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そのころの勇者たち(偵察部隊視点の話)

◇◆◇◇


 王都の大通りを怪しい姿の四人組が闊歩している。


 

 妙にきれいだけど似合わない銅色の帽子と銅色のマントを身にまとった……他の服はボロボロで浮浪者としか思えない男。


 トゲトゲが大量についている……正直歩きづらそうな鎧を着こんだ、妙に強面で濃い顔の男。


 服装だけ見ると司祭のようだが……化粧が濃いのか妙にケバケバしい雰囲気をした女。


 出店に対して獲物を見るような視線を送る……汚いローブを着込んだ妙に臭い女。



 周囲の者たちからも怪しい人物を見るような視線送られているが、一切気にせずに大通りを進んでいく。

 

 本来の自分たちの目的を隠さず、むしろ晒す姿は『こいつら本当に何を考えているんだ?』としか思えない。


「ふぁ~。なぁ、本当に今日魔王倒しに行くのか? 面倒なんだけど」


 勇者と呼称されている愚鈍男のトトがなんかほざきだす。


 本気で倒せると思っているのか?


 武器も防具も三流どころかゴミにしか見えないが?

 

 そのくせ、マントと帽子だけそれなりに綺麗にしているのかさっぱり理解できないが。


 

「行きたくない気持ちはよくわかるが、さっさと終わらせて宴会しようや」


 戦士と呼称されている脳筋男のサイアンがふざけたことを言い出す。


 さっさとお前らの人生が終わる未来しかないのに。


 そんなに挽肉になりたいのか?


 

「というか、あなたたち、宴会する前に金稼がないと宿代無くなるわよ」


 僧侶と呼称されている散財女のリネアが注意する。


 まあ、気持ちはわかる。


 でも、お前の一日の金遣いを一割減らせば三日は宿に泊まれたはずだが?


 というか、なぜお前の胸からパンのにおいがするのだ?


 

「魔王の宝物庫からもらえばいいんじゃない?」


「もらってから宴会ならともかく、金ないのに宴会なんてできないわよ」


 魔術師と呼称されている詐欺女のターニャが盗人じみた発言をし、リネアが注意する。


 というか、宝物庫にあるものをどうやって売る気だ?


 魔王国内だと確実にばれるし、人間の国に戻る前に宰相殿が施している魔術が反応するはずだが?


 それに、人間の国々で売られていたことが知れたら……未来はないぞ?



 

 あぁ、自己紹介がまだだったな。

 

 俺は魔王軍偵察部隊、影人族の……名は伏せさせてもらおうか。


 仕事の都合上、名を知られるわけにはいかんのでな。


 

 王都正門で待ち伏せして、王都までの監視をしていた同族の者から引き継いだが、なんというか……こんなぬるい任務でいいのだろうか?


 こいつら、どう見ても物見遊山のつもりにしか見えないのだが。


 同族の者は『やっと引き継げた! 後頼むぞ!』と言って大喜びで王宮に報告に向かったが、よほどつまらなかったのだろうか?


 

 実際、勇者一行の監視としてついているが、全然気づかれない。


 ……いや、そりゃ影人族って他者の影のふりして近づくのが得意だが、相手側に実力あれば結構バレることがある。


 例えば、タイバーン団長の影に隠れようとすると確実にバレる。


 気配感じられてバレるって新人にはよくある話なんだが、この四人組一切気づかないというか、魔王国に対する敵対行為をするという認識がなさそうに感じる。




 まさか、俺って……影薄い?


 ……いや、こいつら実力がないだけだ。


 きっとそうだ、多分。


 

「やっぱり、王宮の入口に兵がいるなぁ。とりあえず殺せそうか?」


「いやいや、俺たちの実力であの兵たち倒せると本気で思っているの? 勝てるわけないじゃん」


 お、サイアンまともな判断してるな。


 となると、愚かなのはトトだけか?


「そうよ。あそこにいるローパーに触れればすぐに麻痺させられるだろうし、その隣にいるでっかい目の奴もなんかやってきそうだし、私等瞬殺されるわよ」


「そうだねぇ。正直あたいにゃ勝つ方法が思いつかねぇや」


 リネアとターニャが反対意見を投じる。



 ……こいつら、どんだけ弱いんだ?



 いや、確かにアッカーメ隊員は麻痺させることはできるだろうけど、スゾッキィー隊長の厄介さはその比じゃないぞ?


