第一話:転校生がやってきた。
2008年夏
僕はどこにでもいるような普通の高校生だ。
毎日ダラダラ高校生活を過ごし、気がついたら1年が過ぎていた。
僕は今高校2年…
このまま何もないまま高校が終わるのかなぁ…
運命の出会いとか…
あったらいいなぁ…!!
ジリリリリリッ…!!
「うわっ…!!」
大きな目覚ましの音で目が覚める。
「妄想混じりの変な夢だったなぁ…」
俺の名前は芹沢空。
夕凪高校に通う 17歳。
バスケ部に所属する普通の男。
特別モテた記憶もなく、人並みの人生を送ってる。
「空、ご飯覚めるよー」
いつもの母の声。
「髪セットしてから行く!!」
空は軽く髪をセットし、居間に向かった。
朝食を食べ学校に向かった。
キーンコーンカーンコーン
「セーフ…!!
余裕こいてゆっくり歩いてたら遅れるところだった。」
空はぐてっと机に倒れ込む。
「珍しく遅かったな?」
男が一人空の前の席に座る。
こいつは中村響。
空の親友でバスケのライバル。
ちなみに美月というカワイイ彼女がいる勝ち組。
「おう響…余裕っていいことないな!!」
「さぁな…。
それより夕凪高校にある噂が流れてるぞ。」
「どんな噂…?」
空が聞くと、響は小声で言った。
「なんでも二日後に、転校生が来るらしい。しかも超カワイイ女の子らしいぞ。」
響はワクワクしながら話している。
「そんなワクワクしてたら美月に殺されるぞ…」
空は軽く響に注意した。
それを聞いて響は普通に言った。
「転校生が来るんだから、ワクワクして当然だろ?」
「…まぁ、そうだな…」
転校生が来るのか。
どんな子かなぁ…
俺もワクワクしてきた。
その時はまだ、どんな子か分からず、空は期待に胸を膨らませるのだった。
キーンコーンカーンコーン
授業が終わり放課後…
珍しく部活が休みだったので、空は一人寄り道をして帰ることにした。
コンビニでアイスを買った。余りに暑かったので二つも買ってしまう。
「夕凪公園でも行って、のんびり食べよっかな…」
学校の裏にある夕凪公園は夕凪の町を一望できるスポットである。
「ふぅ…、疲れた。」
公園に着いたが誰もいない。
夕方だから仕方ないだろう。
子供達はお家に帰る時間だ。
空はベンチに座ってアイスを食べて涼んでいた。
シャリッ…
「やっぱシャーベット最高!!」
一人で盛り上がってる時、公園の丘の方に人影が見えた。
誰かいるのかな?
疑問に思った空は丘の方に歩いて行った。
夕日に照らされた夕凪町、その美しい景色を悲しそうに見つめる女性の姿がそこにあった。
悲しそうな彼女の横顔、しかしその横顔はどこか神秘的で…、どこか魅力的で…。
空はしばらくその姿に見とれてしまった。
すると、彼女の目からキラリと涙がこぼれ落ちた。
もしかして…泣いてるのか?
心配になった空は、思い切って声をかけることにした。
「あの……どうかしたの?」
彼女から返事はない。
「ねぇ…大丈夫?」
やはり返事はない。
ピトッ!!
空はその子の頬に持っていたアイスを付けた。
「っ…!?冷たい!!」
彼女はこっちを振り向いた。
目に涙を溜めていて、悲しそうな顔をしている。
「な、なにすんの!?」
彼女は涙を拭いて、空の顔を見る。
「あっごめん…
何回呼んでも返事がなかったから…」
「考え事していたの。
それなのに、いきなりアイスを頬につけるなんて考えられないわね!!」
邪魔されたのがそんなに嫌だったのか、彼女の言い方には怒りが込められていた。
「でも、返事しなかったのはそっちだし、一方的に俺が悪いわけじゃないと思うけど…」
言い訳すると、彼女は空を少し睨んだ。
いや、睨んだように見えた。
「たとえそうだとしても、見ず知らずの一人の女性に軽々しく話しかけるなんて少し図々しい…!!」
「違うって…!!
君が悲しい顔で泣いてたから、なんかほっとけなくて…」
「へぇ…。
私が泣いていたことまで知っていながら、
そっとしておこうという、優しい心のゆとりはなかったのね…
もしかして、そんな弱ったカワイイ女性を狙う新手のストーカー!?」
(自分でカワイイと言ったぞ!!)
※空の心の声
「なんで俺がストーカー何だよ!!
17歳でストーカーなんて、そんな根暗な奴に見えるか?」
「見える!!」
(見えてるんだ……。)
※もう一度言っとくが空の心の声
「とにかく俺はストーカーじゃない。
もう話しかけないからそれだけはわかってくれ。」
「…わかったわよ。
もう話しかけないでね!!」
彼女も渋々納得してくれたようだ。
「はいはい、じゃサヨナラ…」
空は帰ろうと後ろを向く。
「あっ…!!
ちょっと待って。」
彼女が呼び止める。
(話しかけるなと言っておきながら、自分から話しかけてきた!!)
「どうかした?」
「叫んだら暑くなってきたから、そのアイスちょうだい。」
(あれだけ問題になったアイスをここで欲しがるか!!)
「わかった、やるよ。
はい、どーぞ。」
空はアイスを渡して立ち去る。
「ありがと!!ストーカーさん。」
(誤解は解けていなかった!?)
