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近衛騎士の悩み相談と夢の終り

◆◇◇◇


 騎士たちが集まっている所に向かうと――

 

「彼女欲しい」


「うちのはなぜあんなに惚気てくれないんだ……」


 ――などとムサイ男どもが乙女のようにさめざめと血の涙を流し泣き崩れていた。

 

 一部の既婚者共も頭を抱え座り込んでいる。


 ちなみに、ガルム隊長は『部下達の私生活が……』と落ち込んでいたようだ。


 落ち込む暇があったらフォローの検討してやれよ。


 以前わたしに似たような相談してたし、実体験あるだろ?



 ……はぁ……。




「あー、君たち」


 ビクッ!

 

 バタバタ!!

 

「ちょっと待ってくれ。別に君たちの仕事について注意しに来たわけではない」


「「え?」」


 落ち込んでいた者たちが一斉に隊列を組もうとするので、慌てて止める。

 

 別にタイバーン殿に告げ口するわけではないんだから、そんなに怯えるなよ。

 


「副宰相殿、では何用でしょうか?」


 ガルム隊長が尻尾を股に挟みつつ問うてくるが……その体勢、めっちゃビビってますって宣言しているようなものだが、理解しているか?

 


「魔王様たちがおられる辺りにも君たちの嘆き声が聞こえたので、流石に心配になって様子を見に来たのだよ。なお、タイバーン殿たちは気づいていないようだから安心したまえ」

 

 上司にバレてないと聞き安心したのか一部の隊員が大きく息を吐く。

 

 ……よほどタイバーン殿&ジャシーリ殿が怖いんだな……

 

 

「で、彼女がいないのと奥さんが冷たいので泣き入れていたで合ってるか?」

 

 ビクゥ!

 

「ああ、誤魔化さなくていい。そこまで聞こえたから来たのだよ」


『マジか』『そこまで聞こえてたのか』とか言っているが……。


 エルフイヤーは地獄耳なのだよ(ドヤァ)。


 まぁ、わたしじゃなくても二人の世界に入らなければ他の者たちも聞こえると思うがね。

 


「で、君たちにいくつか質問があるのだが構わないかな?」


 隊員たちはちょっと相談し、頷く。



「あー、まず既婚者たちに問うが、毎日奥さんを褒めたり『愛してるよ』と自分の想いを伝えたりはしているか?」


 皆、キョトンとした後に首を振る。


 ガルム隊長は依然相談に乗ったからなのか、流石に頷いてくる。



「それやらないと、奥さんは女と見られていないとか自分に関心を寄せてないとか思われるぞ」


『冗談だろ』『嘘、そんなことくらいで……』とか聞こえてくるけど、むしろお前たちの行動の方が嘘だろと言いたい。 


「君たちの奥さんからしてみれば、一切愛情を向けられないどころか関心を持たれていないと感じるだろうな。その状態でどうして奥さんが君たちを愛さなければならない?」


 ザワッ!

 

「……今、君たちの頭の中には奥さんに愛想尽かれて離婚という流れを想像したのではないかな? その想像は正しい……今のままならな」


 一応事実だからな?

 

 実際何人も今の流れで離婚した奴らを見ているからなぁ。

 

「今の想像を現実にしないためにも提案をしておこうか」


 ギュン!

 

 ……君たち、そんなに熱い視線を向けないでくれたまえ。

 

 わたしには妻がいるのだよ?

 


「いきなりわたし並にやれとは言わないが、最初は朝起きてキスすること、一日一回相手の目を見て『愛している』と言うくらいから始めて少しづつ愛していることを相手に言葉、もしくは行動で伝えなさい」


 なんか皆『そんな面倒くさいこと……』って感じの表情だが……。


「黙って相手に気づくことを求めても無駄だ。『愛している』と言わないのなら伝わらない」


 聞いていた奴らを睨み付けると、聞いていた者たちは高速で頷き始めた。


 ……首痛めるぞ?



