呪いのある朝
初連載です。
どこまで続けられるかわかりませんがよろしくお願いします。
本作は各話の開始時とストーリー中の視点切り替えについて
◆◇◇◇:主人公視点
◇◆◇◇/◇◇◆◇:主人公以外の誰かの視点
◇◇◇◆:作者視点
というルールで進めております。
これで読みやすくなるか正直分かりませんが、最後までこのルールで進めさせていただきます。
◆◇◇◇
「あなた、朝ですよ」
ああ、もう朝か……。
隣で寝ていた妻が声を掛けてくる。
今日も春うららかないい天気のようだ。
「あ・な・た、あんまりのんびりしていると遅れてしまいますよ」
かすかに目を開けようかと思うのだが……。
いつもの小鳥の啼くような清らかな声を聞いていると、いい年して甘えたくなってしまう。
「……キスしてくれたら起きる」
妻は少し驚くと、慈母のような笑顔で
「もう、甘えん坊さんなんだから♡」
と、優しく私の【ぶよぶよした】胸元を【分厚いハンバーグにぶっといソーセージを差し込んだかのような手】で撫でて、【皆が『気色悪い』と目を背ける様な顔】を近づけキスをする。
わたしも【魔物が全速力で逃げ出しそうな笑顔】をし、【猿系の魔物よりも毛むくじゃらな腕】で抱きしめお返しのキスをする。
わたしはマルコ。
エルフ族で結構長い年月を生きている。
細かい年月は聞かないでくれ、思い出すのが面倒なんだ。
今の仕事を千五百年程やっているので、まぁ一般種族からみればそれなりに長生きかもしれないな。
肌は黒いが、最近(二百年程前か?)言われ始めた黒エルフではない。
それ以前に『黒エルフ』という単語を国として認めていないがな。
わたしとイチャイチャしていたのは妻のサリア。
同じくエルフ族で、大体似たような年月を生きている。
なお、年を聞くのは自殺行為であるとだけ言っておこう。
死ぬならこちらを巻き込まずに勝手に死んでくれ。
サリアの肌は白いが、こちらも最近言われ始めた白エルフではない。
こちらも国が『白エルフ』という単語を認めていない。
第一、白だの黒だのなんてのは何の意味も無いんだがな。
ただの肌の色の違いだけだし。
そんな夫婦の睦言をしていると――
「おはようございます、旦那様、奥様」
――我が家のメイド長であるミアが起こしにやってきた。
「お食事の方準備できておりますので、入浴後に着替えて食堂の方へ」
ミアの指示に従い、入浴後【大きなシャツと釣りズボン】に着替えてサリアをエスコートしつつ食堂へ向かう。
食堂に到着すると執事長のラルフがドラゴンが踏んでも壊れないような頑丈そうな椅子を引いてくれるので座り、食事を堪能する。
今日のデザートはわたしの好物のリンゴとサリアの大好物のミカン……もしかして?
チラッとサリアの後ろにいるミアへ視線を向けるとサムズアップしやがった。
わたしたちをからかって楽しんでやがるな?
よし、受けて立とう。
ミカンの皮をむき、サリアの口元に持っていき、
「あ~ん♡」
新婚のような雰囲気を醸し出しつつ口元にミカンを持っていく。
サリアは【顔より長く、大きくなった耳】を真っ赤にして照れながら【血の滴る肉を食らうかのような雰囲気で】パクっと食べ、とても幸せそうな表情を浮かべた。
はっと幸せな世界から戻ってきたサリアはリンゴを一切れつまみ、
「お・か・え・し・♡。はい、あ~ん♡」
と、目をキラキラさせながらわたしの口元にリンゴを持ってくる。
わたしは幸せに浸りながら【無垢な子供を騙すときのような笑顔で】パクッと指までくわえ舐めてみると、サリアは真っ赤に茹だってしまった。
「おいしかったよ」
サリアへ【堕落へ誘うような笑顔で】礼を言うと、モジモジしながら返事をしてくれた。
あぁ、こんなかわいいしぐさをしてもらえて幸せだ。
ミアにボーナスこっそり出さなくてはな。
楽しかった食事も終わり王宮へ夫婦で……と言っても王宮の一角に住んでいるので徒歩数分の距離だが――
「では、仕事に行ってくる」
「よろしくお願いしますね」
「「「かしこまりました。いってらっしゃいませ」」」
――執事・メイドたちに見送られ、一緒に仕事に向かう。
イチャイチャしつつわたしたちの家と王宮の連絡口に向かうと、近衛騎士が二名待機している。
普段通り王宮に入る前に彼らからチェックを受けるのだが……王宮では見たことない種族がいるな。
確かローパー族だったか……もしかして、近衛騎士の新人かな?