 魔術無効化光線なんてのを使える種族って巨大単眼族くらいしかいないんだからな?


 この中で魔術使える奴らはただの無能に早変わりするんだぞ?


 そりゃ、有名な種族とは言えないが、本当に知らないのか?


 

 ……なぜだろう、勝手に隊長に仲間意識を持ってしまった。


 

「じゃあ、いつも通りに」


「んだな」



 トトの発言に乗るライアン……何する気だ?




「ち~っす。俺たち勇者一行なんすけど、魔王に会いに来ました~!」




 ……え?


 大半の門番が固まっている。


 まあ、私も固まっていたんだが。


 

 いや、いやいや、お前ら何やってんの?


 お前ら、魔王様を弑しに来たんだろ?


 なのに全力で勇者一行と名乗ってどうすんだよ!


 

 まさか、道中でも同じことやらかしてたのか?


 前任者から引き継いだ時のあの喜びようはこのいかれた対応から離れられるから?


 こんな厄介なこと事前にちゃんと引き継げよ!


 あんの馬鹿たれ、減俸覚悟しろよ!



「アポイントは取られてますか? それとお名前を」


 スゾッキィー隊長だけは固まってなかったようだ。


 が、このやり取りって普通なのか?


 なんというか、M・B・C並の破壊力だったんだが。

 


「あー、トトって言いまーす。アポは取ってないっす……ってことは会えない?」


「確認取ってみないと何とも言えないですねぇ。少々お待ちいただけますか?」


「おっけーっす」



 え、スゾッキィー隊長、なぜ流れるように話しできるの?


 普通に困惑しないの?



「アッカーメ隊員、すまんが魔王様に来客の報告と確認を」


「はい、了解っス」


 あれ、アッカーメ隊員、君も受け入れちゃっているの?

 


 ……少し経って、エルフの執事ラルフ殿とサキュバスのメイドを連れてきた。


 あれは、MY SWEET チェリーさん♡。


「勇者様方でいらっしゃいますね。私ラルフと申します。魔王様は謁見の間で皆様をお待ちになっておられます」


「私、チェリー・ムーンリバー・ポスウェルと申します。ちょっと長い名前ですので、お気軽にチ・ム・p――」


「チェリー殿、それはいけないと言われてませんでしたか?」


「――いいじゃないですかぁ」



 ラルフ殿に止められチェリーさんがいじけているなんてレアショットを見てしまった、眼福眼福。

 

 なんか、勇者共が真っ赤になって慌てているが……?

 

 慌ててると言うか……男どもが前屈みなのは腹でも痛くなったか?


 ラルフ殿がチェリーさんに説教し始めた。



「我々には問題ない言葉であっても、人間の国々では特殊な意味にとられる言葉と言うものがございます」


 あ、確かそんなこと軍部内で説明された気が……。


「特に、地方特有の方言まで広げると色々面倒なので正式名しか使うなと言われたでしょう?」


 あぁ、もしかしてチェリーさんの本名ってかなりヤバい名称にヒットしちゃってる?


「え~、ちょっとフレンドリーに対応したかったんですけどねぇ」



 ちょっとすねるチェリーさんカワユス。


 まあ、止められていたのに言っちゃったのはまずかったっすね。

 

 

「勇者様方、謁見の間までご案内させていただきます」


「うぃーっす。よろしくたのむっす(お尻ぺろん)」


「きゃっ♡」



 ……こいつ、チェリーさんの尻撫ぜるとは、うらや……けしからん!


 この(別の意味での)勇者に礼儀(と言う名の嫉妬)を叩きこみたい気持ちでいっぱいだ……だが謁見の間まで通すことを求められている以上影から出て殴るわけにもいかんし……。


 

 さすがに、他のメンバーはチェリーさんの尻を撫でることはなかった。


 どころか、僧侶は勇者を注意していた。


 これが普通だよ、分かるか勇者?


 というか、人間の国々はこんな奴を性犯罪者として取り締まらないのか?


 

 まさか……人間の国々ではこいつみたいなのが多いのか?


 他のメンバーも撫ではしなかったが注意もしてないし、何と言うかいつも通りといった雰囲気に見えるし。


 

 種族で常識が異なるのは良くあることと理解しているが、人間とはサキュバスやインキュバスに近かったのか?


 あの種族も隙あらば尻撫でたり股間握ってきたりするからなぁ。


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