種族消滅の危機
◆◇◇◇
「次に、お前らはこの会議を行うと他種族に開催通知を送ったと聞いてるが?」
「そうだ。急ぎ開催しなければいけない内容だったから我々の方で各種族に送っておいたが、何か問題だ?」
ヴェルスタンドは本気で分かっていないのか、疑問を投げかけてくる。
「問題しかない。会議開催通知を出すのは王宮側のみ。各種族側は王宮側に会議開催を求めるのみ。それと、魔王国が建国されてから会議開催通知を部族側が出したのは一度のみ」
「一度あったのなら今回だってかまわんだろう?」
アーレはその一度がどのような理由で出されたのか分かっていないんだろうなぁ。
分かっている種族は頭を抱えている。
……気持ちはわかるぞ。
「その唯一のパターンだが、狐人族と狸人族が千年前に魔王様が幼児化したのを狙って魔王国の私物化を狙った時だよ。当然その結果は知ってるよな?」
二人とも、顔が真っ青になっている。
狐人族と狸人族を知らない種族もいたのか、ざわついている者もいる。
「この時の反省として開催通知を出すのは王宮側のみと定めた。その時のことはわたしが当時のエルフ族内の会議であなたたちも説明したが? それに二百年前にお前らが新規種族として登録されたときにも説明しているぞ?」
まさか忘れたのか?
「長寿命の種族だからこそあの時のことを後世まで伝え、短寿命の種族には注意喚起をし二度と起こらないようにしなければならないのに、むしろ自発的にやらかすとは……」
他長寿命種族からも『呆れて物が言えない』『早くもボケたか』とか言われている。
「それに加え、前回の定例代表会議を不参加とした理由も説明されてない」
そこかしこから『オイオイ』『あいつら死んだわ』という声が聞こえてくる。
「そんなの、こちらに都合があっただけの話だろう! それの何が問題だ!」
問題しかねぇよ。
「まず、定例代表会議は参加必須だ。そして出席できない場合その理由を報告する義務がある。お前らからは一切理由の報告はなされていない」
こちらが睨みつけるとアーレは睨み返してきた。
なんだ?
そんなに反抗できるほどの情報でももっているのか?
「なお理由として受け入れられるのが、
1.代表の死やケガ・急病により参加不可。
この場合は代理を出すよう求める。
2.移動手段の断絶。
天候による川の増水などだな。
こちらは後ほど会議議事録を送ることで対応している。
3.種族内での内乱。
これは王都から鎮圧部隊を送ることになるが、定例代表会議不参加より前、もしくは同時に内乱発生の報告が必要だ。
それ以外の不参加はまずありえない」
「ありえないとはなんだ!」
アーレはよくそんなにキレられるねぇ。
無駄にやかましいともいえるが。
「定例代表会議は事前に日付を決めており、そこに合わせて全てを調整すればよかろう? 調整でどうにもならない負傷や天候、内乱については検討するが、それ以外は理由が思いつかんよ」
「我らは重要な種族内会議が――」
「――無いよな? 定例代表会議より大事な種族内会議なんてねぇんだよ」
ヴェルスタンドが馬鹿なことを言い出すが、即刻ぶった切る。
「こちらの把握している限りでは代表は生きてるしケガもしていない。天候も問題なし。内乱も連絡されてない。これで何をもって不参加というのだ?」
アーレもヴェルスタンドも黙ってしまった。
まぁいつも通りなのだが。
「これらの行為は魔王様に対する反逆行為と見なされる。なんせ魔王国の法に背く行為ばかり、それも一つは魔王国が壊滅する寸前まで至った詐欺事件と同じ行為をしたのだからな。なので黒無能族と白無能族は種族まとめて処ば―――」
「――ちょ、ちょっと待て!」
ヴェルスタンドが慌てて止めに入る。
「今の貴様の説明から我々の行為はまずかったことはわかった。それは謝罪もするし反省もする。だが、種族丸ごと罰すると言うのは流石に待ってくれ!」
「その言葉、狐人族と狸人族も同じことを言ってたよ。その後皆殺しにしてやったがね」
今更なんだよなぁ。
許されざることをしでかしておいて、なぜ謝罪と反省程度で済むと思っているんだ?
法にも反逆行為と見なされる行動、そして処分方法について明記しているぞ?
二人ともガクガク震えているが、自業自得だからな。
「あの、あなた?」
サリアが発言を求めてきた。
いつだって愛する貴女の声は聞いてて心地いい。
遠慮なくわたしにその天使のような美声を聞かせておくれ。
そんな本音を言ったらなぜかサリアが照れていた。なぜに?
そして代表たちは大量の砂糖を吐いていた。なぜに?
とりあえず、話を聞く。
「元々なぜ緊急代表会議を希望したのか問いませんか? いや種族まとめて処罰は変わりませんが、一応代表方を集める程の内容なのか確認しては?」
アーレとヴェルスタンドが天使を見たかのように拝み始めた。
「ちなみに、緊急代表会議を開く必要もない内容であれば処罰の凶悪化を提案します。具体的に言うと、火刑とか釜茹でとか」
アーレとヴェルスタンドが悪魔を見たかのように怯え始めた。
馬鹿だなぁ。
サリアも怒っていることに気づかないんだから。
「ふむ、お前ら賭けてみるか? お前らが今回迷惑をかけられた各々方を納得させるような内容であればこの場で挽肉にするのだけは止めてあげよう。ただし無意味な内容だったら……」
首を掻っ切るジェスチャーをすると、ヴェルスタンドは怯えつつ首肯する。
そしてアーレは……。
「ふはははは! 我々の報告を聞けば貴様らが納得するのは間違いない! これで処罰も帳消しとなろう!」
……ナニイッテンノ?
周りを見てみるとヴェルスタンドを含めて皆から冷たい視線が刺さっている。
もうザクザクとしか言いようがないくらいに。
……なぜ気づかないのだろう?
「我とヴェルスタンドの内容は同じ、我らの種族の保護を求める!」
……はぁ。
「魔王国にいる以上保護はしてますね。ならこの会議は不要だったと言うことですね。おめでとうございます。種族丸ごと挽肉決定で――」
「――ちょっと待て!」
何を待つのです?
納得させられなければ挽肉と言うのは既に言ったはずですよ?
「こちらの言ったことを勘違いしている! 保護の意味が違う!」
は?
ならちゃんと説明しろよ。
「我が言っている保護は『種族消滅の危機』に対してだ!」