もう一人は巨大単眼族の知り合いの隊長なので流石に不審者扱いはしないだろうけど。
ローパー族は円錐、もしくは円柱形に触手がついている種族と理解すれば大体あってる。
この新人君は円柱+触手二本+単眼+口ありのパターンだな。
まだ慣れていないのか槍の扱いがちょっと苦手っぽいように見える。
多分、武器より触手攻撃か魔術を使う方が得意なのかもしれないな。
巨大単眼族は眼とその周辺(まぶたとかまつ毛とか)が巨大化し球形をしている。
眼そのものが頭や体になっており、手や足もその眼周辺から飛び出している。
ちなみに手足はついている者、ついていない者がいるが隊長は手のみで足は無く常時浮いている。
頭部分に触手がある者もいるが、こちらは触手なし。
こちらは歴戦の勇士と言ってもいいくらいには槍を持つ姿が凛々しい。
とはいえ、こいつの得意技は大きな目から放たれる光線による魔術無効化なので、正直槍に意味がない。
いや、槍さばきもかなりのものではあるんだけどね。
ちなみに、普通の巨大単眼族は大きな目からは魔術無効化光線を、それ以外に触手を持つものは多種多様な光線を放てる。
触手を持っていない者は腕や足を使い、それもないものは大きな体で体当たりを行う。
だが、こいつは触手以外から、それも自分たちのアイデンティティである大きな目から多種多様な光線を放ちやがる。
こんなぶっ飛んだことできるのは巨大単眼族の中ではこいつしかいない。
というか、過去を調べても中央の大きな目からは魔術無効化光線しか放てないはずなんだが……。
何やらかしたんだ、あいつ。
「そこの二匹、何者っスか!」
ローパー君が槍をこちらに向け真顔で誰何してきやがった。
声の高さからすると女性みたいだが……確証ないんで今のところは君付けしておくか。
といっても、ローパー族は男女の区別が無いので多分当人も気にしないだろうけど。
巨大単眼族のあいつに『隊長止めないの?』と視線を送るとニヤつきやがった。
お前、仕事しろよ。
「初めまして、わたしはマルコ、副宰相だ。隣は私の妻で副宰相補佐のサリア」
「嘘つくなっス! 副宰相夫妻はエルフだと聞いたっスよ! お前らのような化け物じみた姿では断じて無いっス!」
……まぁ、こうなるだろうとは思っていたけどな。
隊長め、滅茶苦茶笑うのをこらえているようだな。
宙に浮きつつ全身で震えるとは変なところでテクニシャンではないか。
「スゾッキィー隊長、そろそろこのローパー君? さんかな? の勘違いを正してあげてくれないかな? その速度に応じて君の減給率が変わ――」
「――アッカーメ隊員。そのお二人はこんな姿だがエルフだ。私が保証する」
目にも止まらない速度で手のひら返ししてきた。
この馬鹿ちんが!
「……もっと早く動けよ」
ジト目で睨むと笑いながら謝ってきた。
……まともに謝罪する気ねぇだろ?
「すまんすまん。毎度のことながら見ていて面白いんでな」
「お前の楽しみでアッカーメ隊員を困惑させてどうする。どうせ『新人に経験させておこう』って考えなんだろ?」
「ありゃ、ばれてたか(テヘペロ)」
いや、あれでばれないと思うほうがおかしいと思うが?
「経験させるより、お前が説明すれば済む話だろうが」
「いやいや、そんな説明より一度経験すれば嫌でも忘れられないからねぇ」
ニヤニヤしながら言っても説得力無いぞ。
単純に面倒くさかったからだろ?
「あ、あの、本当に副宰相夫妻っスか?」
「ああ、その通りだ。先ほどの詰問について、近衛騎士として当然のことをしたのだから謝罪は不要だ。それに――」
そうでも言っとかないとアッカーメ隊員が仕事ミスったって思いかねないからな。
アッカーメ隊員をフォローしつつ隊長を睨み付けて宣告する。
「――スゾッキィー隊長の給料が下がるだけだしな」
隊長をガン見すると、流石にまずいと思ったのか微妙に泣き入れてきた。
「ちょ、そこはもう少し優しく……手加減というか……」
「サリア相手でないのになぜ優しさが必要なのだ?」
冷たい目で隊長の大きな目を見つめるとちっちゃくなって――
「……すまん」
――と謝罪してくる。
悪い奴ではないのだが、遊び心を入れ過ぎなのが玉に瑕なんだよな。
「と言うわけで、通らせてもらうよ」
今度は槍を上に向け、無事通らせてもらった。
「あぁ、それとスゾッキィー隊長、どうせだからわたしたちが今の姿でいる理由などもちゃんと指導しておいてくれ」
わたしが隊長に頼むと微妙に嫌な顔をしてきた。
そんなにからかうチャンスを潰されるのが嫌か?
「元に戻った時にも同じような騒ぎを仕込まれるのも正直面倒なんでね、た・の・む・よ?」
こちらの苛立ちを理解させるように言葉を区切り、睨みつけて指示すると――
「仕方ない、了解した。つまらんが説明しておくよ」
――こいつ、やっぱり何か仕込むつもりだったか。
全く、仕事しろよ。