暴走の理由
◆◇◇◇
「な、なぜそんなに我らを恨むのだ? 我らが何か恨まれることをしたか?!」
……エッ?
……ナニイッチャッテンノ?
周りを見てみると、魔王様やケイン、そしてサリアは驚きと呆れと混乱が入り混じった表情を浮かべている。
他代表たちも似たような感じだ。
ヴェルスタンドは……こちらもわたしたちと同じ反応か。
となると、アーレだけの考えか?
「アーレ、なぜ恨まれていないと思った?」
淡々と、感情を表に出さないように言葉を発する。
「二百年前に精霊をえり好みしようとしたお前らを止めた、そんなわたしたちの家族や友人をほぼ全滅の状態にまで殺しつくしておいてなぜ恨まれていないと思った?」
「そ、そんなはずはない! 二百年前の裁判でも我々への疑念は払拭されただろうが!」
は? 何言ってんだ?
「逆だ。あの時の裁判でも疑念しかないし、一切払拭されてない。ただし同時期に別の奴がやらかしやがったサイン偽造のおかげでこれ以上追及したくてもできなかっただけだ」
「嘘をつけ! そんなの信じられるか!」
「それに二百年前にこの場で同じ話をして、証人まで呼んでお前らがやらかしたことつまびらかにしたのを忘れたか? それが信用できないと言うのなら、魔王国のやり方が一切信用できないと言うことになるが?」
「そうだ! それがどうした!」
「なら、お前ら白無能族は魔王国から出ていくがいい。それとも滅ぼされたいか?」
ざわっ!!
……代表側のほとんどが王宮側の怒りを理解したようだ。
ほとんどと言ったのは……。
「そんなの受け入れるわけないだろう!」
……いまだに理解していないアーレがいるからだ。
呆れつつもヴェルスタンドの方を向いて問う。
「なぁ、なぜこいつと組んだんだ?」
ヴェルスタンドは物凄く不快な表情で呟く。
「正直、ここまで会話が成立しないとは思ってもみなかった。前はもっとまともな会話ができていたのに……」
もっとまとも? 嘘だろ?。
どう考えても元からこうじゃないのか?
そんな考えに浸っていると、サリアが必死な顔をして挙手してきた。
何かと思い発言を許可すると、ヴェルスタンドに質問を投げかけた。
「ヴェルスタンド殿、アーレ殿と会話成立させづらくなったと感じたのはいつごろでしょう?」
「……ここ十年位からだな。特にここ一、二年は暴走している雰囲気が目立ってきた」
聞きたかったこと、そして表情から察するに聞きたくなかった回答を得たところでサリアは説明を始めた。
「あなた、憶測ではありますが精霊の力の均衡が崩れた場合の影響は身体だけではないかもしれません。もしかすると、精神にも影響するかもしれませんわ」
ざわっ。
魔王様やケインも含めてこの発言に驚愕と困惑が広がる。
「根拠は?」
「現時点ではありません。ただ、精霊たちを呼んで確認することを許可いただきたいですわ」
魔王様とケインに視線を送ると『OK!』と合図を送って来た。
こちらで許可を出すと、サリアは精霊たちに呼びかけ――
「精霊女王たちよ、来たれ」
――それに応じて六種の精霊女王たちが現れた。
「あら、突然どうしたのサリア? 何かあった? もしかして……?」
水の精霊女王ティーダビュー様が代表して、なぜか最後に微妙にムフフな反応しつつ私に視線を向けつつ聞いてくる。まさか『二泊三日』の様子を教えてるとか無いよな?
……無いよな?
「お久しぶりでございます、女王方。既に精霊王たちから伝えられていると思いますが、白黒の面倒を見るのをやめた件についてです」
サリアが事態を説明しようとすると、闇の精霊女王ビュホレ様が割り込みをかけてきた。
「改めて白黒の面倒を見ろと言うのであれば絶対お断りよ! 馬鹿に付ける薬はないの! 勝手に滅びればいいのよ!」
あー、ブチ切れてますね。
ヴェルスタンド、何をショック受けているんだ?
わたしもサリアもビュホレ様にものすごく共感しているぞ?
「闇の精霊女王、気持ちはよくわかりますし夫共々とても共感いたしますが、それが理由で呼んだわけではありませんのでどうか落ち着いてくださいまし」
「あら違うの? ごめんなさいね。ならなぜ今更白黒の話題なんて出てきたの?」
「以前火の精霊王と話した時に、精霊の均衡が崩れると病のような形で影響が出ると教えてくれたのですが、これは肉体だけでしょうか?それとも精神にも影響が出てきますでしょうか?」
「あるねぇ。発症の可能性は肉体より低いけどさ」
火の精霊女王ヘリッシュー様が微妙に蓮っ葉な言い回しで答える。
ざわざわっ。
他代表たちも騒ぎ始める。
「ちなみに、影響が出てると思われるのはどんな症状かしら~?」
土の精霊女王アキュエ様が問いサリアが答える。
「白無能族の代表アーレ殿が人の話を聞かない、もしくは理解できず傲慢な行動に出ています」
「白無能族で傲慢……光の精霊女王、あなたの範疇ではないかしら~?」
「そうね、嬉しくはないけど私の担当のようね」
アキュエ様の指摘に光の精霊女王ペルシェット様はため息をつきつつ前に出る。
「お手数をおかけして申し訳ありません。まず確認ですが、精霊由来の性格変更であるか判断は可能でしょうか?」
「見ればわかるわ。そこの白の男に少し影響が出ているのは事実ね。でも普段より少し傲慢の度合いが上昇したと言うだけだと思うけど……」
え?
サリアがこちらを見てくるが、わたしも困惑している。
こいつの傲慢さは少しなんてレベルじゃないぞ?
「少し傲慢の度合いが上昇と言うことですが、元々傲慢であった場合に上昇率が上がるとかありますでしょうか?」
「この事象は元々の性格を強化、増幅してしまうイメージなので可能性はあるわね」
アーレは元々傲慢だったので光の精霊の影響で傲慢の度合いが爆上げしたってこと?
「治すことはできますかしら?」
「時間が解決するのを待つだけね。でも結構長い間積み重ねたんじゃない?」
「そうですね、二百年ほどですわ」
「それに加えて精霊と契約できないとなると、治せないと考えたほうがよさそうね。まぁ『治る前に寿命が来る』の方が正しいかしら?」
ヴェルスタンドが治せないと知りショックを受けている。
アーレは……全く気にしてないな。傲慢化のせい?
「ふざけるな! 貴様ら精霊なぞ我らの命に従えばいいのだ! だのに勝手に契約解除だの馬鹿げたことを言うんじゃない!」
……と思っていたんですがねぇ。こいつ本気?
他代表たち皆静まり返っているところで、風の精霊女王トルム様がとても危険な微笑みを浮かべて質問してきました。
なんというか、獲物を狙う猛禽類の目?
「魔王様、宰相殿、副宰相殿。この愚か者の発言は魔王国としての総意?」
「「「そんなわけありません!」」」
冗談じゃない。
こいつらと一緒にしないでくれ。
「なら、この愚か者の処遇は?」
魔王様、ケインとアイコンタクトを取ったが、やっぱりわたしが回答することになった。
「現時点では種族滅亡、魔王国からの強制退去、そして……現代表であるアーレの強制免職のどれかかと考えます」