魔王国代表定例会議
◆◇◇◇
とある日、とある場所にて。
「虎人族の件はどうなったかな?」
目と口しか空いていない白い仮面を付けたまお……存在が口を開く。
「風の精霊に確認と言伝を頼んだところ、不審者を殺処分して部族内に今度の定例会議で代表をやめると宣言したそうで」
鳥のような仮面を被ったわたしが報告すると、まお……白い仮面は安堵の声を出す。
「よかった。自殺でもされたらわたしたちも悲しいからね」
「ほんに、あの方のような信用でぎる方は少ねがらなぁ」
石でできた仮面を付けたケイ……存在がしみじみと呟く。
「ちなみに、あの方が代表を退かれるのであれば、うちにスカウトしたいのですが……」
龍の面を付けたタイ……存在が希望を出す。
「あちらがどのような気持ちなのか確認してからでないといけませんわよ。奥様だっておられるのに、無視してと言うのはちょっと……」
目の部分だけの鳥の羽根のついた仮面を付けたサr……女神がストップをかける。
あの、いつか『二泊三日』でそれ付けて……ってのはいかがでしょ?
「あの~、皆さん何しているんですかぁ?」
仮面付けてないおっp……オフィーリアが首をひねりつつ質問してくる。
「あぁ、魔王様が『秘密会議っぽいのしてみたい!』っておっしゃって、とりあえず、顔だけでも隠してみた」
正直に説明すると、オフィーリアがスナギツネ的な悟りの表情をしていた。
うん、気持ちは分かる。
ちなみに、魔王様から提案された時のわたしたちもそんな表情だったよ……。
「誰が誰かバレバレですねぇ」
「まぁ、今更このメンバーで顔隠してもすぐわかっちゃいますし」
サリアよ、それを言ったらおしまいだ。
「まあまあ楽しかったよ!」
魔王様はまんざらでもないようだ。
「とりあえずまどめるど、虎人族のジャシーリ殿が代表やめる。近衛騎士団どしではスカウトしだい。相手の意志を尊重しだ上で判断する。こんだどごろだべが」
おっけーです、ケイン。
「それど、【害悪】案件ですが……」
ケインが言いよどむと、皆嫌そうな表情をして――
「もう、いいんじゃないんです? かなり配慮したのにアレですし」
「異議なし」
――面倒そうに終わらせようとする。
まぁ、実際面倒なだけで一切意味のない案件なので、この反応が普通なんですよね。
あ、内容はまだナイショということで。
ほぼ対策が決まりかけたところ――
ボフッ!
――とある方が執務室に来られた。
「しつれ……なんだここは?」
うん、気持ちはよくわかる。
その呆れる表情もよく見てます。
「ああ、お久しぶりです。ちょっと魔王様のおねだりに答えていたところです」
今回のスペシャルゲストがいらっしゃいました。
あ、名前は後ほど。
「それが……これ?」
言い分はわかる。
わたしも知らなければ同じ反応しそうだし。
「そこは気にせず。で、【害悪】案件についてなんですが……」
「……ああ、これでいいだろう。やっと終わらせられるのか……」
時間がかかった案件の終わりが見えたことから、スペシャルゲストも流石にしみじみとため息をつく。
「そうですね、無駄に長かったですがこれで終わらせましょう」
スペシャルゲストからOKをもらったので、後は当日を待つのみ。
先日のマジヴーノ暴走事件から一月。
色々あった。
具体的に言うと瘴気発生。
まぁ小型なのでサクッと終わらせて久しぶりにイチャイチャヌチョヌチョした。
当然まだ呪い解除中。
フィーバータイムの真っ最中でもある。
最近妙に瘴気発生が多い気がするが……気のせいか?