「次に彼女の居ない面々だが、自信がない? それとも仕事上出会うチャンスがない? まさか、高位の女性狙いすぎ?」


 未婚者達は互いに顔を見合わすと、相談を始めた。


 数分後、結果報告された。


『自信なし』0%、『出会いなし』80%、『狙いすぎ』15%、『その他』5%。


 ……『その他』って何?

 


「『その他』とは、その……同性の彼氏がいないことが悩みとなります。なお、ある意味『自信なし』に全員含まれます」


 あ、そっちですか、さいですか。


 

「あー、とりあえず『その他』は『自信なし』として扱います。この人たちは相手の性癖を確認の上で当たって砕けるしかありません。言わなきゃ相手はわからないんですから」


 これはある意味簡単で、ある意味一番難しい。



「相手が自分を少しでも関心、そして好意を持ってくれているかを見切ること、それと自分の想いを伝える度胸。これがあるのが前提だがね」


 度胸無いのに告白なんて無理だし、相手を見切れなければ嫌われているのに告白なんてこともあり得る。



「次に『出会いなし』ですが、休暇あるよね? その時に何している?」


 答えは『自主訓練』『寝てる』『同僚と酒』『娼館』?。



 はぁ……。


 

「君たち、女性と出会うつもりないだろ?」


 一斉に騎士たちが騒ぎ始めた。


『どこがおかしい!』


『出会いたいという気持ちを分かってもらえないのか!』


 いや、これでわかるはずないだろ?


 

「まず『寝てる』の人、夢の中の彼女でいいなら止めないが現実で彼女が欲しいなら外に出ろ。部屋にいてどうして出会いがあると思った?」


 あ、黙っちゃった。


「他三つはそれぞれの場所……訓練なら騎士団内、酒なら同僚か酒場の女性、娼館ならお相手してくれた嬢……これらの相手を狙っているのであれば問題はないが、そうでなければ『寝てる』の面々と変わらないぞ。出会いが欲しいなら、出会う可能性のある所に行けよ」


 対象者が視線を逸らす。


『わかっちゃいるけど』ってところか?


 まあその後に『やめられない』と言い出すかもしれないがそこまではフォローしきれん。

 

 

「最後に『狙いすぎ』の人、誰狙ってるんだ? ん?」


「その、チェリーさんです……」


「はぁ? お前も?」


「え、嘘だろ、貴様もか?」


 全員、チェリーさん狙いだった……。


 

「回答はただ一つ、お前らじゃ無理だ」


 また騒ぎ始めやがった。


『無理だなんてひどい!』『チェリーさん彼氏いないはずだろ!』


 全く……情報収集してないのか?


 先ほどのジャシーリ殿の奥方に説明していた時に聞いていなかったのか? 



「まず、サキュバス族の『真実の愛』について理解している者挙手!」


 ……全員手を挙げるの?



「なら分かるよな? チェリーさんには相手がいるぞ。それも『真実の愛』が成立している相手だ。知らなかったのか?」


 先ほどの騒ぎが嘘のように一斉に静まり返りこちらを凝視し始めた。


 いや、先ほどの昼食風景見れば一目瞭然だと思うんだが……。



「あ、あの、嘘ですよね?」


 なぜか、ガルム隊長が代表して聞いてきた。


「お前既婚者だろ! そういう発言聞かれたら奥さん呆れるぞ!」


「あ、いや、個人的興味です!」


 こ、個人的興味って……。


「まず、この場で嘘をつく意味がどこにある? それにこのピクニックの場にいてこの程度も分からないとなるとそれはそれで問題なのだが」


「「「え゛?」」」


 本気かこいつら?

