暴 れ た い
6章『白の暴走』始まりです
◆◇◇◇
毎度お馴染の魔王国代表定例会議。
その前日ということで開催前の準備に大忙しの執務室からお送りする。
……呪いかかっていると、大忙しの時に胸と腹の間に汗が溜まるんだよなぁ。
今回の開催だが、戦闘系種族一同と言う形で案件が届いた。
わざわざ『一同』なんて形で出してくるくらいだからよほどの案件だろう。
現在ケインが確認しているが、あまりいい表情ではない。
「ケイン殿、難しい案件なのでしょうか?」
「いや……案件自体はこれ以上分がりやすぇものはね。ただ……」
口ごもりつつ、わたしに案件書類を渡してきた。
サリアと首ひねりつつ書類を見ると、一言。
暴 れ た い
……ナニコレ?
サリアと一緒になってケインを見ると、首を横に振っている。
お手上げなんだな、これ。
「これ、どっちなんでしょうね。競技会を求めているのか、殺し合いの場を求めているのか」
サリアが発言するが、わたしもケインも答えようがない。
この案件を出してきた者たちがどちらも喜びそうなのだから、判断しようがない。
「とりあえず、会議の際に意図を確認するしかないですね」
わたしは悩むのをやめ、会議当日まで寝かせておくことを提案する。
二人もこんな面倒な対応を考えるのは嫌だとばかりに賛成してくれた。
「それと案件とは別んだども、白黒無能族が今回の会議に不参加願いを出してぎだ。理由は種族内会議と重なる為どのごど。んだども、その種族内会議とやらがどいだげ重要なのが一切記述はね」
「「は?」」
あぁ、うん、気持ちはわかる。
サリアよ、その怒りの表情は元の素敵な表情に戻した方がいい。
本日の執務室付きである近衛第二部隊所属、獅子人族のリオターリ君がものすごく怖がっている。
尻尾を股の間に挟めてピルピル震えているから相当怖かったのだろう。
ケイン、呆れているのはわかるのですが、あいつらがまともな行動を取れるなんてあなたも思わなかったでしょ?
突発的に発生した会議ならともかく、定例会議に出れないなんて災害や代表の死による新規選出の為でもない限り不参加はあり得ない。
なんせ、前回の定例会議終了の時点で開催日が決まっているのだから。
そこに種族内会議を重ね、かつそちらを優先するなんて魔王国に喧嘩売っているとしか思えない。
まぁ、会議であの二種族が不参加願いをふざけた理由で出してきたこと広めておこう。
暴れたがっている奴らだ。
少し頭が回る奴は二種族を処理するために準備を始めるだろう。
さて、会議当日。
なんかワクワクしている戦闘系種族の代表たちが正直気持ち悪い。
なに筋肉の見せ合いしているんだ?
会議で筋肉使うわけないだろうが。
周り見てみろ、他種族から嫌悪の視線が突き刺さっているぞ。
一部の代表は涎垂らしているが……ソッチの趣味?
その手のプレイは会議後に別の場所で頼むぞ?
いつも通りに魔王様の宣言により会議が始まった。
本来この後ケインが引き継ぐのだが、それに割り込みをかける者がいた。
「宰相殿、我らの案件を最優先にご判断いただきたい!」
熊人族の代表セオドア殿が立ち上がり雄たけびをあげるかのように叫んだ。
ケインは頭を抱えつつ、珍しく真顔で答える。
「貴様の種族が魔王国と戦争してゃのならかまわんが、滅ぼされだぐねのなら黙って座れ」
会議参加者全員がビクッと身体を震わせ、騒いだセオドア殿もおとなしく座った。
周囲を見回し、全員がおとなしくなったのを確認した上でケインが報告を行う。
「まず、今回の会議で不参加の部族が白無能族と黒無能族の二づ。どぢらも種族内会議と時期重なるがら不参加どするどのごどだ」
ざわっ。
「一応念の為伝えでおぐが、王宮側としてはこの種族内会議どやらがどんた内容なのが明示されでねがら現状では判断がづがね」
ざわざわっ。
まぁ、ざわつくのもわかります。
不参加の理由として種族内会議を出すのならその会議がどれだけ緊急なのか説明するのが筋。
それをすっぽかしている時点でこちらの代表定例会議を下に扱っているとしか思えない。
「だんて次回までに言い分を説明するよう詰問する予定だ」
代表たちがヒソヒソ話し合っているようだ。
多分戦争になるか、被害が来ないかを相談しているのだろう。
「さで、周知事項はこごまで。で、案件の話に移るがセオドア殿」
「ハッ!」
「あだが騒いでだのは、戦闘系種族一同という形で提示されだ件についででよろしぇが?」
「はい、私共は戦いの場を欲しております!」
「それは、殺し合いの場と言うごどが?」
「「「えっ?」」」
……
あれ?
ケインの問いにあちらはちゃんと回答できないの?
ん~、割り込ませてもらおうか。
「セオドア殿、あなたが提出した案件には『暴れたい』としか記載されていない」
「「「えぇ?」」」
戦闘系種族一同、なぜお前ら驚く?
お前らがセオドア殿経由で提出した案件だろう?
「我々は殺し合いがしたいのか、別の意図があるのかあの四文字では判断できない。そちらの戦闘系種族というグループで、どういう意図であの記載をしたのか説明を求める」
わたしが問うと、大半の代表がセオドア殿を睨み付け始めた。
流石に案件提出で『暴れたい』で済ませるのは無いという認識は皆持っているようだ。
なら事前にチェックしておけよ。
これはまずいとでも思ったのか、犀人族代表のグリノ殿が挙手をするので発言を許可する。
「まずは誤解を解きたいのだが、殺し合いをしたいわけではない。競い合う場を求めて案件を提出した」
なら、最初からそう書け!
あの文章でそこまで読み取るのは不可能だ!
「あまりにも書き方が悪いのはわしらも理解できる。文面の確認をせずセオドア殿に任せっきりにしたこちらのミスだ。申し訳ない」
あの手紙が記述が足りなすぎるというのを理解してもらえてなによりだ。
皆があのレベルでしかやり取りできなくなったかと本気で心配したんだぞ!
「とりあえず、競い合うごど求めるのはわがった。んだども、それは種族内で行えるものでは?」
ケインが当然のことを問う。
まぁ、スライムと虎人族で短距離走やっても無意味でしょ。