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我が女神さまの裁定

◆◇◇◇

 

「何をぐずぐず言っておる! 貴様はこの場で何の役にも立たないのだ! さっさと消えるがいい!」


 あ~あ、言っちゃった。


 ある意味期待通りだけど。

 

 

「ああ、ではやることやってさっさと消えてやろう」


 火の精霊王は右手を前に出し――


「火の精霊王の名において今後『()()()()()()()()()()()()』との契約を行わない。また同時に現時点で該当する者について契約を破棄する」


 ――契約破棄を明言したところ、まばゆい光が広がっていった。



「後は精霊の力を使えぬ状態で生きるがよい」


 光が治まると火の精霊王は魔王様にお辞儀をして消えていった。


 

「はっ! 仰々しいこと言って何もしていないではないか!」


「なら、精霊を使ってみたらどうだ?」


 アーレが騒ぎ始めたので、現実を理解してもらうことにした。



 アーレは指を鳴らし……なにも起こらない。

 

 驚き、何回も指を鳴らすが全く反応がない。

 

 ……なんか踊っているようで笑ってしまった。


 それを見たヴェルスタンドも大慌てで何かしようとするが……なにも起こらない。



 驚愕の表情をしている二人に簡単に説明する。


「精霊側でも貴様ら(・・・)の愚かな行動を見て見捨てた。それだけだ」


 というか、二百年も契約違反しておいて何故問題ないと思ったのだ?



「それまで約二百年の間、呼ばれた精霊たちが貴様ら(・・・)に注意していなかったか? 精霊側は何度も注意をし、それでも直らないので注意することを諦めた」


 いくら注意しても直らないなら、見捨てて当然だな。



「それに、使役するだと? 精霊との契約を守らないくせに何をふざけたことを言っている?」


 対等の契約だってのに、なぜ使役してると考えたのか理解できんよ。



「精霊との契約は全六種の精霊をわけ隔てなく使用すること。精霊に魔力を支払うこと。貴様ら(・・・)はこれを無視してこき使おうとしたのだ」


 それがどれだけ問題か分からないのか?

 

 ……まぁ、分からないからやらかしているのだろうけど。

 

 古代エルフ語で『スウェットショップ』という言葉があって、契約を無視し力づく(暴力、権力等)で劣悪な労働条件で働かせるという意味なのだが、一万年以上経っても改善されていないと呆れと同時に悲しく思う。

 

 なお、この単語の別名もあるが、そちらは……わたしの肌の色にたいする侮辱にしか聞こえないので使いたくない。

 

 

「なら精霊側だって貴様ら(・・・)に手を貸す理由はないだろう。むしろさっさと手を切り違ったのではないかな」


 個人的には注意し反省する時間を与えている時点でかなり優しいと思うがね。



「う、嘘だ」


「なら、さっさと精霊魔術を使ってみればよかろう。あぁ、領地にいる貴様ら(・・・)の種族も皆使えなくなっているはずだ。まぁ自業自得だが」



 二人の代表は頭を抱え、他代表たちは精霊に見捨てられた存在を直に見せられ精霊へ畏怖を感じているようだ。


 特にエルフ程ではなくても精霊と親しい種族は反面教師として覚えておいてほしい。



「さて、話が途中だったが『エルフとは』の最後、長生きについてだ。これは全六種と契約できていると長寿になり、契約数が少ない程寿命が短くなる」


『えっ?』って感じで皆が私を見る。



「これは、精霊王たちにも確認したところ、正確には分からんが大体この認識で合っているとのことだ。また、他種族で精霊を六種契約しても長寿にはならないそうだから、そこはエルフという種族の特殊性と言うことだろう」


 どこかで『マジかよ……』なんて声が聞こえてくる。



「さて二人とも、現在一番年取っている住人は幾つだ?」


「え? 確か我のところは七千歳程度だが……」


「わしのところも大体そんなものだ」


 はぁ……そこまで情報持っているのになぜ余裕ぶっているのか。


 

「それは以前はもっと長生きの者――九千歳程度かな――もいたが、ここ二百年のうちに皆亡くなったのではないか?」


『あっ』と二人とも事態に気づく。


 わたしが千年前に代表やっていたころには一万年生きている者も普通にいたと記憶している。

 

 分派運動を繰り返したことから九千歳までの者は(わたしとサリアを除いて)死に絶えた。

 

 そして二百年前の分派で劣化エルフとみなされた者は精霊を遠ざけた影響をもろに受けて九千歳から七千歳の者は徐々に死んでいったのだろう。


 全ては、分派した結果だ。



「分かるか? 貴様ら(・・・)はエルフとして精霊との契約を破り勝手気ままな行動を取った結果、死が現実のものとなった」


 精霊から嫌われたから仕方ないね。


「わたしたち夫婦を含め、王宮にいる者たちは貴様ら(・・・)の愚かな行動に反対した者たち。こちらは今までと変わらぬ寿命を持つ」


 こっちは精霊と仲良くしているから今までと変わらない。


「これで貴様ら(・・・)とわたしたちが同じ種族なんて流石に言えんよ」


 同じ種族と言うからには似たような寿命でないとおかしいだろう?