 

「今、分からなかった者たちは、先ほど『自信なし』の面々に説明した『相手を見切ること』が全くできていないと言うことだからな? 正直お話にならんよ」


「「「あ゛」」」


『自信なし』も問題だが、こいつらの場合は相手が好意を持ってるか判断できないってことだしなぁ。


「一応言っておくが、魔王様達やわたしたちのようにそこら中にラブラブっぷりをばらまくようなことをしていないので気づかなかったのかもしれんが、付き合っているのは事実だ」


「「「……」」」


 あ、ショックで表情が……もう少し口を閉じろ、馬鹿みたいだぞ。


「というか、チェリーさんは相手に惚れてこんでいるから他に目移りなんかありえない。建国前から『真実の愛』が発動してるんだぞ?」


 建国前=千五百年程前。


 こんなに長くラブラブなのに今更ほかの男になびくと思うか?


 

 ……真実を説明したら、なぜか騎士たちが崩れ落ちているのだが。


 本当に周りをちゃんと見ろ!


 特にお前らは近衛騎士だろう?


 他の奴らより情報入りやすいのに、なぜここまで無知なのだ?



「いや、まだ結婚していないのであればワンチャン!」


「ないな。種族的な都合上結婚はしない可能性が高いが、そんなことはあの二人には関係ないことだし、そんな程度で気持ちが変わるなら既に変わっていると思わんか?」


 なんか、『いや、まだだ、まだ終わらんよ!』みたいなことを言っているが……。


「ちなみに、お前のような判断をして告白から玉砕の流れに乗る奴らがこの千年の間に何万人といるぞ」


 哀れな夢を語る輩に現実を教えてやったら虚脱した表情を浮かべている。


 ……現実とは厳しいもんだよ。


 身をもって知ったと思うけどね。


 

 その後、後片付けして王宮に戻った。


 魔王様がお喜びになられたのと、タイバーン殿夫妻とジャシーリ殿夫妻がイイ感じな雰囲気をばらまいている。


 こりゃ、来年位には子供ができるかな?

 


 自宅に戻って夕食中、サリアが結果報告を求めてきた。


「昼食後に騎士たちとお話してた件、うまくいった?」


「うーん、一応……」


 正直に奥さんにちゃんと向き合っていない奴らへのフォローと彼女いない面々への指導、そしてチェリーさんは彼氏いるという情報を提供したと報告する。

 


「はぁ、まだチェリーさんを彼女にしたい者たちがいるんですねぇ」


「国ができる前からこの状態なのに、なぜ情報を引き継がないんだろうねぇ」


 二人して首をひねるがどうにも分からない。

 


◇◆◇◇


 夕食の配膳をしていたミアは二人の発言を聞き、表情には出さないが呆れていた。


 

 騎士たちがチェリーさんに彼氏がいることを教えない理由。


 そんなの、『自分と同じショックを受けてしまえ!』ってわざと黙っている以外に理由なんてないじゃないですか。


 

 他人の不幸は蜜の味。


 近衛騎士になってもその考え方は変わりません。



 彼氏を倒して自分がその代わりに……と言うのはどうあがいても勝てないと彼らは分かっています。


 実力的にも、権力的にも。


 でも悔しい、妬ましい。



 なら、後輩たちでこの妬ましさを解消しよう。


 彼らに情報を教えず、チェリーさんに恋をして告白して玉砕するのをそばで見ていてやろう。


 そして玉砕した後輩を慰めつつ、もしくは慰めるフリをしつつ自分は後輩の不幸を見て喜びを感じる。


 

 こんなところでは?


 

 仕事の時にはこの程度の悪意をちゃんと判断できるのに、今回理解できていないのは近衛騎士団という自分たちに近しい味方であるからではないでしょうか?


 実際『魔王様をお守りする』という点では力強い味方ですので間違ってはいないのですが、恋愛方面においては味方となる者は自分と敵対しない者、かかわりのない者だけであることを思い出してほしいものです。


 

 まぁ、これで何か問題発生してもお二人への影響は無いので答えは教えませんが。


これにて5章終了です。

いつも通り、明日は種族・人物紹介とし、明後日から6章に入ります。

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