サキュバスの秘密と近衛騎士の不穏な空気
◆◇◇◇
夫婦・恋人間のイチャイチャからピクニック参加者間の会話に移っていくと、女性陣の中でオフィーリアとチェリーさんの服について興味津々といった感じで聞いていた。
「オフィーリア様、今着ていらっしゃる服、妙に背中が開いてらっしゃるけどそれはメイドという仕事としては普通なんでしょうか?」
あぁ、ジャシーリ殿の奥方は王宮の状況ほとんど知らないもんなぁ。
「あー、一般的なメイドとしては肌を見せる様なことはないと思いますぅ。ですが、あたしの種族はサキュバスでして肌を見せるのは種族としての誇りなんですぅ」
まぁ、種族ごとに誇りはあるからそこは何とも言えないな。
「ただ、メイドとしての仕事と誇りも捨てるわけにはいかないので折衷案としてこの姿となってますぅ」
サキュバスが肌を見せるのが基本であり当然という考えで、代表も会議に参加する時には全裸よりいやらしい恰好をして『礼服です♡』なんて言ってくるのでそれに比べれば落ち着いた服装をしているとは思う。
まぁ、慣れないとただの痴女なんだけど。
「ちなみに、メイドの誇りって?」
「ホワイトプリムとロングスカートが基本ですぅ。上半身は極端に外れたものでなければ改造可能にしてますぅ。今あたしが着ているのはほとんど改造してない奴ですねぇ」
わたしの質問にオフィーリアは答えてくれたが……背中ほぼ隠せてないし、少しロングスカートをずらして尻の割れ目がちょっと見えるくらいになっているが、これで『改造してない』?
チェリーさんのほうを見ると、全く改造していないんじゃないかというくらい落ち着いたデザインになっているが?
「あ、ちなみに見えない部分は皆やりたい放題に改造、もしくは除去してますよ。そこまでは口出しする気が無いんで」
改造はわかるけど、除去?
……まさか、ブラジャーやショーツを除去?
魔王様が喜びそうではあるけど。
「ちなみに、今の私の服は書物で見つけた古い時代の服で、戦闘服としても使えるようですぅ」
古い時代の戦闘服兼務のメイド服?
「サリアに聞いた感じでは古代エルフの時代辺りのようですよぉ」
まじかよ。
「そんなものがあったとはなぁ。」
それなりに古代エルフの文化を調べたつもりだったが……確かに妄想レベルの話はあったし、メイドが護衛とか大きな剣を持って戦闘とかする話もあった。
だが、それらは全て物語の中での話であったり、その話を服装だけ真似てみたというだけで、実際戦闘しているとは記載はなかったと思うが……。
「ええ、『童貞を殺す服』と言うらしいですよぉ」
ブフォッ!
「ちょ、ちょっと待って、魔王様も納得しない!
それって、わたしも古代エルフの情報を調べた時に見つけたけど、意味合い違うはず!」
「えっ? 違うんですかぁ?」
なんか、驚かれてしまったが……。
「確か、『童貞を殺す服』ってのは本当に殺すのではなく、女性経験の皆無な(ケインのような)男性には刺激が強すぎ&脱がせることが難しい服という意味だったはず。
まぁ、清楚感を感じさせる服という意味もあったけどオフィーリアには前者の方が合うのでは?」
「なら、問題ないですねぇ。ベッド上の戦闘はサキュバスの華、サキュバスであるための誇り。いつでも戦闘に入れる姿はわたしたちの戦闘服にふさわしいですよぉ」
常在戦場ってこと?
「まぁ、可愛いから問題ないけどね」
「魔王さまぁ~!」
魔王様が惚気てオフィーリアが満足して終わってしまった。
ある意味予定調和?
「ね、ねぇ、あなた」
なんだい、サリアよ?
「そ、その、私も……着ましょうか?」
ブフォッ!
ゲホッゲホッ!!
「い、いや、嬉しいけど……他に見せたくないな」
「じゃあ、二人っきりの時に……」
サリアよ、顔真っ赤にして自爆覚悟で言ってくれたのはとてもうれしいが、わたしにもめっちゃ飛び火しているんですけど!
