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王宮生活体験ツアー

◆◇◇◇


「モーリー殿」


「な、なんだよ」


「あなたは確かに犯罪を犯した。ただし、同時にこの国をボロボロにするような愚か者どもを処分することができた。流石にそれはわかるな?」


「あ、ああ」


「で、この国をある意味助けた人物に対して、魔王様の名において褒章、もしくは減刑等の行動を取るのが当然なのだ」


 とても困惑しているようだが……そんな難しいこと言ってないんだがな。


 信賞必罰というだけなんだがなぁ。


「そして、これを受け入れてもらわないと、魔王様が恥知らずとして後ろ指刺されるようなレベルの問題になるのだ。国としてはそんなことさせられない。どうか、減刑を受け入れてほしい。魔王様の為に」


 説得(と言う名の魔王様の名を使った強制)が功を奏したのか、頭をガシガシと掻き、承諾してくれた。



「快く承諾してくれて何よりだよ」


「脅して首を縦に振らせるのを承諾っていうんだな。初めて知ったよ」


「覚えておくと、話が早くなるぞ。では、減刑によりモーリー殿は『禁固一日』とする」


「……は?」


 ポカーンとした感じで口を大きく開けている。



「以上で裁判を――」


「ちょっと待て!」


「――なんだよ?」


 モーリー殿が騒いで終わらせようとするのを邪魔してくる。


 本当になんなんだよ。


 さっさと終わらせたいのに。


 

「なんだよ、その『禁固一日』って! 馬鹿にしているのか?」


「……あぁ、場所は王宮の最高級の客室で風呂もトイレもついているぞ。安心して処分を受けるがいい」


「いや、そんなところ心配してないから! いくら減刑だといっても一日ってなんだよ!」


「そんなこと言われても、あなたはそれだけのことをやってしまったからなぁ」


「だからって……」


「一応言っておくが、全く処罰を受けないのもまずいと『禁固一日』にしたんだからな? 本来処罰なし、むしろ褒章ガッポリというレベルなんだからな?」


「えぇ……冗談だろ?」


「本気だし事実だ」


 こちらが本気と分かったからか、がっくりと膝をつき処罰を受け入れることになった。



 明けて次の日。


 ここ数日の雨もやみ太陽の光を久しぶりに浴びているが……モーリー殿は太陽嫌いなのか?


 妙に不満げな感じがするのだが。


 

「さて、モーリー殿。処罰終了となったがどんな気分かな?」


「最悪だな」


 えっ?



「なぜだ? 王宮の一番まともな侍女に対応をお願いし、食事も魔王様達と同等の物を用意したのだが……好き嫌いでもあったか? はっ、まさか『侍女は貧乳一択』とか『侍女より侍従、できればマッチョ系』とかの特殊条件を満たしてなかったとか? それだったら申し訳なかった!」


「人を特殊性癖扱いするんじゃねぇよ! ついてくれた侍女さんは物凄いできる人で文句のつけようがないし、食事だってすっげえうまかった!」


 まぁ、侍女はチェリーさんにお願いしたからなぁ。


 飯も魔王様と同じ物だし。



「でも、何で禁固刑なのにこんな……」


 なんだ、まだ理解していなかったのか?



「昨日も説明したが、本来処罰受けなくていいくらいのことを成し遂げたんだよ。ただ、モーリー殿が納得しないだろうから、『禁固一日』という名の『王宮生活体験ツアー』に組み込んだんだ」


「なんだよ、その『王宮生活体験ツアー』って!」


 いや、名称は適当ですが。


 

「何なんだよ、もう訳わかんねぇ」


「諦めて受け入れろ。あなたが成した結果だ」


 全くグチグチと……。


 

「とりあえず話を戻すが、昨日の『王宮生活体験ツアー』実施であなたの処罰は完了している」


「『禁固』の単語まで使わなくなりやがった……」


 うっせえよ。


 大人しく聞いていろ。


 

「で、本題だが郵便事業の鼠人族側トップにならないか?」


「……は?」


 代表たちもざわついているし、モーリー殿も困惑しているようだ。


 そんな難しいこと言ってないんだがなぁ。


 

「何寝言ぬかしてやがる」


「睦言なら朝まで言ってたが、寝言は抜かしてないな」


 サリアの顔が真っ赤に染まっている。


 うん、かわいい。


 なぜかモーリー殿が呆れているが、理解できん。



「いや、あんたのベッド事情なんて知ったこっちゃない。なんで俺がトップなんだ?」


「郵便部門の配達員たちの為に体を張って愚か者共に対抗する。それだけ信用できる輩をトップに据えない方がおかしいと思うが?」


 モーリー殿は言葉に詰まる。


 否定しようにも、できなかった。


 今回の犯罪のきっかけは同僚たちを守らない上司が信用できなくなったから。



 だが、自分が同僚たちから信頼してもらえるか?


 犯罪を犯した自分を?


