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第8.1話 お友達を作りたい 前編

 ベリア王国から南南西におよそ1000㎞の距離。


 そこは工場群がどこまでも続いていた。


 毎日何千トンもの土砂を処理して鉱物を選鉱し、何百トンもの鉱物を精錬して、鉄・銅・石炭を生産する。


 さらに石油精製プラントでは無尽蔵に近い燃料とプラスチック、潤滑油を精製増産し、工場をより効率的に稼働させる。


 大気圧冷凍プラントでは空気から純度の高い液体窒素を生産し、それが化学肥料と火薬の合成を加速させた。


 まさにネジの一本から巨大な飛行船まで、あらゆる工業部品を日夜作り続けている。


 これを作りあげたのが工場長と錬金術師の2人になる。


 厳密には2人だけではない。


 工場には無数のゴーレムと呼ばれる人形が働いている。


 特徴として一般的な石や泥のずっしりとしたゴーレムと違いステンレス製外骨格によって人と同じ形にまでスリムになった人形たちだ。


 その中で最も数が多いのがプログラミング・ゴーレムだ。


 一定の手順とロジックで簡単な仕事をさせるだけに特化したゴーレムになる。


 耐腐食性の銅製ゴーレム、耐電用のゴムゴーレム、軽量化と量産性のプラスチックゴーレムなど用途によって幅広い種類が存在する。


 リモート・ゴーレムは工場長と錬金術師が遠隔操作するゴーレムになる。


 そのため遠く離れた場所からも工場都市に指示を出すことができる。


 欠点として魔力消費の影響か、日に何度も使えないのと本体が無防備になることがあげられる。


 最後にソウル・ゴーレムになる。


 魂を冠するようにこのゴーレムは不老不死の研究の一環として作られ、権力者たちの魂の器になる――はずだった。


 なぜか自我のようなナニカがあるが、魂が定着したわけではない。


 自我があるゆえに扱いづらいゴーレムになる。


 そんな工場都市でもっとも枯渇している資源がアルミニウムになる。


 近代工業を躍進させた優れた金属。


 その枯渇した資源採掘のために工場都市の余剰生産力が徐々にベリア王国へと回され始めた。






 ――深夜、レッドフィール男爵領上空。


 最初は点のような小さな光が浮いていた。


 それは徐々に大きくなり、いくつもの光点が規則正しく並んでいるのがわかる。


 飛行船だ。


 ブリッジから人影が眼下の大地を見下ろす。


 暗がりを照らす即席の誘導路を目印に高度を下げていく。


 錨を降ろして地表に飛行船を固定した。


 そして飛行船を操作していたゴーレムが男爵領に降り立つ。


「カルちゃーん!」


 ソウル・ゴーレムに区分されるが、高い計算能力を持っていたため計算を意味する「カルキュレーション」という名を与えられた。


 また1体しか存在しない特別なゴーレムでもある。


 カルゴーレムの見た目はベルタを模した女性型の人形になる。


「さっそくで悪いけど資源開発のための計算を手伝ってもらうよ」


「……」


「工場長、まずは運んだ物資の荷下ろしと……砂糖の追加」


「あれ、砂糖使うの?」


「お菓子作りです。向こうだと小麦の質が悪くて……」


「基本的に食材が壊滅的だったからね」


「そうです。それがここなら多少高くても手に入る。お菓子を作りたいので……ってカルちゃん?」


「ああ……ひ、ひとがいっぱいいる……上空から眺めてもわかる。ヒトの国。恐ろしい……」


「あれ、カルちゃん?」


「どうせ奇異な目で見られて……いじめられて…………スクラップにされる…………」


「カルちゃーん」


「ムリ……実家《工場》に帰ります」


「工場は実家じゃないよ!?」


 カルゴーレムはその優れた演算能力による将来シミュレーションからネガティブ思考に陥っていた。


「カルちゃん、大丈夫よ。カルちゃんは優秀なんだからそんなこと絶対にされないから」


「ほんと……?」


「ホントホント!」「大丈夫、大丈夫!」


「それなら……トモダチってできる?」


「……ともだち」

「……ともだち」


 工場長、友達ボーナス期間(=幼稚園~小学校卒業まで)に片手で数えられる程度の友人ができるも、徐々に科学と工学に魅せられて疎遠になっていく。


 さらに縁もゆかりもないこの地に来たため友達0人。


