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第5話 呪われたレッドフィール

 今日はひょんなことから手に入れたレッドフィール男爵領に向かっている。


 レッドフィールは不自然なほど植物が減っていってすぐに赤い荒野になった。


 領地の中央付近は少しだけ隆起した丘のようになっている。


 また街道が整備されていないため移動が不便だった。


「いだだだだだだだ」


「ササラだいじょうぶ?」


「馬車が揺れて、もうお尻が痛いですよー」


 ガタガタの道を無理やり馬車で移動しているため、乗り心地は最悪だ。


 ウィートランドを通過してから1時間ほどで馬車が止まった。


「お嬢さま着きましたよ」


 御者がドアを開けて外に出るとレッドフィール領の砦が見えた。


「廃墟みたいね」


「まさに山賊のアジトって感じですね」


 砦は各領地に一つ作ることが許されている。


 領主たちが合戦をしていた時代はすでに古く廃れている。


 それでも砦は必要で外敵(盗賊や山賊)から集めた税物品などを守るために使われている。あとは領主の見栄として。


 砦は基本的に領地の中央付近に作られる。


 レッドフィール男爵領の砦は丘の上に築かれていてすぐ下に城下町があるよく見る形になる。


 あるにはあるんだけど――。


「ここも廃墟ね」


「まともな家はないですね」


「人の気配がまるでない」


 私たちのあとをついてきた馬車がちょうど到着する。


 「おお~すごい赤い土だな」


「これは何でしょうね」


「ん~~。鉄ではなさそうだな。とりあえずサンプルとって調べよう」


「はい!」


 馬車から出てきた技術者2人がさっそく赤い土を調べ始めた。


「お嬢さま。あのお二人はあのままでよろしいのですか?」


「ええ、何かわかったら教えてちょうだい」


「了解です」「です」


 ここでは馬の世話も難しいので御者にウィートランドへ帰らせた。


 視察が終わる頃にまた迎えに来てもらう。


 私とササラはとりあえず砦へ向かう。


 砦の城門をくぐると居館が見えた。


 一般に貴族の屋敷はここになる。


 これは貴族たちの主な仕事が集めた税物品の保管と計算、そして王都への輸送になるからだ。


 保管場所に住むのは当然と言えば当然となる。


 そのため砦の中には客間となる別館、教会の礼拝堂、使用人たちのための食堂などそろっている。


「あ、人だ!」


 礼拝堂にこの土地の住人たちが暮らしていた。


 彼らは外の村ではなく砦の中で暮らしていたのだ。


「うわ~見た目まんま山賊ですね」


「ええ、山賊の根城に入っちゃったみたいね」


 ゴロツキたちが私たちに気付く。


「おおおおお、女だ!?」


「ダンディの旦那を倒した新しい城主さまだ!」


 山賊たちがわらわらと集まってきた。


 ちょっと怖いんだけど。


「あわわわ、魔法で威嚇しますか?」


「ちょっと見た目アレでも領民よ。まずは――」


「下がれ!」


 その声と同時に後ろから男が現れた。


 彼が手を前に出して制止する。


 ついでに肩に手を回して私を守るように立ち回る。


「あ、ルル君!」


 ルルだ。


 彼がすぐ近くに、密着するほど近くに!


 あわわわわ、近い近い近い。


 密着してる。けっこう密着してる!!


 ヤバい、心臓が、心臓がバクバクなってきた。


「ルル。私を誰だと思っているの、守る必要はありません」


「ん……わかりました」


 はーこれ以上は心臓がもたない。


 チラッとゴロツキ風の領民たちはすでに立ち止まってこちらを待っていた。


 そういえば領民は騎士のいうことはよく聞いていると書いてあった。


 下がれと言われればちゃんと下がって待ってくれるようだ。


「それで誰か代表者はいるの?」


「ん……村長がいる。とりあえず応接間に案内しようか?」


「ええおねがい」


 私はルルの案内で屋敷の奥に向かう。


「ねぇルル君。なんですぐ来なかったの」とササラが小声で聞いてきた。


「ん……別の来客の対応してた」


「別の来客?」


「……そう。商業都市カティアから商人が来ている」


 カティア、もう来たというの?


