ストレス
◆◇◇◇
少しすると蛇人族の医者が、そして少し遅れて魔王様、ケイン、オフィーリアとチェリーさんが突撃してきた。
『アへ顔』のサリアを隠すようにして医者に事態の説明をする。
魔王様始め他の面々は呆れと畏れが混在したかのような表情をするが、サリアの状況を見ると、納得と危険人物を見る様な視線を送って来た。
「とりあえず、生きてはいますよ。ただ、幽体離脱のような状態になった理由は不明です」
まぁ、そうでしょうね。
「後、個人的にはストレスを定期的に発散させるべきかと。副宰相夫妻の生活について、かなり呪いによる行動禁止事項がありますからなぁ」
ストレス?
「んー、言葉での説明よりも……副宰相殿。ちょっと立ってみてもらえます?」
医者の希望通り素っ裸で立ち上がった。
あ、体の一部は手で隠してますからね。
「右向け右!」
命令通り右を向く。
「もう一度右向け右!」
再度命令通り右を向く。
元の態勢から後ろ向きになった。
「あ、ありましたね」
何が?
「ストレスによる症状、副宰相殿の左右の膝裏辺りに炎症ができてます」
何ですと?
大慌てで見てみると、確かにアザ? シミ? みたいなのができていた。
痛くもかゆくもないが、いつ、こんなものができたんだ?
「推測ですが、ストレスが増えた頃からこの状態なのではないかと。なお、ストレスが減る、もしくはストレスの原因が無くなることで早ければ数日、遅くても数か月もすれば勝手に消えますよ」
マジか……。
魔王様たちも唖然としている。
これは、ちょっと呪いの継続について相談しないとな。
「ちょっと確認なのだが、この炎症ってサリアも――」
「あるかもしれませんな。ちなみに、副宰相殿は膝裏でしたが、どこにできるかは一切分かりません。隅から隅まで確認するしかないし、見つからない可能性も高いです」
えーと……その……。
「何ならちょっと席外しましょうか?」
「……すいません」
医者と魔王様達が席外している間、わたしとメイドたちでじっくりたっぷりねっとりと調べ……ようとしたが、すぐに見つかってしまった。
左の腋に炎症ができていた。
そしてサリアも起きてしまった。
ちっ!
サリアに現状までの説明をし、医者を呼び戻して炎症を見せるとこう言われた。
「お二人ともストレスを減らす努力をお願いします。魔王様達もお二人の負担を減らすように仕事の割り振り、呪いの代わりの方法の模索などご検討ください」
医者は帰っていったが、魔王様始め皆頭を抱えている。
当然だな。
ストレスにより魔王国建国時からの臣が潰れかけていたんだから。
「あー、まず可能性ではあるが要因が見つかっただけでも良しとしましょう」
意図的にではあるが、軽い感じでコメントすると、魔王様が慌てだす。
「ちょ、ちょっと待って。マルコとサリアの身体の事なんだよ? そんな適当な……」
気持ちは分かりますし、心配していただけることはとてもうれしいのですが……。
「魔王様、まず問題の一つが分かったことを喜ぶべきです。何も知らなかった場合は対処ができず、ろくでもない未来が待っていたかもしれません」
最悪、わたしかサリアが死ぬとかね。
「ですが、知っていたら対処の可能性がでてきます」
「いや、そりゃそうだけど……その、心配で」
魔王様、お優しいから心配していただけるのはありがたいけど、知った以上対処策はある。
なら、対処して未来が幸せになるよう努力しましょうよ。
「魔王様、対処方針も医者がら説明されだのだすから、それ守っていぐべ。まずは呪いについで使用禁止、もしくは使用周期を定めるとかだすかね」
「使用周期?」
ケインの発言に魔王様が反応する。
「例えば、三か月呪い、解除し三か月を繰り返すといったどごだべが」
「呪いの期間の短縮化ってことですねぇ」
お、オフィーリアよくわかったな。
今までだと瘴気発生までだったから終わりが見えなかったけど、これなら最長三か月で呪いを解く。
終わりが確実と言うのが高評価ですね。