 錬金術師ベルタ、友達ボーナス期間(=幼児教育~結婚適齢期まで)の間に不老不死の研究が義務化されたため得られず。


 魔物によって滅亡する寸前に封印され、以降ぼっち。



「ともだちかぁ……」


「ともだち、ねぇ……」



 ――故に、アドバイス不可である。



「……やっぱり、帰ります」


「待った!」


「できる! カルちゃんなら友達なんてたくさんできる!」


「ほんと?」


「ほんとほんと!」


「カルちゃんは優秀なんだからたくさんできるよ!」


「…………2人より……トモダチできる?」


「あ、それなら問題なくできるよ」


「自信をもって断言できます!」


「…………ふふん」


((あ、機嫌なおった))








 ――早朝。


 シルヴィアの朝は早かった。


 初めての領地経営ということもあり、書類の山に埋もれていた。


「朝から……もう……ダメ……」


「ん……お茶と甘いお菓子を持ってきた」


「ありがとう。ルル」



 だが今日の主人公は彼女ではない――



「先ほど荷物が届きましたよ~」



 ――ササラである。



「ありがとうササラ。とりあえず確認お願い」


「ん……これ甘くておいしい」


「はむ、もぐもぐ……ん~~っふふ、ありがと」


 あ~~、みてください。ルル君のあ~んです。


 朝からもう甘々ですよ。


 何か日に日にイチャイチャ指数が増してる気がしますね~。


 これで付き合ってないってウソでしょ。


「これ甘くておいしいクッキーね。食べすぎると太っちゃいそう」


「ん、なら後で模擬戦でもする?」


「いいね。これが片付いたら一汗かこうかしら」


 いや~それにしても太らない糖分はいくらでも摂取できていいもんすね~。


 おっと、お仕事お仕事。


「ん、あれ?」


「どうしたの?」


「いえ、学園長からの小包でした」


「学園長?」


「ん、手紙の内容を教えて」


「え~待ってください」



 ――今期の北部の積雪は例年より多く学園再開を延期する可能性がありましたが、ドテルテ先生が新作の炎魔法を用いて道を作りました。よって例年通りべリア王立魔法学園を開園します。


(以下、しょうりゃ~~く)


 追伸、シルヴィア君は新しく領地を得たようなので魔法適性者を調べる魔道具を送ります。未成年の領民に使ってください。



「魔法適正者が触ると光る魔道具ですね。光った!」


「あら、懐かしい」


「ん、魔法適性者は全員学園で魔法を学ぶ」


 子供のときに教会に集まって水晶を触って、光ったら学園行きがきまる。


 よほどのことがない限り全員やるんだけど、レッドフィールはそのよほどの場所だった。


「国の決まりね。それならさっそく――」


「あ、私がちゃちゃっとやっときますよ!」


「あらそう?」


 むふふふ、甘い空間からしか摂取できない栄養ってあるんです。


 さらに甘くするにゃー2人っきりにするしかない!


「ん、それなら厨房でまだお菓子を焼いてるはず。それを配れば子供はすぐに集まる」


「なるほど! それじゃあ行ってきますね~」


 厨房、厨房~。


 砦の大食堂の裏側~。


 って、誰か使ってる?


 ああ~いい匂い~。


「ベルタちゃんじゃないですか」


「あ、おはようございますササラさん。今お菓子のクッキーを焼いてたんです」


「そうなんですね~」


「あら、それは何ですか?」


「これは魔法適性が分かる水晶です。触って光ったら適正アリですよ~」


「どれどれ――あ、光った」


「適正アリですね~。学園で魔法を学びます?」


「う~ん……興味はありますが、もう錬金術師なので落ち着いてから独学で学ぼうかと思います」


「あ~そうですか。大人になってから学ぶ人もいるので覚えておいてください」


「わかりました」


「それとお菓子をエサに子供達の適性を調べたいので持って行っていいですか?」


「そういうことなら焼き上がりのクッキーを持っていってください」


 わ~焼きたてクッキーだ~。


 じゅるり、一個くらい食べてもいいかな~。


「無くなったら言ってくださいもうちょっとクッキーづくりをしていたいので」


「わっかりました!」


 今のは一個食べていいよ~ってことですね。


 ベルタさんは良い人!



