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序章〈十三年前〉
その夜も雨が降っていた。
暗闇に、しとしとと降る雨の音が、異様なほどに、私の耳に入ってくる。
私は真っ暗な小さい戸棚の中で、嵐のように荒れ狂う心臓の音と、その躍動に合わせて漏れ出す息を、必死に抑えていた。
出来るだけ小さく、出来るだけ静かに体を丸めながら、呼吸の音が聞こえないように、手が痺れるくらい全力で、鼻と口を塞いでいた。
しとしとという雨音が、ざーざーという音に変わったようだ。
隠れた戸棚の、ほんの少しだけ開いた隙間から覗いてみると、真っ黒い人影が、うちの中を物色しているのが見えた。
この場所からは見えないけれど、その人影の足元には両親が倒れている事を、私は知っている。二人が殺られる瞬間を、この戸棚から見ていたのだから。
雨のざーざー音が強くなった。
今の私には、ただただ助けを待つ事しか出来ない。
ふと、黒い人影の懐から、何かキラリと輝く物が落下するのが見えた。だが、人影はそれに気づく事も無く、私の視界の外へ出て行ってしまった。
また、雨の音が強くなった。