劣化エルフ登場!
◆◇◇◇
さて、初日が【必要】、二日目が【不要】ときたら、明日の三日目は……そう【害悪】だ。
既にケインも明日が憂鬱のようで、『あしだ、しょうきはっせいしねがなぁ』なんて言いだしている。
遠出したくない子供じゃないんだから。
気持ちはわかるが、瘴気発生してもケインは王宮に残るんだし意味ないぞ。
むしろ、ケインだけ王宮で会議対応になるからよりつらいぞ?
おや?
チェリーさんではないか。
「あら、マルコ様、どうなさったのですか?」
……ちょっと相談してみるか。
「あぁ、ケインが少々憂鬱みたいでね。確かに明日は苦行としか言いようがない議題しかない会議なのだが、流石に落ち込んだまま仕事されても……」
チェリーさんも気づいたようで、少し考えて――
「定例会議の件ですか。内容は流石にフォローできませんが、ちょっとケイン様が落ち着けるように何か考えてみましょうか」
――と返答してくれた。
ただ、返答時の表情がすんごい楽しそうだったのが……あ、いや、ナンデモナイデス。
「すいません。よろしくお願いします」
「いえいえ、お気になさらず」
……とりあえず、明日の朝はもう少し元気になってくれるといいんだが。
「あら、あなた」
おや、サリアよ、どうした?
「なんか、チェリーさんがウキウキしながら執務室に向かっていたから何かなって」
「ケインが明日の議題で憂鬱になってたのを相談したら、落ち着かせて見るって言われた」
サリアは、少し考えると――
「なら大丈夫ね」
――と、あっさりとケインの悩みをぶった切った。
「まぁ、チェリーさんならケインの悩みをたっぷり取り除いてくれるだろう」
「想いもバレバレですしね」
サリアは楽しそうな笑顔を見せ、呟く。
「でも、ケインはまだ決断……というか、ちゃんと告白できてないんでしょ?」
「確証はないが多分。でも、チェリーさんの楽しみを邪魔するのはだめだよ?」
「そこを邪魔するつもりは無いけれど……何と言うか、もどかしくって」
そ れ は わ か る
一万年以上愛を伝えられないケインがすごいのか、それでもケインを待ち続けようとするチェリーさんがすごいのか正直わたしにはわからんよ。
ただ、待ち続けるのも楽しんでいるみたいだし、外が騒ぐのもどうかと思う。
最終的に幸せになってほしいもんだ。
明けて、三日目。
わたしたちの心を現すかのように荒れた天気になってきた。
まだ雨は降っていないが時間の問題かもしれないな。
本日は【害悪】レベルの議案を処理しなければならない。
数量的には今回二件、実質一件のみ。
でも、とてつもなく厄介なんだよなぁ。
「さで、定例会議三日目を始めます。では、仮称劣化黒エルフ族のヴェルスタンド殿、お願いします」
ケインの発言に、わたしと同じ黒い肌、長い耳の人物がイラつきつつ立ち上がった。
「宰相殿、何度言えばわかるのだ? 我らは『劣化エルフ』と言う呼ばれ方を好まない。以降訂正いただきたい。それと議題だが、我らの種族である副宰相殿がそちらにいると言うのに、なぜ我を他種族と同じ席に座らせるのだ?」
はぁ……。
いつものことながら、何を考えてやがるんだこのろくでなしが!
と、心の中で愚痴っていると、もう一方のろくでなしが騒ぎ出す。
「そうだ! わしらの種族である副宰相補佐がそちらにいるのに、わしがこちらの席にいる理由が分からん! すぐにでも王宮側に我らの席を用意せよ!」
新たに騒ぎ出したのは仮称劣化白エルフ族のアーレ殿。
二人とも、毎回飽きもせず同じ議題を出し、同じように騒ぎだす。
毎回記憶喪失にでもなっているのか?
二百年ほど同じことしか言ってないのだが。
ケインが、『やれやれだぜ』と言った雰囲気で確認をする。
「まどめるすと、『劣化エルフ』の呼び名を止めでぐれ、それぞれが王宮側に席がないごとにづいで苦言の二点でよろしぇべが?」
双方、それぞれ頷く。
それを見て、ケインはこちらに期待を込めた熱い視線を送ってくる。
そういう視線はチェリーさんに送ってあげてください。
そしたら童貞捨てられますよ。
というか、その視線って『後は任せた!』ってことだろ?
丸投げは勘弁してほしいんですけどぉ!
……まさかチェリーさん、『面倒だったらマルコに投げちゃえ』なんて言ってないよね?
正直心が荒み始めているが、ここで『や~めた!』なんて言えない。
投げ出したい気持ちは多々あるが、この件をここで完全に終わらせるためにもこの苦痛に満ちたやり取りを進めなければ。
外は雨が降り始め、遠くでゴロゴロと雷の鳴る音が聞こえる。
このまま大雨になるのだろうか……。
仕方がないので、わたしがろくでなし共に説明する。
なんか、大半の代表たちからも憐れみの視線を受けるのが悲しいんだけど。
あ、ジャシーリ殿がキアキーリ殿に説明してる。
すまんなぁ、あれは真似しないでおくれ。
「まず、過去の定例会議で何度も……そう、何度も繰り返し伝えているが、現状王宮にいるエルフとあなた方は違う種族とみなされている」
「はっ、何を言い出す!」
「嘘ついてまで馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
全く……事実を言っても話を聞かないって本当にこいつらは。
「誰も嘘なんかついていない。他の代表の方々の前で魔王様がこの件について明言されている」
他の代表たちも『そうだよなぁ』『そうご先祖様に聞いているぞ』と口々に言いだす。
「なので、王宮側に席があるのはわたし共エルフであって、あなた方ではない。そしてあなた方の種族はエルフではない」
「じゃあ、わしらの種族はなんだと言うのだ!」
アーレ殿が大騒ぎするが、それも何度も伝えているんだがねぇ。
「何度も申し上げてますが、あなた方の現在の名称は『劣化エルフ』となります。ただし、この名称は仮の名称であり正式名称が決まったら順次そちらに移行します」
「だから、わしらの名称を――」
アーレがすぐに騒ぎ出すのを手で制止し、続きを説明する。
「ただし条件があります」
「条件とはなんだね?」
ヴェルスタンド殿がイラつきながら聞いてくるが、これも昔から伝えているんだがねぇ。
「『エルフ』の単語を例外を除き使用禁止。例外は『劣化エルフ』『レッサーエルフ』のどちらかを正式名称にする場合のみ許可されます」
わたし、これ何度言ったっけ……もう飽き飽きなんですがねぇ。
「なお、この話は二百年前にあなた方に伝えておりますが、『エルフ』を使うと繰り返しおっしゃられているため、王宮側としては仮名である『劣化エルフ』を使用し続けております」
分かるか?
お前らは二百年前から繰り返し伝えているのに言うこと聞かず手間ばかりかけているんだぞ。
「なぜ、我らが『エルフ』の名を使えないか教えていただけないかな?」
「え、二百年前から何度も繰り返しお教えしているのにまだ理解できていないんですか?」
ちょっと煽ったら、ヴェルスタンド殿がブチ切れかけている。
というか、煽りたくなるくらいこちらに喧嘩売りつけ続けているんだぞ、お前ら。
こちらが、どれだけ我慢しているか分かってないだろ?
法が無ければ、お前らはこの場にいないんだからな?
外は稲光が目立つようになり、雨音も激しくなってきた。
もしかすると土砂崩れも発生しているかもしれないな。