空はくたくたで家に帰って来た。
今日はマジで疲れた…
悲しそうかと思ったら、想像を超える元気さだった。
正直もぅ会いたくない。
でも、あの涙は……。
翌日…
キーンコーンカーンコーン
「ふぅ…今日は余裕で間に合った。」
空は席に座る。
「よう空…
ビックニュースだ!!」
響が大声で言った。
「なんと、転校生が今日来るらしい。先輩の話だとものすごくカワイイらしいぞ。
ショートカットの明るい感じの子らしい。」
響の発言を聞いた瞬間、空はすごい嫌な予感がした。
「ショートカット…」
「何だ?やっぱり興味あんのか?」
響がニヤつく。
「少し今は、ショートカット恐怖症なんだ…!!」
「なんだそれ?」
響は?マークが出ている。
ガラッ!!
先生が入って来た。
実に男らしい我らの担任。
「まずおはよう!!
んで、今日は転校生がいる。
うちのクラスになったから仲良くしろよ!!」
うちのクラスの発言に、クラスが湧く。
「んじゃ本人に自己紹介してもらいましょう?
よし、入っていいぞ。」
ガラッ!!
入って来た女の子は、間違いなく昨日の彼女だった。
彼女と目が合った瞬間、二人は
「あ〜!!」と指を差し合った。
「わがまま女!?」
「ストーカー男!?」
嫌な予感が的中した瞬間だった。
「何だ?おまえら知り合いか?」
担任が不思議そうに尋ねる。
「知りませんこんな奴」
「知りませんこんな人」
二人は声を揃えて言う。
「そ、そうか…
じゃまず自己紹介だ。」
彼女が前に立った。
「二見かえで(フタミカエデ)です。よろしくお願いします。」
彼女は頭を下げる。
パチパチパチ…
クラスから拍手が聞こえる。
なんとなく、男子の拍手が多い。
空は拍手をしなかった。
「じゃ休み時間にでもいろいろ聞いてくれ。」
担任が言った。
「んで、二見の席は…空の隣!!」
「えぇっ!!」
空は驚きのあまり立ち上がった。
その様子を見て、自分の席が昨日の男の隣だと悟った二見もびっくりする。
「あの…先生、私も嫌です。」
二見が言った。
「“も”ってなんだよ!
俺まだ何も言ってねぇぞ。」
空がツッコミを入れた。
「なんか仲悪いから強制的に隣にする。
仲良く…な!!」
担任がにやっと笑う。
(ドS発動した。)
渋々二見は空の隣に座る。
「よろしく、ストーカーさん。」
(性格悪すぎ…)
休み時間、女子や数名の男子に囲まれる二見。
それとは別の場所で、空も男子に囲まれていた。
「なんでおまえ、彼女と知り合いなんだ!!
しかも席も隣だしよ…」
「俺は全然うれしくない…」
「そんなのどうでもいい。あんなにカワイイし、明るい、はっきりいって彼女はパーフェクトなんだ。
すでに先輩も動いてるそうだ。
あんまり仲良い姿見せてると…死ぬぞ!!」
(心配してんの?脅迫してんの?)
「とにかく、俺らが言いたいことは…。」
空はゴクリと息をのむ。
「羨ましいってことだ。」
(それだけ…!?)
馬鹿どもと話を終えて、
特に仲が良くなることもなく、授業は終わった。
「あーやっと終わった。
今日は特別長かった…」
空は疲れた様子でかばんに教科書を入れる。
二見はさっさとどっかに行ってしまった。
まぁ関係ないけど…
「空、部活行くぞ!!」
響が呼ぶ。
「今行く。」
部活も終わり、一人家に帰る。
「ただいまー」
靴を脱いで居間を通ると母さんが呼び止めた。
「ちょっと隣の家に父さん呼びに行ってきて。」
「なんで隣の家?」
「父さんの昔からの親友が隣の家に帰って来たから、手伝ってんの!!
早くいってらっしゃい。」
再び靴を履いて玄関を出る。
ピンポン!!
隣の家のベルを鳴らす。
「はーい。」
誰かが走ってくる音が聞こえる。
なんか嫌な予感…
ガチャ!!
中から出てきたのは二見かえでだった。
「えぇっ!!?」
二人は驚きのあまり一歩後退する。
「なんでおまえがいるんだよ!!」
「それこっちのセリフだし…
なんでここにいて、私の家に来んのよ!?」
「隣…俺ん家。」
実に残念そうに、空は言った。
「もしかして、今家にいるお父さんの親友って…」
「俺の父さん…」
「………はぁ…」
呆れるあまり二見はため息をついた。
その気持ちは痛いほどわかる。
親友なのだから、度々家族ぐるみで会うだろう。
ならば当然、こいつとも会うであろうからだ。
「マジ最悪…
もう家に来ないでよ。」
(父さんに言ってくれ…)
「言っとくけど、私あんたのこと大っ嫌いだから…」
「知ってる…。」
「じゃあ伝えとくから後帰っていいよ。
ってか帰って!!」
(ひどい嫌われようだ…)
ガチャ!!
勝手にドアを閉められた。
「はぁ…」
このこと、クラスの奴らに言ったらホントに死ぬかもしれないな…
空は肩を落として帰った。
これが俺の生活が変わり始めた最初の日だった。
これからどうなってしまうんだろう…
そんな先のことを心配する前に、明日生きていられるのか不安に感じた空だった。