 片方が短命、もう片方が長寿となれば、別種族と考えるのが自然だろうよ。



「なぜ、なぜ精霊は離れていったのだ」


 いや、お前らの扱いが悪すぎるからだが。


 まぁ、他の理由もあるからそこだけコメントしておくか。


「精霊たちはどの精霊であっても仲が良い。例えば、水と火が仲が良いなんてよくある話だ」


 精霊と仲良くしているとよく見かけるんだがな。

 

「それを、貴様ら(・・・)のわがままで強制的に分断され、魔力も貰えないとなると嫌がるのは当然だろう。貴様ら(・・・)は友好と隷従をはき違えているんだよ」


 わたしが説明すると、やっと理解したのかがっくりと膝をつく。



 でも、会議はまだ終わっていないんだよ?



 ケインに視線を送ると、首肯しまとめ始める。


「さで、議題のうち『王宮側の席』についでは根本的に種族が違うのだんて用意しないでよろしすな。『劣化エルフ』の呼び名についではいかがすべか? それども離脱を選ぶすか?」


「離脱はしない!」


 ヴェルスタンドが騒ぐが、じゃあどうするつもりなのだ?



「じ、時間を! 検討に時間をくれないか?」


 アーレが時間伸ばしを始める。


 だが――


「今まで二百年もの時間をあげたのに今さら何をするのでしょう? まさか、今まで二百年何もしていなかったとか言いませんよね?」


 ――と返すと無言になる。



 時間の無駄だと思いつつも話を続けていると、サリア(我が女神)が発言し始めた。


「流石にこの件で他代表の方々をこれ以上拘束するのは無駄かと思います」


「ふむ、確がにその通りなのだが、何かえぇ案があるのがい?」


 ケインが聞いてくるが、まぁサリアの事だ、これをチャンスと見てぶっ放してくれると期待しよう。


 

「魔王様の提示した条件を満たす名称を、この場の代表の皆様にも挙げてみてもらってはいかがでしょう? そうして、いくつか……五、六個出たところでこの場で採決して決めてしまえばよろしいのでは?」


 成程……他代表も終わりが見えてきたことからやる気になっている。


 

「ちょっと待て、決定権はわしたちにあるのだろうな?」


「あるわけないじゃないですか」


 サリアの拒絶にアーレがぽかーんとした顔を見せている。


 

「今まで、あなた方に任せて二百年間一切何もしなかったのですから、あなたに決定権を渡すことはできません。哀れなので、採決時にそれぞれ一票を投じる権利はあげますわ。でもそれ以上の決定権は無駄ですのであげません」




 ヴェルスタンドが怒鳴ろうとするが、サリアが先に提案する。


「さて、発案者として一つ挙げさせていただきます。『衰退』なんてどうかしら?」




 「ぶふぉっ!」×(代表人数)



 サリアよ、ガチで怒っているんだな。


 気持ちは分かる。


 ルディのかみさんと仲良かったからなぁ。



 他、代表たちもイメージが掴めたようでいくつか提案された。


 なお、ヴェルスタンドとアーレが『ライトエルフ』と『ダークエルフ』を推したが、まだ魔王様の決定を理解していないのかと皆から呆れられたことを記しておく。

 


 なお、最終的に以下の提案があった。([]内は提案者・提案種族)


・衰退[サリア]

・弱者[虎人族]

・無価値[ドワーフ族]

・無能[コボルト族]

・大口[蜥蜴人族]

・ほら吹き[犬人族]

・たわごと[ゴブリン族]


「さて、それなりに集まったことですし、採決に入りたいと思います」


「ちょっと待て、本気でこれで採決するのか?」


 アーレが騒ぐが、今更だ。



「今までのあなた方の行動の結果がこのリストです。文句があるのなら二百年前にちゃんと決めなかった方にお伝えくださいまし」


 サリアよ、決めなかった輩はそこの二人だ。


 当人たちは怒りで顔が真っ赤だが……。



 そして、楽しい採決が始まる。


「挙手による採決の結果、白無能族、黒無能族に決定いたしました!」


 代表たち(二名除く)から割れんばかりの拍手が巻き起こる。



「なお、今まで仮称として使用していた劣化白エルフ、劣化黒エルフは本日この会議を持って使用終了といたします。今後は新しい呼称をご利用くださいね」


 サリアの笑顔が合図となり、ケインが終了宣言を行う。


「さで、全議題についで終了いだしたがら、魔王国代表定例会議を終了ど致します。皆様ご苦労様でした」


 大多数の皆の拍手と歓声を持って会議終了となった。



 頑張りを称えるように、頬にキスしてわたしの胸元にサリアの顔を寄せる。


 サリアはキスされて驚くと共に胸元にしなだれかかり、幸せを満喫しているようだ。


 そんなわたしたちをアーレとヴェルスタンドは歯ぎしりしつつ睨み付けてくる。


 わたしは、サリアを抱いた状態でを睨み返し、口だけ動かす。



 邪 魔 す る な ら 消 す ぞ ?


 

 こちらの意図がよーく分かったのか二人は舌打ちして会議場を出ていった。

 


スウェットショップ

:『ブラック企業』の英語での言い回し。

「肌の色なんて関係ねぇ!」としている主人公たちが『ブラック企業』という名称を使うのはちょっと……と判断し、こっちに変更しました。


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