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イベントしたい!

◆◇◇◇


 こちらの疑問にグリノ殿が頭を掻きつつ答えてくれる。


「それは分かる。


 ただ、この提案には複数の理由がある。


 一つ目は戦いを求める者たちが争う機会がほしい。


 こちらは種族問わず武を志す者からの希望だ。


 確かに国内で実力を見極めるような戦いが公に行われることは無いので、それぞれの武の切磋琢磨のためにも良いのではないかと考えた。


 下手に裏で戦われても面倒だしな」

 

 あぁ、それはそうだ。

 

 切磋琢磨と抜かして殺し合い、死体をそのままにして去られてもねぇ。

 

 国の視点からしたら『殺人』『死体遺棄』とみなされ犯人は処刑だしねぇ。

 

「二つ目は戦闘しか取り柄が無いが騎士には実力が届かない者。彼らに実力を発揮する場所を与えたい」

 

 ん?

 

 騎士には実力が届かない者?

 

 それなのに実力を発揮する?

 

 よくわからないが……。

 

「ん~、簡単に言うと、騎士にはなれなかった者たちの誇りを取り戻してやりたいのだよ。

 

 騎士になれず、もしくは騎士になったが周りの実力を理解してしまい挫折した者たちは集落に戻るのが大半だ。

 

 そこで普通の生活に戻るのだが、どうしても自分が騎士を目指せる程度の実力があったことが枷になるときがあるのだ。

 

 誇りに思うのは構わないのだが『実力があったのだからこんな仕事なんぞやってられん!』という方向に進む場合がある。

 

 最悪、賊にまで身を落とすものも出てくる」


 ……自分が強いと思っていた頃の自信、プライドを捨てられずに弱者をいたぶることで満足を得ようとする可能性があると?

 

「それって、以前あった郵便事業のチーマーみたいだが?」


 問うと、グリノ殿は苦しそうな表情を見せた。


「あぁ、そうだ。


 あれも暴力による報酬として大金を見せられ、道を誤ったパターンだ。


 王都や境の街に出られてしまうと、わしら代表側でどうにかするのは難しい。

 

 だがその手前、集落にいる時点で犯罪に身を落とすのをできるだけ防ぎ、悪に落ちる前に自信、誇りを取り戻させてやりたいのだよ。

 

 まぁ、どれだけ手を伸ばし助けようとしても悪に落ちようとする輩はいるだろうが、その人数を減らしたいと考えている。

 

 あ、ちなみに、この二番目にはこういう競技会を用意して暴れさせたらガス抜きになるだろうという側面もある」


 ふむ、それは確かに治安維持の観点で意味はある。

 

 ケインも関心を持っているようだ。

 

「ちなみに、騎士狙いの者たち以外は? 具体的に言うと文官狙いの者たち」


「あぁ、そちらは種族内文官として働かせている。むしろこちらは悪いこと考える余裕は皆無!」


 ……は? え? まさか?

 

「まさかとは思うが、本来代表の仕事を押し付けているとか?」


 戦闘系種族一同とやら……一斉に視線を逸らすなよ。

 

「……一応、仕事の結果をチェックすることはしておるぞ?」


 っざけんな!


「そんな当たり前の事も出来なかったら即刻代表辞めていただきたいですな!」

 

 グリノ殿からしてみれば軽く笑いを取りたいのかもしれないが、日々王宮に集まる書類と格闘している側としては、喧嘩売られてるようにしか感じられないが?

 

 こちらが不快であることがよくわかるような口調&表情で返事をすると、流石にまずいと思ったのか話を逸らす。

 

「まぁ、文官側はともかく」


「おい?」


「ともかく! 戦うことしかできない者たちに光を当ててやりたいのじゃよ」


 う~ん……いうのは簡単ですけどねぇ。

 

「気持ちは分かったが、どういう競技を想定している? 流石に国全体でやるとなるとどれにも参加できない種族が出るのは許容できないが」


「分かっておる。なので、全ての種族が全ての競技に参加する必要はない。自分たちの得意な競技に参加し、種族間の争いは行わない。完全に個々人の争いを想定している」


 種族的な優劣よりも同一条件において競い合うってこと?

 

 ってことは、例えば剣術の競技でも大剣や短剣、細剣とかで分ける感じ?


「ざっと考えたのはガス抜き必要な輩用に無手格闘術、各種武器戦闘術、そして誰でも参加可能なように走ったり投擲したり等の安全そうな競技を検討しておる。


 正直飛行種族や海洋種族の競技が思いつかないのは申し訳ないがそこは関係者と相談の上で決めたい」


 うーん、ダメと言うわけではないんですけどね……。


 ケインの方をチラッと見ると、かなり悩んでおられます。


 多分、予算と国民感情の狭間で揺れているんでしょうね。



「ケイン殿、何をお悩みでしょう?」


 一人で悩むより、議論していた方が進みそうなので水を向けてみる。



「色々考えるごどは多ぇ。予算どがね。ただその前に、なしてある程度種族内でガス抜きしてだがそれが間に合わねぐなったのが……」


「……勝手な推測ですが、ガス抜きしたことで『この程度なら許容される』と判断されたのでは?」



 わたしがコメントするとグリノ殿が顔を青くしながら割り込む。


「流石にそれは……」


 気持ちはわかるが……ねぇ。


「グリノ殿が言いたい気持ちもわかるが、この場にいる者たちの役割として民への『緊縮と弛緩』のバランスが大事となる」


 グリノ殿が首をひねっているようだし、ちょっと説明に入るか。


 

「個人的な考え方だが、『緊縮』は行動を規制すること、『弛緩』は行動を許可することと認識してくれ。民が望む『暴れたい』に対して『種族内でなら許可する』という『弛緩』を過去に行った。そうだな?」


 グリノ殿がうなずく。


 

「民はこの時点で『現状維持』『行動縮小か中止』『行動許可範囲の拡大』の三種の行動を選ぶ。ある程度満足するまでは『現状維持』だろう。そして不満が溜まると『中止』『拡大』のどちらかを求める」



「すまん、『現状維持』ってアリなのか?」


 セオドア殿が問うてくる。


「小さな変更はともかく、上手くいっているのに大きな変更を行ってぶち壊しにするのは避けたいのでは?」


「あぁ、なるほど……」


 納得してもらったようだ。


 

「『中止』は関心が薄れたり予算がつかなかったりする場合、『拡大』は関心が高かったり予算つけてもらえそうな場合。今回は暴れることに対して関心が高く、代表たちにねだれば成し遂げられるんじゃないかと判断されたのでは? それに、当人たちも参加したそうだし……」


 こう言うと、代表の数人が目を逸らす。


 バレバレなんだよ、君たち。



「一応言っておくが、あなたたちがガス抜きの為に種族内で競い合いを認めたことを否定する気は全く無い。ただ、それをこのまま拡大させていくと『腕力ある者が価値ある者である』という勘違いを起こすのではないか、というのが懸念点となる」


「まさか! そんな馬鹿な!」


「郵便事業で鼠人族に暴行を加えた者たちはその類ではないのか?」


 以前あった事件を引き合いに出すと、皆ばつの悪そうな反応をする。


 そりゃそうだよな。


 一歩間違えれば種族消滅しかねない話だったあの件が再発する可能性がでてくるなんて言われれば皆ヤバいと思って当然だ。

 

 

 単純に暴れたいだけでは済まない事態が見えたのか、代表側も黙ってしまう。


 そこで、ケインが提案してきた。

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