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劣化エルフの黒歴史

◆◇◇◇


「では、歴史も含めて説明させていただきます」


 また(・・)、お前らの愚かな歴史を他の代表の方々に晒しましょうか。



「まず、千五百年前に魔王様が魔王国を建国。その五十年後に当時のエルフ族が魔王国に受け入れられます」


 そう、このころはまだお前たちは大人しく、副宰相とエルフの代表を兼務していた私も仕事がやりやすかった。


 

「そして千年前、当時のエルフ族であなた方と同じように肌の色で使う精霊をわざわざ制限するという運動が起こった。わたし共王宮派のエルフの中では第一次白黒分派運動と呼んでいる」


 正直、愚か者のバカ騒ぎでしかない運動だった。

 

 なんでそんなことをしようと考えたのかも理解できないし、こちらから止めるよう説得しても一切聞く耳持たず、当時は頭を抱えたものだ。


 

「当時はまだこの分派運動はほとんど目立たなかったが、白い肌の者たちと黒い肌の者たちで争いにまで発展したことから、代表として取り締まりを行い、鎮圧させている」


 あの時はやるせなかった。


 同じ種族の者がたかが肌の色で殺しあうなどと、悲しみ、呆れ、虚しさのみが残る争いだった。



「なお、その時に争いに加わった者たちの中で上位の地位にいた者、扇動した者は全員絞首刑に処することとした。なんせ、同族の殺害を煽った者たちだからな」


 他の代表たちも当然と納得している。


 基本、同族殺しは大罪であり、これはほぼどの種族でも同じだ。

 

 なお、なぜか分からないが扇動レベルまでやらかした者たちは私たち夫婦よりかなり年上が多かった。

 

 加えてなぜか

『我らは神を超越した種族であり、奴らは神の奴隷だ』

『我らの使役する精霊が正しく、奴らの使役する精霊は汚れし者だ』

 などと言い出し、取り調べを行った者たちはげっそりとしていたのを覚えている。

 

 ……今まで『神? なにそれうまいの?』なんて奴らが何抜かすかと王宮組で呆れたのも覚えている……忘れたいが。

 

 

「その後、五百年前に第二次白黒分派運動が始まり、こちらも同様に鎮圧、扇動者を処刑した」


 この時も第一次と同じような戯言をほざいていたが、王宮側もここまではまだちゃんと対応できていた。

 

 なお、このあたりでわたしとサリアが一番年上になり、かつわたしたちより下の代と千年程離れてしまった。

 

 ……ばかどもが……。


 そして、この次が大問題であり、わたしたち夫婦の心の傷、魔王様やケインの苦悩の源でもある。



「そして二百年前、第三次白黒分派運動が起こる。始まりは今までの分派運動のように気づけばすぐに潰せる程度の行動だったようだが、この時、世界的な大問題が発生していた」


 あれは現在まで含めても比する物の無い問題であった。


「魔王国、そして隣の人間国であるサルーア国に跨り発生した超特大規模の、数千年に一度の瘴気対応に魔王国の上位者は皆駆り出されていた」


 あの時を思い出すといまだに体が震える。

 

 あんな馬鹿げたサイズの瘴気は今まで見たことがない。


「宰相たるケイン殿まで引っ張り出して魔王国の国力の大半を瘴気浄化、そして魔王国内の被害者への補償に回さなければならないほどに」


 あの時は、魔王国の維持より瘴気浄化を優先せざるを得なかった。


 そうでなければ、軽く見積もっても魔王国とサルーア国の人口はそれぞれ半分程度まで減っていただろう。

 

 最悪、両国壊滅という可能性もあった。



「当然、わたしたちも現場に急行したが最終的に瘴気を浄化するまで五年かかった。その間、全ての王国案件は凍結(・・)していた」


 五年と言われると長く感じられるかもしれないが、これでも早い方だと思っている。

 

 あの瘴気は範囲だけでなく濃度も過去最高だった。


 当時の魔王様でも小型なら影響ないのだが、この瘴気だけは小型サイズ程度を浄化しようとしたところ、幼児化どころか赤子化してしまった。


 あれは、あの場にいた全員が、とりわけいつもなら母乳プレイできて大喜びのオフィーリアでさえもショックを受けていた。



「その間、わたしの代わりに当時のエルフ族を代理で管理してもらっていたルディ夫婦が殺された。殺した輩は第三次白黒分派運動に参加していた者たち。わたしたちを守旧派と呼ぶ者たちだ」


 ルディはわたしたちの執事長ラルフの父親だ。

 

 わたしたち夫婦とも友人として仲良くしていたのだが……。

 

 この情報を受けたとき、夫婦そろって絶望に打ちひしがれたものだ。

 

 そしてラルフやミア(この時点でラルフの婚約者だった)の行方を伝令に問いただし、生死不明と言われサリアと人目もはばからず慟哭したのを覚えている。



「命からがら逃げてきた者たちから聞いたところ、白と黒が争う前に守旧派を滅ぼすことで合意し、代表に近しいものを殺して回ったそうだ。気づいてないかもしれないが、この時点で白、黒どちらに付こうと犯罪者だ」


 当然だよな?