具体的に言うと、わたしも顔真っ赤になっているのが自分でわかってしまうのだよ。
「若ぇねぇ」
「恥じらいつつの惚気ってあんな感じでやるんですねぇ」
「うん、なかなか勉強になるよ」
ケイン、オフィーリア、魔王様の順で煽ってくる。
「いやいや、皆さんも五桁年ほど存在しているじゃないですか。わたしたちを若いと言うのなら皆さんだってまだまだ若いですよ」
存在年数をネタにしたら、皆微笑んでくれた。
あ、ちなみに『存在年数』ですが、ケインが死体なので『生きている』という単語を使えないのでこの言葉で代用してます。
「あ、あともう一つお聞きしたいのですが?」
「はい? なんでしょう?」
ジャシーリ殿の奥方が興味深々な感じで聞いてくる。
「オフィーリア様やチェリー様はサキュバス族と思いますが、先ほどの副宰相様の発言からすると一万年以上生きてらっしゃるという認識であっておりますでしょうか?」
……あぁ、その件ですね。
奥方も恥ずかし気に質問した理由を説明してきた。
「その、夫が代表だったころにサキュバス族の商人の方と知り合いになったのですが、二十年くらいで代替わりされておりました。『身体が言うことを聞かない』だそうですが、その後一万年近く生き続けるとは思えず……」
……なるほど、それは確かにそう思われてしまいますね。
オフィーリアにアイコンタクトをすると、頷き説明し始めた。
「あたしたちサキュバス族は基本的に獣人族系の方々とそう寿命に差異はありません。ですが、一つだけ例外があります」
「例外?」
「はい、真に愛する人ができた場合その相手と同じ寿命となります。私たちは『真実の愛』という名称で呼んでますが」
「えっ?」
うん、気持ちは分かります。
わたしも初めて聞いたとき同じ反応をしてますね。
「なぜこうなっているのかは誰にもわかりませんが、わたしたちの種族ではこういうことがあるとご理解ください。大体……千人に一人くらいの割合でこの事態が起こります」
これ、わたしたちも最初は本気で驚いたんだよなぁ。
オフィーリア自身も年寄りの妄言と思ってたみたいだし。
「なお、相手に告白したり抱かれたりと言った条件はなく、自分と相手が互いに愛情を持ってしまった場合のみ発生します」
そうなんですよねぇ。
サキュバスなので挿入(どこにかは皆様の常識でお考え下さい)が必須条件と思ってしまいがちですが、全く無関係ですね。
だからこそケインのような告白できなさそうなヘタレであってもチェリーさんが『真実の愛』に目覚めることができています。
「ちなみに『真実の愛』が発動した場合、あたしたちの身体に印が出てくるのと、該当する相手を見たときに心で分かってしまうのです」
まぁ、一目惚れの超強力バージョンって感じらしい。
分かるか、ケインよ。
お前がチェリーさんに惚れているのは、『真実の愛』のおかげでバレバレなんだよ。
「一万年以上生きていられる存在に『真実の愛』が発動したのはあたしとチェリーだけですが、過去には蝉人族の若者に発動して早死にした者もおります。まぁ、当人たちは短時間でしたがとても幸せだったようですけど」
相手の寿命によるから状況によってはごく短時間しか生きられないというパターンもあるってことですね。
「まぁ、ステキ! 愛に殉じたのね!」
「えぇ、何度聞いてもすばらしいですわ!」
ジャシーリ殿の奥方の感極まった反応にタイバーン殿の奥方も涙が止まらないようだ。
タイバーン殿の奥方?
あなた過去に何度も何度も繰り返し聞いてますよね?
というか、竜人族ってうちらに負けない位長生きでしょうに。
まあ乙女心にヒットしてしまったら何度聞いても涙してしまうのでしょうけど。
「……うらやましい……」
「……うちでも……無理か……」
ん?
ピクニックも佳境に入ったあたりでかすかに話声が聞こえてきましたが、どこから?
周囲を見渡すと、一部の騎士たちの中で血の涙を流したり、落ち込んだりしているグループがいますね。
って、ガルム隊長までなぜ……確かあなた既婚者でしょうに。
というか、護衛任務おろそかにするのはまずかろう?
タイバーン殿やジャシーリ殿に見られたら……。
って、あれ?
タイバーン殿とジャシーリ殿の反応がありませ……あ、ごめんなさい、見ないでおきます。
……何というか、既に二人×二組の世界に入り込んでおられた。
すいません、煽りすぎましたでしょうか?
まぁ、奥方たちは満足しているようなので良しとしましょうか。
「すまん、ちょっと離席する」
「どうしたの?」
サリアに騎士たちの状況を説明すると、溜息と共に許可を出してくる。
「仕方ないわね。ケインみたいな人を増やすのは避けたいし離婚率上げるのもまずいから相談に乗ってあげて」
ケイン増やすのって……もうちょっと言い方を……いや、正しいのだけど。
本話追加時にタグ『真実の愛(別意味)』を追加しました。
オフィーリアやチェリーさんは恋愛系でそこかしこに蔓延しているヘタレ野郎とは違うのだよ!
あ、ちなみに『真実の愛』発動時の印について、作者は捻らずに『淫紋』と呼んでました。