炎の精霊王のお出まし
◆◇◇◇
「さて、過去何度も名を決めるよう通達しているが、未だにまともな返答をしてこない。これは、魔王様に対する不服従を貫くと言うことでいいのだな? ならば、白、黒とも魔王国から離脱すると言うことで処理するが?」
こちらが、もう待てないことを伝えると、白黒双方大慌てで反論する。
「そ、そんなわけないだろう! ちゃんと回答しているではないか!」
「そうだ、何度も回答しているのにそれを認めないのはおかしい!」
本当、何考えているんだか。
「『エルフ』の名を使うなと言われても『エルフ』と言い出す。こんなことでわたし共の貴重な時間を取られるのは、もううんざりだ。貴様らの愚かな行動につきあうのも今日が最後だと思え!」
もう、こいつらに”殿”だのなんだの使う価値はない。
そのつもりで言い方を変えたが、こちらの意図を理解せずにアーレが鼻で笑いつつ煽ってくる。
一応、この二人以外の代表たちは皆こちらの意図を理解し戦々恐々としている。
「はっ、『もううんざり』か。なら、どうされるつもりかな?」
お前たちは何も考えてないんだねぇ。
こちらはお前たちを助ける必要がないのに、玉虫色の決着になると勝手に想像して。
夢を見るなら勝手にしろ、それが悪夢であってもな!
「白、黒双方の『劣化エルフ』を魔王国から離脱、以降魔王国としてはこの二種族との接点を持たず、魔王国側に入ることを禁ずる」
つまり、お前たちを見捨てるという選択をすると言うことだ。
わたしが宣言すると、アーレもヴェルスタンドも大慌てで騒ぎ出す。
「ふ、ふざけるな! そんなの受け入れられるはずがないだろう!」
「そうだ!」
な~に、騒いでいるんだ?
お前たちの今までの積み重ねがこの結果というだけだぞ?
「知るか! 貴様らはわたし共が許せる範疇を大幅に越えてんだよ!」
あの頃の、白と黒に乗っ取られた、友を殺された怒りをぶちまけるように叫ぶ。
「貴様らがこれ以上愚かな真似を繰り返すのなら、魔王国から離脱ではなく種族の殲滅にするか?」
あの頃は法に基づいて対応していたが、今回はこいつらが喧嘩を吹っかけてきた。
それも前回と異なり共犯者を仕立て上げず、自分たちが前に出ている。
つまり、『白黒劣化エルフが直接魔王国に宣戦布告』したに等しい。
「既に、定例会議開始前から魔王様と殲滅への協議は終わっていて、貴様らの行動如何で『劣化エルフ』共はこの世から消えるんだよ!!」
ピカッ!
ガラガラッ!!
ドーン!!!
わたしが怒りをぶちまけたタイミングで近くに落雷が起こった。
王都近くのようだな……火事にならなければいいのだが。
わたしの本音を聞き、やっと、本当にやっと現実を見始めたのか少しだけ大人しくなった。
本当に少しだけだがな。
それも、まだ粘ろうとするのか、ヴェルスタンドがたわけたことを言い出す。
「我らとしては、離脱はしたくない。ただ、エルフの名は使いたい」
流石に魔王様やケイン、代表の方々も含めて皆唖然とする。
既に最終通告している状態でそんなふざけたことを言えるんだから、ある意味尊敬するよ。
蛮勇としか思えないけどな。
「それは、『劣化エルフ』『レッサーエルフ』のどちらかの名称を選ぶと言うことか? それとも種族殲滅を選ぶと言うことか? 答えよ!」
ヴェルスタンドが怒りに任せて発言しようとする……が、私の顔をみて止める。
こちらの怒りの表情を見て少しは事態を理解できたか?
ん~。
ちょっと根本的なところを問うてみるか。
「白と黒、双方の代表に一つ問おう。『エルフとは何ぞや?』」
「「は?」」
ん、伝わらなかったか?
「『エルフとは、どういう種族なのか?』と問うている」
二人の代表は顔を見合わせ、答えていく。
「耳がとがっている」
「精霊魔術が使用できる」
「長生き」
それだけ?
「後、何かあるか?」
アーレが困惑しつつヴェルスタンドに相談するが、
「んー、こんなもんじゃないのか?」
と何とも頼りない発言をしてくる。
「外見的には耳がとがっているのは正しい。魔術に関しては答えが半端過ぎだ。そこの答えは『精霊魔術を全六種、もしくは生後覚えられた最大数まで使えること』だ」
は? という感じの代表たちに追加で説明する。
「地水火風光闇、六種の精霊と貴様らは契約しているな? 利用しているかはともかく」
「あ、ああ。自分が子供の時に契約はしている。白のもそうだろう?」
「うむ、それがどうした?」
「その契約を思い出せ。全六種の精霊と友好を結ぶことが魔術にて契約する際に明示されていることを忘れたか?」
「あぁ、そんなのもあったな。だが、そんなもの気にする必要はない」
「その通りだ。あったのは覚えているが、精霊は我々に使役される者。使われなければちょうどいい休暇とでも思うのではないかな?」
はぁ、本当にこいつらは……。
「聞いていたと思うが、そろそろ出てきてもらえるかな? 火の精霊王殿」
わたしの前にいきなり火柱が立ち上り、それが体を作っていく。
静まったところでそこには火の精霊王が立っていた。
ちなみに、定例会議前の仮面会議に来ていただいたのもこの方だ。
「魔王殿、久しいな。乱入になるが精霊族より火の精霊王参上した」
「火の精霊王ちゃん、ひさしぶり~」
魔王様、もうちょっとちゃんとご挨拶しましょうね。
まぁ、仮面会議のことを表に出さずに挨拶できたのは花丸です。
ご褒美は後ほどオフィーリアから貰って下さい。
……オフィーリア”を”貰って下さいの方が真実に近いか?
って、あれ?
「失礼、他の精霊王たちは? それと女王たちもいませんね?」
問うと、火の精霊王がちょっと視線を逸らし始めた。
「水は、海水浴に行くと言って戻ってこない。土は眠いと言って地中深くに眠りに行った。風はちょっとそこまで買い物とか言って戻ってこない。光と闇は……飽きてかくれんぼしに行った」
「……女王たちは?」
「女王たちは『この程度の仕事、当然あなたたちだけでもできますわよねぇ?』と言って、多分だが王都のスイーツ巡りに……」
「あぁ……」
心中御察しいたします。
こちらの面倒事よりスイーツの方が大事ですもんね。
わたしも抜けていいならサリアとスイーツ巡りに行きたいし。
「えー、とりあえず進めましょうか」
「ああ、そうだな。そこの半端者の二人」
火の精霊王が代表二人を指すと――
「ふざけるな! 精霊如きに顎で使われる謂れはない」
「そうだ! 貴様が我らに使われる存在あろうが!」
――予想通り愚かな発言を連発する。
火の精霊王は奴らの発言に鼻白み、わたしを見てくる。
「なあ、マルコ」
「火の精霊王よ、言わないでください。そしてわたしたちとあれを一緒にしないでほしい」
「あぁ……そっちも大変だったな」
「分かりますか?」
なんというか、場末の酒場で飲んだくれている二人のおっさんという感じの会話になってしまった。
「何をぐずぐず言っておる! 貴様はこの場で何の役にも立たないのだ! さっさと消えるがいい!」
あ~あ、言っちゃった。