「……まず、呪い三か月パターンを実施してみよう。それでどれだけ炎症が消えるか確認する」
方針がきまったことから、魔王様も覚悟を決めたようだ。
「念の為、マルコとサリアは定期的に医者に様子を見てもらって」
「そうですね。二週間おきくらいで検査してもらいます」
「あと、今日は二人とも休みなさい。一応言っときますが静養するんですよ?」
魔王様からのお優しいお言葉に私たちは――
「「はーい(ちっ)」」
――本音が駄々洩れの返事をした。
「舌打ぢしね!」
気にしすぎですよ、ケイン。
幽体離脱から始まる大騒ぎはとりあえず落ち着いたが、今後は気を付けないとなぁ。
「ちなみにサリア、過去いつ頃からマルコが暴走していたか覚えてるぅ?」
「あぁ、それは知りたいですねぇ」
オフィーリアとチェリーさんがタッグ組んで追求してきた。
「そのぉ、確実に暴走したのが分かるのは人間の国にできた瘴気を処理したとき以来かと。でも、もしかするとその前から兆候はあったのかもしれません」
「……それって、確実なのは修道女服のときぃ?」
サリアの回答にオフィーリアが追及してくる。
「(コクリ)」
「……もしかして、コスプレしなければ問題なしぃ?」
「「「「あっ!」」」」
オフィーリアのツッコミに皆反応するが、チェリーさんが待ったをかける。
「暴走についてはその可能性が高いですけど、ストレスは別なのでは?」
「なんでぇ?」
「炎症がいつから発生していたのか誰も分からない以上、断言できませんわよ?」
「うーん、確かにぃ」
「まぁ、可能性は高いとは思いますけどねぇ」
サキュバス同士のエロ話になる前に本来の話に戻すか。
「とりあえず呪い三か月パターンで様子見。それでだめならまた検討としましょう。これ以上はいくら議論しても推測以上にはなりませんし」
皆納得し解散となる。
寝室にわたしとサリアだけが残る。
サリアは私の顔を見ず、胸に顔を押し付け、少し震えつつ右腕にしがみつく。
サリアの頭を左手で撫ぜて落ち着かせていく。
「不安がらせてごめんな」
びくっと怯えつつ、恐る恐るわたしの方に顔を向ける。
「多分、今回の三か月周期の対応でかなり改善するはずだ」
推測ではあるが今回の原因は
呪いによる生活、特に性生活の制限
→ 我慢し続けたわたしの暴走(この時点でわたしに炎症発生)
→ 暴走を受け入れたサリアの負担増(この時点でサリアに炎症発生)
と考えている。
となると、生活に今までより自由度が上がるのだから、暴走の確率は下がるのではないか?
「なので、互いに様子見しつつではあるが、元に戻れると思うよ」
「うん……」
心細そうな声で返事をする。
「だから……」
サリアを抱きしめ、左耳にわたしの口を近づけ、低い声で伝える。
「もし、『離縁しないとわたしが死んでしまう』とか考えていたらさっさとその愚かな考えを捨てなさい」
びっくぅ!
サリアは、ガクガク震え始めた。
まさかとは思ったが、そこまで考えていたとは……。
「わたしがサリアを離すと思うなよ?」
左手をサリアの後頭部を撫ぜるように動かす。
「そして、わたしから離れられると思うなよ?」
右手をサリアの腰に回し、わたしの顔をサリアの顔の前に持ってくる。
「わたしはかなりしつこいからな?」
宣言すると、そのままサリアの唇を奪う。
サリアの瞳から一滴の涙がこぼれ落ちた。
たっぷりキスし続けた後、落ち着いてくると猫のように甘えてくる。
『ふにゃ~ん♡』とか鳴いてきそうな雰囲気だが……はっ!
まさか次は、ペットプレイ?
飼い主と猫?
生クリームとか必要か?
あんなところに塗ってぺろぺろなめさせるとか?
「ねぇ、あなた。なんかバカげたこと考えてない?」
「いや、そんな訳ないだろう?(きらーん)」
サリアが滅茶苦茶冷たい目線で睨み付けてきた。
危ない危ない。
心の闇がばれるところだった。
先ほどの妄想は鍵かけてしまっておこう。
は?
捨てろだって?
それを捨てるなんてとんでもない!