呪いのない朝とNTRについて
一章一話目と比較しながら読んでいただけると呪いの有無のイメージが分かりやすいかと。
◆◇◇◇
「あなた、朝ですよ」
ああ、もう朝か……。
隣で寝ていたサリアが声を掛けてくる。
「あ・な・た、あんまりのんびりしていると遅れてしまいますよ」
かすかに目を開けようかと思うのだが……。
いつもの小鳥の啼くような清らかな声を聞いていると、いい年して甘えたくなってしまう。
「……キスしてくれたら起きる」
サリアは少し驚くと、慈母のような笑顔で
「もう、甘えん坊さんなんだから♡」
と、優しく私の【すべすべした】胸元を【細く白魚のような手】で撫でて、【皆が目を離せなくなる様な美しい顔】を近づけキスをする。
わたしも【さわやかな笑顔】をし、【細身のつるつるした腕】で抱きしめお返しのキスをする。
そんな夫婦の睦言をしていると――
「おはようございます、旦那様、奥様」
――と、ミアが起こしにやってきた。
「お食事の方準備できておりますので、入浴後に着替えて食堂の方へ」
ミアの指示に従い、入浴後【カッターシャツとスラックス】に着替えてサリアをエスコートしつつ食堂へ向かう。
食堂に到着するとラルフがドラゴンが踏んでも壊れないような頑丈そうな椅子を引いてくれるので座り、食事を堪能する。
今日のデザートはわたしの好物のリンゴとサリアの大好物のミカン……もしかしてまた?
チラッとミアへ視線を向けるとサムズアップしてやがった。
わたしたちをからかって楽しんでやがるな?
期待には答えないとなぁ。
ミカンの皮をむき、サリアの口元に持っていき、
「あ~ん♡」
新婚のような雰囲気を醸し出しつつ口元にミカンを持っていく。
サリアは【ちょっと先の尖ったエルフ耳】を真っ赤にして照れながら【恥ずかしさを耐えつつも幸せそうな雰囲気で】パクっと食べ、とても幸せそうな表情を浮かべた。
はっと幸せな世界から戻ってきたサリアはリンゴを一切れつまみ、
「お・か・え・し・♡。はい、あ~ん♡」
わたしは幸せに浸りながら【喜びに満ちた笑顔で】パクッと指までくわえ舐めてみると、サリアは真っ赤に茹だってしまった。
「おいしかったよ」
サリアへ【愛情溢れた笑顔で】礼を言うと、モジモジしながら返事をしてくれた。
あぁ、こんなかわいいしぐさをしてもらえて幸せだ。
ミアにボーナスは……前回分で十分だろう。
楽しかった食事も終わり王宮へ夫婦で……と言っても王宮の一角に住んでいるので徒歩数分の距離だが――
「では、仕事に行ってくる」
「よろしくお願いしますね」
「「「かしこまりました。いってらっしゃいませ」」」
――執事、メイドたちに見送られ、一緒に仕事に向かう。
イチャイチャしつつわたしたちの家と王宮の連絡口に向かうと、近衛騎士二人が待機している。
普段通り王宮に入る前に彼らからチェックを受けるのだが……数日前の二人なんだし、今更誰何はされないだろうが――
「そこのケダモノ二匹、何者だ!」
「――まて、隊長。なぜお前がニヤニヤしながら誰何する?」
「おいおい、ちょっとしたネタだろう?」
そんなネタ求めてないぞ。
つーか、アッカーメ隊員は止めな……あれ?
なぜに隊員はそこまで真っ赤なの?
肌より赤くなってるよ?
「昨日夜からここの担当に戻ったんだが、お前らのケダモノのような声を体験しちまったからなぁ」
「なんだ、そんなにじっくり聞いていたのか?」
「聞いていたというか、聞かされたというか……野獣でももう少しおしとやかにするだろうって位の声だったからなぁ」
この野郎……。
あぁ、サリアも真っ赤になって照れているではないか、いいぞもっとやれ。
わたしが許す。
「なぁ、いつも盗み聞きしているのか?」
お前、性的方面は種族的に無理……というか理解できないって言ってたよな?