魔王様を満足させるためだけの秘密会議から数日後、魔王国代表定例会議が開催される。
まぁ、ぶっちゃけ言うと各種族の代表が魔王様やケインに直接進言できる機会である。
通常は、各代表から行政部に書類が届き、それを精査して要不要、予算の有無を検討した上で可否判断を下しケインに通達する。
だが、この会議では行政部をすっ飛ばして魔王様やケインに物申すことができる。
ただ、代表側が出してくる案件は王宮内部で大雑把に【必要】/【不要】/【害悪】の三つで分けられる。
こちらとしては【必要】案件に注力したいのだが、むしろ【害悪】案件を推してくる輩がいて、正直困っているところだ。
「ふむ、皆そろったね。では、魔王国代表定例会議を始める!」
魔王様の宣言により会議が始まった。
と言っても、魔王様の出番はほぼここまで。
後はケインが司会として進めていき、魔王様はオフィーリアと一緒に座っている。
まぁ、その間何しているのかは代表の方々も大体理解しているが、もう突っ込むことは面倒なのでしなくなった。
ちなみに、会議の時間は公的なものだ。
なので、ケインは未だなれないながら普通の言葉に近づけようと四苦八苦している……だが、まだ方言から離れられず。
となると、面倒な会話は……わたしが担当することになるんだがね。
「では、事前に頂いだ内容がら、まず虎人族代表ジャシーリ殿、お願いします」
「承った。儂は今回の定例会議を持って代表を引退させていただく」
ざわざわっ。
「次の代表はこちらのキアキーリが担当する。今後もよろしく頼む」
流石に現代表でもトップクラスの豪の者が引退ということで皆ざわつく。
ただ、引退を喜ぶ声が聞こえず不安や寂しい、お疲れ様といった反応しかないのはジャシーリ殿の人徳なのだろう。
まぁ、わたしたちからしたら一月前にやらかしたマジヴーノが次期代表とならなかっただけでも安堵の材料になるがね。
流石にあいつと比較しては新代表のキアキーリ殿に失礼だろうが。
「ジャシーリ殿、引退についでだが、明日午前中に改めで代表引継ぎ式をするす。本日はキアキーリ殿を代表補佐どしで今の席に着ぐごとを認めます。また、引退式後、その日の午後がら定例会議終了までジャシーリ殿を一時的に代表補佐どしで席についていただくことになるすがら、ご了承願います」
「承った」
ケインからの説明にジャシーリ殿は諾を返す。
方言がちょっと出てしまったのはスルーしてくれた。
ケイン、顔赤らめなくてもいいんだよ。
「さて、次に……」
ケインが次を指名し議事を進めていく。
初日は順調に進んでいった。
【必要】な案件を先行して済ませるという方針だったが、上手く動いているようだ。
おかげで特に詰まることもなく一通り予定撮りに終わった。
ただ、明日午後からは【不要】を、明後日は【害悪】を処理することになる。
覚悟をしなければならないな。
そして、二日目午後。
【不要】な案件だけあって、予想通り無意味な議案が連発。
とは言え、大半はさっくり済ませられた。
例えば、以下のような感じ。
なお、全てわたしが回答している。
Q:我が部族で近衛騎士に合格した者がいない。合格させろ。
(蛇人族)
A:実力付けてから出直しなさい。
もしくは戦闘以外の得意分野に進むことを検討しなさい。
例えば偵察とか、諜報とか。
戦うだけが近衛騎士ではないことを考慮しなさい。
Q:人間の国に観光に行ってみたい&商売に出かけたい
(オーク族)
A:魔王国としては認められないし勧められない。
魔物と見られて殺された後に首はトロフィー代わりにはく製に、
身体は解体され食糧、武器、道具扱いされ、
尊厳ある死に方はできないがそれでも行きたいのか?
お前たちがはく製にならないように行き来を禁止しているのを理解してほしい。
人間の国々で作られたものへの関心なら境の街でやり取りしなさい。
Q:オフィーリアさんやチェリーさんと付き合いたいという若者が多いのですが。
(獅子人族)
A:オフィーリアは絶対無理です。
本気で魔王様と張り合う気ですか? 消されますよ?
チェリーさんも無理ですね。
まぁ、まずは恋文でも出してみたらどうでしょう?
断られても泣かない覚悟があるのならやってみればよいかと。
Q:呪いにかかっていない時のサリアさんLOVE。僕のお嫁さんになってよ!
(インキュバス族)
A:死ねよ、お前。
……下らん質問が多いなぁ。
新しく代表となったキアキーリ殿は呆れたりしてないか?
こんなところでまともな部族がやる気をなくすのは勘弁してほしいのだがなぁ。
仮面について
:魔王様:有名なアニメ制作会社SGのSという作品に出ていたKのようなイメージ。
目の上下にある印?はなし。真っ白のみ。
マルコ:鳥の面。中世の医者がつけていた奴。
ケイン:M県の有名な漫画家のAさんの書かれているJで出てくるIのイメージ。
血を付けても変形しない。
タイバーン:龍面。中国の京劇で使われそうな感じ。
サリア:ヴェネチアンマスク。手で持つタイプの仮面。鳥の羽で飾っている。