 お菓子をもって礼拝堂にいったら、子供がいなかった。


「子供たち? それなら川で水くみだよ。ここじゃそういうのは子供の仕事さ」


「そうですか……」


 わたし的には魔法でどどーんっと解決したいけど魔法で水をだしても毎日できることじゃないしなー。


 む~、早く領地が豊かにならないかな~。


 塔の女神様、クッキーを一枚あげるのでこのレッドフィール領が豊かになりますよ~にっ!


 ――いいよ~。


 あれ、今なんか聞こえた気が…………気のせいかな?


 まあいいや。


 とりあえずクロムを探しましょう。


「わんわん!」


「いた。クロム」


 クロムも走り回りたくてうずうずしているのが分かる。


 とりあえず近くの小川まで行っちゃいますか。


「それじゃあ散歩にしゅっぱーつ!」


「へっへっへっ、わっふ~~~ん!」


「あわわわわわわっ!」


 飛ぶように砦を出て、流されるように丘を駆け下りていった。


 そして小川についた。


「わふ?」


 川で何かしている人がいた。


「はぁ……はぁ……お前は……」


「おや、ササラさんじゃないですか。大丈夫?」


「なんだコージさんか。何してるんですか?」


「工場長だよ。今は川の水量を測ってるところ」


「水量?」


「そ、例えば川の幅が1mで深さ0.5mなら断面積は0.5㎡になる。そこでプカプカ浮かぶ目印を川に流して、A点からB点までの流れる時間を測ればだいたいの水量が分かるってことになる」


「はぁ……」


 ぜんぜんわかんないや。


「そうだな。水量が分かると工場が使う分と、砦の領民が使う分が分かって、そこから砦まで水を流す量を決めることができるっていったらどう?」


「それって子供たちが水くみをしなくてよくなるってこと!」


「さすがに朝一に水くみする子供を見ちゃうと何かしないといけないかなって思ってね」


「コージさんってよくわからないことを言うけどいい人だったんですね」


「工場長よ――マジメな技術者は世の中をよくしたいから志すのであって基本はいい人がなるんだよ」


「それは魔法使いも一緒ですね。ちなみに実情は?」


「金稼ぎか承認欲求を満たすためがほとんどかな。ごく一部が知的好奇心のためかね」


「一緒ですね~」


 志は素晴らしく、そして実際はお金のため。


 どの世界もヒトである限りそんなもん。


 ちょっと悲しくなったのでベルタ印のクッキーを渡した。


「ところでクロムとの散歩中かい?」


「散歩はついでで、クッキーをエサに子供たちの魔法適性を調べる予定なんですよ」


 かる~く魔法適性を調べる魔道具について説明した。


「どれどれ――光らない」


「適正無しですね~」


「そりゃ残念。魔法や魔道具についての研究書とか見てみたかったのに」


「魔道具ならカティアの魔道具師に聞いた方が早いと思いますよ」


「そうなの?」


「う~んと、学者と職人どっちに聞くのがいいかって話ですからね」


「なるほど、たしかに教授に聞くより同じ技術者に聞いた方が早いな」


「わんわん!」


「あ、そうだ。子供を見つけて捕まえなくちゃ!」


「いいかた。そういえばさっきカルちゃんが子どこがいるって…………あれ、カルちゃんがいない」


「カルちゃん?」


「ああ、こう……ベルちゃん似の可愛らしい人形のゴーレムなんだけど、どこ行っちゃったんだろ」


「くんくん……」


「こらクロム、コージさんをくんくんしない」


「工場長です。とりあえず子供たちとカルちゃんを探すために二手に分かれよう」


「わかりました。なーにクロムがすぐに見つけて――」


「くん……わっふーん!」


「ぶぺっぱーっ!!」


「とっても優秀でいい子だから、見つけたら仲良くしてあげてねーーー!」


 コージさんがなんか言ってるけど、あたしの心配はしてくれないのね。


 こんにゃろー。



 ササラのお使いは任務は続く。


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