 予定よりもずいぶん早い。


 その辺の話を彼とも共有しとかないといけない。


 商人の話に少し警戒しながら私は村長と会談した。


 村長はこの男爵領について語ってくれた。


 例えばこの領地の開拓と挫折の歴史をかいつまんで教えてもらった。


 途中から鉄腕ダンディが民を虐げる悪徳領主に決闘を挑み救った英雄譚に代わっていた。


 ちなみに鉄腕が最初にしたことは村を捨てさせて残った住民を砦に住まわせたという。


 それからは礼拝堂に皆で身を寄せて暮らすようになったという。


 他には例の赤い土を顔料として売れないか商人に交渉したり、陶芸家に材料として使えないか試してもらったりしたらしい。


 もっともすべて失敗したという。


 というのも昔から調べたり赤土を使用したすべての人が数年以内に謎の病気にかかり亡くなったというのだ。


 そのためレッドフィールは呪われた土地だという者もいる。


 土地に魔力を感じなかったので魔法が関係しているわけではなさそう。


 あとは呪いか……。


 魔法学園では”呪い”を魔法で観測できたことがないので偶然の別の言い方だという教授が大勢を占めている。


 だとしてもここに住む彼らも赤い土を恐れているのは話していてわかる。


 村長には今後も砦に住んで領民たちをまとめるようにお願いした。


 そして久しぶりに3人だけとなり今までの経緯を共有した。


「ん……カティアの商人が動いたんだ」


「そうなの。だからルルも気を付けてね」


 それからさっきの話の続きをする。


「呪いとか怖いですよね」ササラが身震いする。


「これじゃあ並みの男爵では持て余すのも納得ね」


「ん……でも住人は無事だし土に気を付ければ大丈夫」


「呪いについて考えが甘いですよルル君」


「ササラは呪いについて何か知ってるの?」


「ええ、呪いと言えばやはり恋の呪いです!」


「は?」


「いいですか。いま流行りの恋愛シチュは呪いによって好きでもない人を好きになってしまう呪トラレです!」


「なにその闇の深いシチュ」


「よく考えてください。人を呪殺できる呪いの土があるなら人を好きにさせるなんて低難易度の呪いお茶の子さいさいですヨ!」


「またまた――」「ん……ありえるかも」


 あれ、ルル君?


 その後はどんな呪いがあり得るのかという呪い談義が始まった。


 話がそれて明後日の方向に向かうのはいつものこと。


 だけどずっとそれを続けるほど時間もない。


 ――パン!


「ストップ。まず呪いについてはいったん脇に置きましょう」


「はーい」「ん……」


「さて今まで調べたり聞いた話はあくまでこの土地の価値を”見つけられなかった人”の話。それを鵜呑みにすれば結論が一緒になるのは当たり前です」


「そりゃあそうですけど~~」


「ともかく、まず呪われた土地を調べた記録はある?」


 ルルが肯定する。


「ん……ずいぶん昔に魔法学園に調査を依頼したみたい。その記録は屋敷の書庫にあった」


「それで?」


「……魔法の影響は無し」


「じゃあじゃあ塔の協会は! 呪いと言ったら教会でしょ!」


「ん……司祭が土を調べている間に謎の病で死亡……廃れた」


「……やっぱ呪われてませんかこの土地?」


「……そうね」


 そういえば嬉々として土を掘り返してるあの2人は大丈夫かしら?