 無理だろう。


 ……ってなことを考えているんだろうな。



「あんたたちが俺をそこまで評価してくれるのは礼を言う。ただ、俺はトップにはなれない。犯罪者が上司だなんて、あいつらからすれば勘弁してほしいってところだろうよ」



 あらあら、なんとも……



 想 定 通 り の 言 葉 だ な



 バサッ。


 モーリー殿の前に書類の束を置く。


『なんだこりゃ』って顔しているが、その顔が崩れるのが楽しみだよ。



「その書類は、あなたが『王宮生活体験ツアー』中に被害に遭った配達員たちに確認を取った結果です。皆さんあなたにトップになってほしいと願っています」


「え゛?」


 モーリー殿の困惑から驚きに変わる。



「分かりませんか? あなたの成し遂げた行動は他の皆さんからしてみれば英雄的行動なんですよ。そして結果として愚か者共を排除できた。そりゃあ行動力と正義感を兼ね備えた人物にトップ任せたくなるのは当然では?」


 モーリー殿の驚いた表情から、じわじわと頬が緩んでくる。



 自分が成したこと、そして周囲が認めたことで隠しきれないほどの愉楽を感じてしまったのだろう。


 今までの反抗的な表情が保てなくなってきている。


 はっ、これは古代エルフ語でいうところの『ツンがデレた』というやつか?


 調べた時には男女間に対しての言葉かと思ったのだが男性同士、それも恋愛感情のない状態でも使えるとは思わなかった。


 深いな……古代エルフ語。



「失礼、副宰相殿。本気で彼を郵便事業のトップに据えるつもりですか?」


「然り然り。流石に犯罪者を据えるのは国としていかがなものでしょうかな?」


 代表数人から詰問してくるが……お前ら、捕まった馬鹿どもの種族代表だろう?


 お前たちがそれを言う立場にあると?



「ほう、犯罪者を管理できなかった種族がその行為を恥じる事もなく、他種族の事については無関係な癖に積極的に騒ぎ立てるとは予想もつきませんでしたよ」


「「ぐっ……」」


「それに、鼠人族の郵政事業関係者が皆望んでいることですからなぁ。奴隷のように扱う無能より、守ってくれる犯罪者の方が彼らも信用できるのでは?」


「「……」」


 この程度で黙るのなら、初めから騒ぐなよ馬鹿馬鹿しい。



「各種族においては、今回の事件を広め、同様の事件を起こしたらどうなるか理解させなさい。それと他種族への敬意を忘れること無きよう、こちらも周知徹底しなさい」


 よろこんでとは言わないが、一応全種族許諾の返事をした。


 まぁ、嫌々返事した奴らはチェックしてあるので、似たような事件を起こしてないかこっそり調べさせよう。




 その後、新しい鼠人族の代表選出や運良く捕まらなかったチーマーを取り押さえたりとドタバタはあったが、何とかこの一件は落ち着き魔王国代表定例会議は閉幕した。



 その結果、まともに動き始めた郵便事業のおかげで今まで送られてなかった手紙が一斉に届き王宮で怨嗟の声が響き渡った……当然わたしたちもこの苦行でダメージを受けたが。


 なお、その際に一つ面倒な手紙があった。



 ラシス国王オラン殿から親書……という名の泣きつきだった。


 瘴気対応依頼の手紙を早く届ける手段はないかという話だが、一人で考えても仕方がないのでケインと返信について協議する。


 まぁ『面倒だから巻き込んでやれ』という考えが大半なんだが。



「いや、こんたのこっちに泣ぎづがれでもねぇ。最近の人間の国というのは自分で考えるごど辞めだのがい?」


「悩んでいるのはわかるんですけどねぇ。『てめえらで考えろや』って回答すると面倒なことになりそうで」


「流石にもう少し婉曲な言い回しで返してほしすな」


 でも否定しないんですねケイン。



「ざっと見た限り彼らなりに考えているんでしょうけどねぇ、どうしてもわたしたちの軍を駐留させたりドラゴンの着陸地点の提供がイヤみたいで……」


「人間の国の民からしたらドラゴンが自国に来ること自体ありえねんだ。彼らからしたら恐怖の対象でしかねしね」


 お、流石元人間。


 やっぱり聞いて正解でしたね。



「となるとドラゴン周回案は無理? 他は正直検討に値しない案しかなかったので……」


「国がどごまで管理でぎるが次第だね。瘴気発生を魔王国に急ぎ伝えることがどいだげ意味のあるごどなのか民に理解させられるが、各国の王の能力が試されるね」


 そうでしょうねぇ。



「では、そのように回答しておきましょう」


「ああ、お願いする。でも、あぢらの国々はものすごぇ話振ってくるね。なんだい、この『遠距離通信の魔道具あったらください』って」


「魔王国を駄々こねたらなんでもくれる都合のいい存在と考えていませんか?」


「当人たちは困ったので頼ったんだべげど、本質は『面倒だから任せた』なんでねがな」


 ですよねぇ。



「それに、技術的に難しいものを簡単に他国に回すと本気で思っているのが怖いんですけど。まぁ、逆に重要技術をホイホイ他国に渡す国ってのも同じですけどね」


「それもこれも彼らからしたら『子供のおねだり』でしかねんだべね。我々と視点が違うのだべ」


 ケインと二人して溜息をつく。


 わたしたちはあなたがたのママじゃ無いんだがなぁ。


 いくら甘えても雄っぱいはやらんぞ?


これにて4章終了です。

いつも通り、明日は種族・人物紹介とし、明後日から5章に入ります。

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