 なんせ、正式に魔王国として代表代理を依頼した人物を殺したんだから、国に対する反逆だ。


「ただし、どうあがいてもわたしたち夫婦は現場から動けず、近衛騎士の一部隊に代表代理を殺害した者たちを逮捕、拘束することを依頼するしかできなかった。悔しいが、それ以上動くには瘴気があまりにも厄介すぎた」


 この時に念の為生き残り組(この時点でラルフ、ミアとも合流できている)の護衛も近衛にお願いしている。

 

 一日作業を遅延させればよくて半月分やり直しになってしまう以上、悔しいがわたしたち夫婦が首を突っ込むことができない。

 

 やむなく次善の策として願ったのが功を奏して、白黒が放った暗殺部隊を処理できている。

 

 なお、犯人を捕らえてもトカゲの尻尾切りであることはこちらも認識している。



「瘴気浄化が終わり、わたしたちが元のエルフ領に向かうと、既に新しく白、黒の代表がいた。勝手に代表になった、いや、勝手に代表職を創ったことを問い詰めると、正式に認められているように見える書類を出してきた」


 エルフの代表として反乱を起こした白黒とも滅亡させるつもりが、知らないうちに独立運動の許可を出していたなんて言われて唖然としたものだ。


 その場にいた者皆驚いたよ。


 なんせ、日付的には瘴気対応で凍結中のはずなのにわたしたち夫妻、ケイン、そしてあろうことか魔王様の許可が出ている書類が出てくるのだから。


 それも、どう見ても正式にしか見えない書類だ。


 

 今もではあるが、書類の真偽はそれぞれの利用するインクにある。


 インク自体は市販の物だが、それに各自の魔力を混ぜてからサインしている。


 それぞれのサインから正しく各自の魔力が残っているのだから驚くのも当然だ。



「わたしたちは混乱しつつも王宮に急ぎ戻り、調査に乗り出すとその当時文官だった者が、金目当てにわたしたちのサインを偽造していたことが分かった。ご丁寧に凍結対象外と言う魔王様のコメントまででっち上げてね」


 その文官を捕まえ拷問すると、瘴気対応で皆わたわたしていた頃にこっそり四人のインクを確保していたらしい。

 

 あとは事前にサインの訓練をしており、インクを確保できた時点で犯行に及んだそうだ。


 その文官は一族郎党捕え斬首刑とし、種族側としては関知していなかったので滅亡を免れている。

 

「この犯行の厄介なところが、偽の命令書であっても本物と遜色ないものであったことだ。そこにサインされていた誰も書いていないとしても、それを証明する術がない。結果、条件付きで白、黒の存在を認めるしかないという判断に至った」


 正直、この判断について王宮側は誰も納得していない。


 ただし、だからといって魔王様やわたしたちが率先して魔王国の法を破るわけにはいかない。

 

 わたしたちが法を破れば他種族も法を軽視するだろうし、それだけは避けないといけない。



 あの時はラルフやミアの怒りや嘆きに応えきれず、無力感に落ち込んでいたのを覚えている。

 

 サリアと副宰相&副宰相補佐の立場を捨てて白黒滅亡のために生きることも検討していた。

 

 魔王様直々に制止されたので我慢したが……。

 

 

「その条件は四つ。一つ目は『エルフの名は追い出された者たちの呼称であり、白、黒ともエルフの名を使うこと禁ず』」


 まぁ、細かく言うと、一時的に『劣化エルフ』の名で呼称するとか、『劣化エルフ』『レッサーエルフ』のどちらかなら使っていいという例外規定もあるんだがここでは省く。



「二つ目は『白、黒、そして追い出された者たちは別の種族とみなす』」


 これのおかげで、白、黒が王宮にいるわたしたちを妬んでも、別種族なんだから無関係ですね、と言い張れる。


 

「三つ目は『追い出された者たちは王宮にて引き取る。旧エルフ領は白、黒で話し合って分けること』」


 人数が少ないわたしたちを王宮に避難させることで、白、黒との争いから関わらせないようにした。



「四つ目は『精霊たちをないがしろにしたことによる弊害は魔王国として関知しない。種族の存続危機であっても精霊が原因であれば関わらない』」


 これで白黒双方が未来において問題が起こっても魔王国への影響は減るだろう。


 精霊をないがしろにすること自体が前代未聞だが、その結果に対して国がフォローする理由は無い。

 

 

「この四点は魔王様の命により決まったことであり、それに反するのならば魔王国から離脱してもらう、またこの決定に反抗するのなら種族滅亡させると二百年前から宣言している」


 というか、この条件を飲めなければ魔王国民として認めず国外追放処分とすることを伝え、そちらが(しぶしぶかもしれないが)受け入れたことを忘れてないよな?


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