「いやいや、俺的には今さらそんなことしないよ、飽きたし。アッカーメ隊員に経験を積ませているだけさ」
全く……。
その後も少しおしゃべりしてから別れ、執務室に向かう。
「おはようございます、ケイン殿。休暇を頂きありがとうございます」
「あぁ(ちらっ)、たっぷり楽しんだようだな」
サリアをチラ見して理解したのだろう。まあ、お肌つやつやになっているし実際その通りなのだが。
「休みの間に何かありましたか?」
「特にねな。このまま平穏な日々暮らしでゃもんだ」
「滅茶苦茶難しいと思いますけどね」
どうせ、魔王様とオフィーリアが変なところで遊びだすから頭抱えることになるだろうし。
「あぁ、それど人間の国、ていうが『NTR』から情報届いだ」
「え?」
「あぢらの方で新興宗教騒ぎ始めでらど連絡入ってら。以前王都さ来でバカ騒ぎしでだ奴らがいだよな?」
「確か自分のことを『勇者パーティ』と抜かしていた奴らですか?」
「んだ。人間の国々では最近まだ『勇者が魔王を倒す』とがいう考えが流行しでらんだど」
「……はぁ?」
またですか?
まず、『NTR』の説明から。
人間の国々と魔王国は基本友好的なやり取りをしている。
その理由は一つ。
人間側は瘴気に対して無力であり魔王様の能力をお借りしなくてはいけないから。
ただし魔王国としては窓口を複数用意するのは正直面倒。
人間側も各国が勝手に魔王国とやり取りして利益を分捕られるのも気に食わない。
そのため人間側で『人間国家群対魔王国合同外交連盟』、通称『NTR』を用意させることとなった。
なお、『(N)人間国家群 (T)対魔王国合同外交 (R)連盟』の頭文字から通称ができたのだが、なぜか(男女問わず)一部の人間側担当者が妙に興奮していたのを覚えている。
理由までは分からないがね、流石に説明を求める雰囲気でもなかったし。
妙に男女間で頬を赤らめつつ視線をチラチラさせていたので、人間側の恋愛的、もしくは性的な独特の言い回しに引っかかったのだろう。
そこでは国家間の面倒事を魔王国に持ち込まず、人間国家群として魔王国と交渉することを求められている。
また、魔王国との商売、宗教、常識の差異等互いに接点を持つことで噴出してしまう部分についてもこの部署でやり取りすることとなった。
例えば、オフィーリアの本名は『オフィーリア・メルアビス・コルムス』という。
そして、サキュバス族の伝統として親しき者に呼びかける時には『本名の最初の文字を繋げて呼ぶ』という風習がある。
ただし、その風習を人間たちの前で実施すると、国もしくは地方によって相手を侮辱する名になったり口には出せないような破廉恥な言葉になる場合があるらしい。
なおオフィーリアの場合、人間側の言葉で女性器の別名になるとかで本気で勘弁してくれと言われてしまった。
その割には言い出した側――男性だったが――が妙に興奮していたハアハアと息が荒かったのがとても気持ち悪かった。
そのような面倒を極力減らすために『NTR』が窓口となり互いの誤解や常識の違いを乗り越えていくことになった。
また、魔王国では『NTR』に属している者たち、そして商売等で魔王国とやり取りしたいという者たちのために国境の関所近くに『境の街』を作った。
ここまでは商人等『NTR』に属していない者たちも入れるように、そして魔王国の商人もこの場所で人間とやり取りできるようにした。
なお、人間国家に属する者たちは『NTR』職員を除き『境の街』までしか入ることはできない。
逆に魔王国に属する者たちは瘴気対応の関係者を除き一般人は『境の街』まで、軍務関係者はその先の関所までしか移動できないようにした。
さて、この『NTR』からもたらされた『勇者パーティ』についてだが……。
