虎人族代表交代?
三章開始です。
◆◇◇◇
カリカリ……
ぺらっ
カリカリ……
ぺらっ
ラシス国の対応と『二泊三日』から三か月。
呪いも再度かけ直し、執務室でいつも通りケインとわたしたち夫妻で仕事中。
執務室にいるのがこの三人だけだと、静かで結構進捗が良い。
……これにチェリーさんが加わるとケインの処理能力だけが三倍に。
……魔王様&オフィーリアが加わると全員の処理能力が半分に。
この調子なら今日中に次回の会議の準備終わらせられるんじゃね?
なんて欲が出てきたところ、牛人族の近衛騎士ゴウズーから連絡が入る。
あぁ、また割り込みか……。
「お仕事中失礼致します。アポイント取っていない者が王宮に入ろうとしておりまして……」
困惑しながらゴウズーは報告してくる。
アポイント取ってないのなら基本は入れないが、判断つかないような相手なのか?
「どなだが来られだのだ?」
「はい。当人曰く、虎人族の新代表だと言われました。ただし、それを証明する物を持っておりません。また――便宜上、先代代表とでも言いましょうか――の死亡届け等も持っておりません」
ケインの問いにゴウズーが回答するが、それってまずくね?
変更のための必要書類がないってことでしょ?
「詐欺か、ほんに何も知らね新代表が判断し辛ぇねぇ」
ケインも判断に困っているようだ。
「とりあえず、ちょっと見てきましょうか?」
「あぁ、すまねが確認してみでぐれ」
ケインに許可をもらい、サリアと様子を見に行く。
まぁ、ちょっとした息抜き&デートとしゃれこもうか。
こちらの思惑を察したのか、サリアはわたしと腕を組んでうきうきしている。
今呪い状態だから二人で腕を組むと廊下をかなり塞いでしまうが……ま、いっか。
王宮から外を見ると少々風が強くなっている。
湿気を含んでいるように感じるので、この後雨でも降るのかな?
そんなこの後の面倒くささを象徴するような天気に幻滅しつつもゴウズーに案内され、王宮入口の詰所に向かうと、確かに虎人族の者が……って新代表の割にはあまりにも礼儀がなっていないなぁ。
「君が虎人族の新代表かい?」
「あ゛? なんだよこの化け物共が!」
周囲の近衛騎士たちがヒクついている。
あぁ、とりあえず落ち着いてね。
……キレるなら、わたしが先だ。
「わたしは副宰相のマルコ、隣は妻でわたしの補佐をしてくれているサリアだ」
「嘘だ! 副宰相はエルフだって聞いたぞ!」
このクソガキが……。
「そこまで知っているのなら、副宰相夫妻が魔王様の為に自らの身体に呪いをかけているのも聞いていないかい? その結果、今の姿になっているだけだよ」
「え゛、本当にエルフなの? これで?」
『これで』ってなんだよ。
失礼にもほどがあるだろ。
「あぁ事実だ。さて君は虎人族の新代表とのことだが、名前くらい名乗ってくれるかな? それと代表のジャシーリ殿はどうしたんだい?」
「名前? マジヴーノだ。ジジイは俺に代表を引き継いで、のんびり暮らしているぞ。汲々自責の生活って奴だ」
……ん?
「それって、悠々自適ってこと?」
「そうともいうな」
いや、そうじゃないだろう。
お前が言った内容を無理やり通じるように言うと、『ゆとりのない生活して、その責任が自分にあると考えている』ってことになるんじゃないの?
悠々自適だと『伸び伸びと楽しんでいる』んだが?
「つまり、ボケてもいないし死んでもいないんだね?」
「ああ、そうだ」
「では、ジャシーリ殿からいろいろ引き継がなかったのかい?」
本来、代表変更となる場合は動けるのならば新旧そろって王宮に報告にくる義務がある。
また、亡くなられた場合や身体を動かすことができなくなった場合は事前に指定されている代表代理の者による報告書が必要となる。
今回、代表であるジャシーリ殿が生きていらっしゃるのだから、引き継ぐのであれば一緒王宮に来なければいけない。
そして、多種多様な書類を用意する必要がある。
全て代表と言う地位を正しく引き継ぐための規則なのだが。
「ジジイからは、『行け!』としか言われていないからなぁ……ここに来れば代表として認められるんじゃないの?」
おいおい、冗談だろ。
「現状ではマジヴーノ君を新代表として認められない」
当然だな、まともに引継ぎ準備してないみたいだし。
「そして、今のままでは君は代表であると虚偽の説明をしたことになる。これは重大な犯罪であり、良くて斬首。最悪の場合、虎人族全体が魔王国から離脱してもらうことになる」
簡単に現状を説明すると、顔を青ざめさせる。
流石に自分の行動が部族の危機に繋がると思っていなかったのだろう。
「嘘つけ! 書類がちょっと足りない位で殺されるのかよ!」
ちょっとどころじゃねぇよ。
全く用意してないじゃん。
「詐欺師の可能性があるからねぇ。魔王国に害なすものは死をもって償ってもらうよ」
なぜ、そんな驚いた顔しているんだい?
当然じゃないか。
「ちなみに、本当に引き継ぐのなら先代代表であるジャシーリ殿と一緒に来て、魔王様の御前で引き継ぐこと明示しなければいけない。また、王宮に入る為に必要な証……代表を証明する証ももらっていないようだね」
「そんなの知らなかった!」
いや、知らなかったって……。
「代々やっていることだから、知らないって言い出すこと自体がおかしいんだよ。それに、ジャシーリ殿は先々代の代表とのやり取りはちゃんとできていた」
それを考えると、君は代表としての引継ぎ一切してないね。
「確認だがジャシーリ殿とのやり取り、言われたことを詳しく教えてほしい」
現状かなりまずい事態であることだけは何となくわかったのか、ぽつぽつと説明し始める。
「先代に『代表になりたい。交代しろ』と言ったら、拒否されるんだ。拒否と言うか、バカ扱いの方が正しいか?」
まぁ、拒否もされるしバカ扱いされても仕方ないだろうよ。
わたしでも君を代表にするのはお断りだ。
「そんで、『どうすりゃ代表になれるんだ』って聞いたら、『魔王の前で新しく代表になったと報告すればなれる』って言われた」
……それ、色々すっ飛ばしているぞ。
まともに説明する気がないだけじゃねぇか。
まぁ代表にする理由が一切ないし、説明する価値もないと判断されたんだろうなぁ。
こいつ相手なら、わたしでもそうする。
さっさと処分するか……と思ったところで――
「xxxxxxxxxxxx」
――かすかに声が聞こえた。
サリアをチラッと見ると、うなずいている。
……消すの中止だな。
「今の説明通りだとしたら、集落に戻ってジャシーリ殿とよく話し合いなさい。それをしなければ虎人族の立場が悪くなるだけだ」
そろそろ、この戯言にけりをつけようか。
先ほどまでの喜怒哀楽に満ちた表情を捨て、仮面をかぶせたような表情を維持する。
「なお、これは最終通告となる。これ以上馬鹿な行動をした場合、貴様を殺処分することになる」