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明滅少女と非行少年  作者: 戸賀崎幸
第一章「ありふれた世界の終わり」
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瞬きの目覚め



 翌日は目覚ましの鳴る時間より前に起き、機械的に登校の準備を済ませて時間通りに家を出た。睡眠時間は十分に取れているにも関わらず、昨晩は明け方前に一度目覚めてしまったがために半端な二度寝となってしまい、強烈な眠気に襲われていた。

 そういう時ほど目覚ましのアラームを聞きたくないもので、今朝も相当の誘惑が押し寄せたが先んじて設定を切ることに成功した次第だ。


 自転車で20分ほどの通学路には、上下セットの坂道と踏切がしっかり完備されていてかったるいことこの上ない。特にラッシュ時と重なる踏切は、遅刻ペースで家を出た朝の大会レコードばりの走りを無に帰す足止めを用意している場合があり、手軽に生きづらさを実感できる。

 踏切を飛び越えていけたらどんなにいいかと妄想するが、その度に周りを見回し、人目の多さから思いとどまってきた。


 そんな風にして日々できもしないことを考えながらペダルを漕ぎ、校門を通過して駐輪場へと滑り込んでいく。

 登校時間がギリギリな人間ほど自転車を停める場所は決まっていない。これはルーズとかそういう話以前に、駐輪場のキャパが割とカツカツなので登校した時には空いてる場所を見つけてねじ込むしか無いからである。


 ギリギリ派の幸史郎は例によって今朝も駐輪場を半周し、適当なスペースを見つけて自転車を降りた。


 廊下は、道路に面した学校の周辺に負けず劣らずの騒がしさだった。始業前の談笑、学生向けに朝方に配信するストリーマーの動画を大音量で視聴する女子グループ。


 大人になっても仕事の前とはこんな感じなのだろうか。


 またしても下らない妄想で頭を満たす幸史郎であった。


 一番奥の教室に辿り着き、塗装が剥がれてツルツルになった取手を掴んで扉をあける。昨今の感染予防の影響とかでここ最近さらに磨きがかかったのではないか。取手選手の来年度に期待が高まる。


 そんな感じで終始取り留めのない脳内一人話をしながら、ようやく幸史郎は自らの席についた。窓際の一番後ろというその位置は、ここに至るまで無言で(ぼっちな)辿り着いた彼のために最適化された特等席のようなものである。当然クラスメートとの挨拶も互いにない。


 腰を落ち着かせられたことで早速睡魔が襲ってきた。しかし障害はない。一限の現国の倉木は教科書解説botみたいな奴なので多分目が合うことすらないだろう。元々はこちらは目をつぶってはいるが。


 そういった感じで居眠りの指差し確認を終え、入眠シークエンスに突入したところで、隣の席の椅子を引く音が耳の中で反響した。


 ……。


 知覚した刹那、幸史郎の管制塔は(意識の)発射準備にストップをかける。そして出来うる限りの自然さを装って双眸を開き、視線を隣の席へと向けた。


「……」


 視線の先のクラスメート瞬木菖蒲(またたきあやめ)は、脱ぎ捨てられて丸まっただらしない他人の靴下でも見るかのようなキツい視線を幸史郎に送っていた。もはや頭の中まで見透かされている可能性を考慮するレベルである。


 流石の幸史郎も彼女の蛇睨を受けてそのままスヤれるわけもなく、ちっぽけな自尊心も相まって軽く咳払いをした後、カバンから教科書とノートを取り出した。何も言わずに睨まれるものほど強烈な目覚ましはないので、怪我の功名といった感じで眠気は完全に吹っ飛んでいた。


 幸史郎は一応心の中で彼女に感謝した。恐らく一生現実で言うことはないだろうけど。

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