たったひとりの反乱
◆◇◇◇
「鼠人族代表、ギッポン殿。王都内のやり取りについてはどうだ?」
「ケンタウロス族から受領しており、王宮側にお送りしております。また、受領時のサインも頂いております。あ、こちらリストになります」
こちらも、ちゃんとしているようだ。
「タイバーン殿、王宮の受領窓口は近衛騎士団だが、ここに書かれている受領者たちを呼んでくれぬか?」
頷くと、指示出しを始めたが、なぜか途中で動きが止まる。
どうしたのだろう。
ケインやサリアを見るが、二人も困惑しているようだ。
「どうしたのだ、タイバーン殿?」
問うと困惑しつつ答えてくれる。
「王宮側リストと鼠人族側リストに食い違いがありますね」
「どこだい?」
「鼠人族側のリストの中に、ここ二か月ほど休みを取っている騎士の名がありまして……」
「それは、その者が怪しいと言うごどが? それとも、その者の名を勝手さ使われでらで言うごどが?」
「後者ですな。該当の騎士の名は王宮側リストではチェックされていないので、鼠人族側の管理を確認しないと……」
タイバーン殿とケインが話すと、牛人族の代表が挙手する。
「もしかして、それってゴウズ―という牛人族とか言いませんか?」
「よくわかったな?」
「先日我らの集落で結婚式に呼ばれましたから」
ざわ……ざわ……。
タイバーン殿が代表たちを落ち着かせるため、説明を始めた。
「今名前の出た牛人族のゴウズ―は先々月から来月まで休みを取った上で、集落にある実家で結婚式と新婚旅行を楽しんだ後、王都に戻って来る予定だった。流石に実家で結婚式の最中に王都にいられるはずがない」
ケインがその発言を受ける。
「となるど、その時のやり取りの相手が……」
「ええ、犯人の可能性がありますね。そして、ゴウズ―が対応したことになっている鼠人族側の人物が全て同じだ」
ケインは受領したときのサインを見て告げる。
「ギッポン殿、このモーリーていう人物をご存知だすか?」
問うと、ギッポン殿は苦い顔をして説明する。
「その者は、半年ほど前に王宮担当から外しています。理由は他種族と諍いが多く、このままでは部族としての任務を果たせないと判断し、内勤に異動させました。そこなら、他種族との接点はないので」
「だば、ギッポン殿。このモーリーなるものを明日連れでぎでほしぇ。この場で話聞ぐべで思う。それど逃げ出そうどした場合、話聞ぐごどなぐ処分するど伝えでほしぇ」
「かしこまりました」
これで終わればいいのだが……って、もしかしてこれって『旗』?
明けて次の日。
雨が本降りになって昨日より『どんより度』が増した気がする。
「ギッポン殿、彼がモーリー殿か?」
「はい。モーリー、挨拶を」
ギッポン殿に促され、挨拶するが、
「おう、初めましてだな。モーリーだ」
……軽いな。
この前のヤリーといい、これが若者の普通なのか?
時代か? 時代なのか?
あ、ギッポン殿に胸ぐら掴まれて叱られてる。
「ギッポン殿、話を進めたいので、モーリー殿を放してほしい。モーリー殿、あなたが王宮に届く予定の郵便を止めたのか?」
わたしが問うと誤魔化そうともせず簡単に答えてきた。
「ああそうだ。ちなみに、なぜ気づいたんだ?」
「あなたがゴウズーという近衛騎士に手紙を渡したとしていたが、その者はここ数か月程休暇中で親の住む集落にいる。それなのになぜか受領に名前が載っていたので気づいたのだ」
「あちゃー……それは盲点だったな。ちなみに、あいつ騎士辞めたの?」
「いや、結婚のため戻ったが、式と新婚旅行終わったら奥さんと王都に戻る予定だ」
「それならよかった。幸せそうで何よりだよ」
なんでこんな普通に対応するんだ?
嫌がらせならもっとうまくいかなかったことを悔しがるとかありそうなんだが。
「モーリー殿、なぜ、こんたごどしたのだ?」
ケインがモーリー殿に問うと、方言にちょっと困惑したが軽い口調でこう答えた。
「単純だ。他の奴ら、特に戦闘系の獣人共が俺たちが力がないのを馬鹿にして暴力振るったり、俺たちが運んでいる手紙などを破ったりしているんだ。ちなみに、俺だけではなく運び屋は皆回数の差はあれど暴力や邪魔をされている」
ざわっ。
「そんなのが何度も続いたので、俺たちが仕事しなかったらどれだけ魔王国に被害が出るのかお偉いさんたちに理解してもらおうと思ってな」
ヘラヘラとモーリー殿が笑っているが……誰に対して笑っているのだ?
顔はこちらを向いているが、視線がこちらを向いてない。
視線の先は……ギッポン殿?
ケインの表情が硬くなる。
「疑問なのだが、なぜ、郵便事業のトップを経由して代表へ伝えねのだ?」
「伝えたが、握りつぶされた。それは代表へ直接伝えても同じだった。今までこの会議で鼠人族が暴力を振るわれていると言う報告はなかったんじゃないか?」
ん~、確かにそんな報告は記憶にないなぁ。
ケインがこちらをチラッと見るので首を横に振っておく。
ケインも同様に報告ないことを確認したうえでギッポン殿に問う。
「確かに、ここ数年鼠人族から要望は受げだごどねな。ギッポン殿、なぜこの情報を会議に諮らねがった?」
「い、いや、こんな程度のことで……」
は?
『この程度のことで?』
冗談だろ?
ケインも(表情に出しようがないが)ムッとした感じがこちらにも伝わる声色でギッポンに尋ねる。
「鼠人族が他種族の奴隷にでもなりでゃど?」
「そ、そんなはずがあるか!」
あるだろうが!
本気で言ってるのか、こいつ?
「んだども現状郵便事業に関わる者たち、とくに配達担当者はは暴力を振るう者たちに無理やり従わせられでらと言うことだが?」
「あ、その……」
「それに加えて、このままだと郵便事業が崩壊するごどになるのだが?」
「そんな、たかがこんな程度で」
た・か・が?
なにふざけたこと言ってやがる!
「暴力を振るえば手紙を簡単に盗めるとなれば、誰も使わんだべ?」
ケインから追及されて黙ってしまった。
当然だよなぁ……安全、確実に相手に届くから皆が使用するのだ。
届かないなんてことが当たり前になったら王宮から各種族への連絡は別の手段を考えなければならない。
信用できない郵便なんて、何の価値もないぞ?
わたしはモーリー殿にもう少し情報を得るため話しかける。
「モーリー殿、把握している範囲で構わんが、この事態はいつごろから発生しているのだ?」
「多分だが一年位前からじゃねぇかな? 確か、トップに伝えたのがそのくらいで、代表に伝えたのが九か月前だったはずだ」
え……。
となると郵便事業の上位者も信用できないなぁ。
「ちょっと、郵便事業見直しかも」
「流石に、こごまでだどなぁ」