 どうしたものかと思考を巡らしていると、一点思い出したことがある。


「そういえば商人が来てると言ってたよね」


「ん……数日滞在するから時間がある時に会談したいと言ってた。今は来賓用の別館の部屋に泊まってる」


「要件は聞いている?」


「新領主に商品紹介をしたいって……あとは領民に必要なものがあれば行商人を連れてくるとも言ってた」


 なんにしても会ってみないと本当の狙いが何か分からない。なら。


「そう、それじゃあすぐにでも会いましょう」


 私はその商人と会うことにした。


 商業都市から来たのなら実情を聞けるまたとないチャンスでもある。


「ただし、相手が巧みな話術でこちらを陥れる可能性もあるので十分注意しましょう」


「「はい」」




 応接間に現れた商人は丸眼鏡をかけた青年だった。


「初めましてシルヴィア様。わたくし商業都市カティアから参りましたグラハム商会の副代表、ベン・グラハムと言います」


 普通なら笑顔の絶えない好青年に見える。年は近い気がする。


 あともう一人使用人の小柄の女性が隣にいる。


「私がイシルメギナ家マティウス・イシルメギナの娘、レッドフィール男爵領の暫定領主シルヴィアです」


 私たち三人は疑いの目をグラハムにむける。


 彼はヘラヘラしながら頭をかく。


「いや~~そんな疑いの目で見られても困っちゃうな~~」


「若旦那のその態度が怪しさの原因っ! もっとしっかりしないとダメッ!」


「いや~レアちゃんがマジメすぎるんだよ~」


 レアと呼ばれる元気な女性がダメだしするが、それをグラハムは笑いながらたしなめる。


 一瞬でやり手の商人……ではないと判断できた。


「それでグラハム商会の副代表がこのような何もない領地にわざわざ訪れた理由を聞かせてもらえますか?」


「いや~グラハム商会の副代表なんて肩書ですけどカティアの序列は三位のしがない商会なんですよ。まあそこは序列一位と二位がほぼ独占状態で大抵の商人はどちらかの商会の傘下に入っている状態なんですよね。そのため独立系の我がグラハム商会が繰り上がりで三位ってだけなんですよね。あははははは」


「ぜんっぜん笑い事じゃないっ!」


 2人が漫才をしながら説明をしてくれたおかげで何となく立ち位置が分かった。


「あ、それでここに来たのはそちらの執事には話したと思いますが商品の紹介と、あとは領民に必要な物資を取り扱う行商人を派遣することができますね」


「そうでしたか。商品は後で見せてもらうとして、この領地は見ての通り貧しいので何が必要なのか後で村長を交えて打ち合わせをしましょう」


「はい、それはもちろん。よろしくお願いします」


「それで商品紹介の前に一つ聞いておきたいのですが、仮にこの土地がどうしても欲しいという商人がいた場合、誰か心当たりはありますか?」


「ん~~、立地を考えると交易拠点とかなら利益になりそうだし、それならたぶん序列一位のネチネチッチ商会の頭取ドン・ネチネチッチなら土地を欲しがると思いますよ」


「あのガマガエルのオヤジかー」


 ガマガエル……、とてもふくよかな人なんだろうな。


「なにせネチネチッチ商会はカティアの自由都市化に最も貢献、もとい商業ギルド内最大の金貸し業をしてますから――」


 グラハムは言葉の途中でハッと気がついた。


「ああ、先ほどから警戒してるのはそういうことですか。いや~残念ながら我がグラハム商会は土地を開発するほどの資金提供なんて無理ですね。むしろネチネチッチさんが狙ってるならあそこになにか言われる前に帰っちゃおうかな」


「ちょっと若旦那! せめて商談ぐらいしろっ!」


「お嬢様……ぼそ」


「ないかしら?」


「この2人を帰してはいけません。ここで逃したらほんとにカティアの息のかかった商人しか来なくなります……ぼそ」


「なるほど」


 ルルのいうことは的を得ている。


 話が本当ならカティア方面からくる商人はほぼ全員がその二大商会の傘下になる。


 他には南部か中央の商人になるけど、どちらも保守色が強い。


 私の後ろ盾になって婚約破棄を手伝って、と言っても賛同してくれない。


 それならば。


「わざわざここまで来たのですから商談というより話だけでもしませんか?」


「若旦那!」レアがチャンス到来と言わんばかりにせかす。


「いや~気を使わせてしまいましたね。それでしたらお言葉に甘えて、私どもが取扱う珠玉の逸品である”魔道具”を紹介させていただきます」


 そう言ってグラハム商会のプレゼンが始まった。






 現在開示可能な情報

 ・カティアの力関係

 商業都市カティアは三大商会がしのぎを削っている。その実情は第一位のネチネチッチ商会51%、第二位スリーブラザー商会40%、グラハム商会8%、その他個人商会1%とほぼ二強体制になる。ただし第一位と二位は他の商会を吸収合併してきたため中核商会はどちらも20%程度の規模になる。


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