八百年程前に『竜を求めて』という物語が大々的に流行って『我こそは勇者なり!』とか言い出したバカな人間共が魔王国に大挙して来た。
正直『いい年して物語を現実と履き違えるなんて恥ずかしくないのか!』とも思うのだが、言って聞く連中でもなく恥ずかしさなんて母親の腹の中に忘れてきた者達しかいない。
皆取り押さえて魔王国へ侵入しての略奪行為があったことを人間の国々に伝えたところ、膝を折り全力で頭を大地にぶつけてきた。
あれは、古代エルフ語で言うところの『ドゥーゲザー』であろう。
ただ、わたしたちの伝え聞く動作とは少々異なり、わたしたちも頭を下げるが大地に頭をぶつけることはしない。
皆が大地を割るかの如く勢いをつけて頭をぶつけたことを考えると人間種族の中で広まって行く過程で進化したのかもしれない。
そんな風に昔を思い出してると、一つ気になることが出てきた。
「ケイン殿、もしかして今回も『竜を求めて』を読んだ者たちが暴走した?」
ケインも同じ疑問を感じていたようで、使者に確認していたようだ。
「一応聞いでみだが、少し違うようだ。『竜を求めて』自体は人間の国々に広まってらが、流石にあの頃のように物語読んで我らの国さ攻め入るごどは無ぐなってらようだ」
八百年も経てば人間たちもその位の常識を持つことができるようだ。
やはり時間が解決するものもあるのだろう。
「代わりに新興宗教が自分だぢに都合のえ話どごでっち上げで魔王国が邪悪な国だと広めでらようだ」
はぁ~?
「常識的な民はそんた話に興味はねが、浮がれだ輩や都合のえ話盲信しでしまった者だぢは『自分が勇者となって魔王国を滅ぼす!』て言ってだらしい」
「……馬鹿でしょ、そいつら。瘴気消せなくてもいいのなら勝手にしたらいいと思いますよ。我々は見捨てるだけですし?」
わたしが不快そうな反応を見せたことにケインも苦笑しつつ、わたしをなだめにかかる。
「まんず気持ぢは分がるが、人間の国々すべでがこの考え方ではなぐ一部の暴走しだ者だぢだげが迷惑掛げに来そうだって話だ」
その可能性はあるだろう。
「一応人間側でも監視するどのごどだが、すり抜げる可能性がある」
商人の馬車に同乗するとか、商人自体が新興宗教の者だったとか、関所を回避する手段には事欠かない。
いくら軍を派遣し確認しても限度がある。
「だんて、魔王国内に侵入しだでいう情報入り次第対応すべ」
「かしこまりました。一応確認ですが、前回と同様でよろしいでしょうか?」
「えぇ、王城にお越しいだだぎ現状を説明しだ上で人間の国々に返却でお願いするす」
ネズミがドラゴンに勝てるはずが無いように、元々人間側とわたしたちでは戦闘能力に違いがありすぎる。
それに加えて、魔王国と人間の国々で不戦、友好、治安に関する条約を結んでいる。
まぁ、人間国家側が安心できないだろうからと口頭による通達ではなく条約という形にしたところ、当時の王たちは号泣していたなぁ。
よほど怖かったのだろう。
そんなわけで条約上、魔王国に来ることのできる者は限られており、勝手に侵入することは禁止されているし、それでも侵入したら犯罪とみなされ処罰される。
それでもこんなバカな行動をするから人間の国々は立場が悪くなり続けるんだが、勇者たちはそのあたり理解できていないんだろうなぁ。
◇◇◇◆
この話は生物学的にエルフ、視覚的には訳あって化け物の夫婦がイチャイチャしつつも瘴気を無くすために苦労する話である。
……ただし、それは本筋ではない。
この話はエルフの夫妻が魔王国にもたらされる厄介事に対処し、国を維持するのに苦労する話である。
……ただし、それも本筋ではない。
キーワードに『NTR(別意味)』を追加しました。
一般的なNTRと誤解されなければよいのですが……