発表祭』を始められねぁよ」
あー、ケイン?
何と言うか、滅茶苦茶危険人物っぽくなってるぞ?
具体的に言うと、普段目の部分がら空きなのになぜか今は目の部分が燃えている。
正直キモイ。
あ、チェリーさんが熱い視線を送ってる。
サリアを見ると、首を横に振っていた。
逆らっても無駄ってことですね。
サリアと一緒に溜息をつき、諦めて書類との戦闘に移った。
6章はこれにて終了です。
明日説明回をやって、明後日8/29、7章……というか最終章始めます。
お楽しみに。