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明滅少女と非行少年  作者: 戸賀崎幸
第一章「ありふれた世界の終わり」
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夜は更けゆく


 秋の夜長。風情のある言葉だ。

 しかしそれが月曜日の夜長だったら話は別だ。まだまだ学校も仕事も余力十分な状態で今週という敷かれたレール上に君臨している。

 あいつらが元気なうちは我々人間は粛々とやり過ごすしかない。張り合うだけ無駄。昔の人だって一句読むことを躊躇っていたに違いない。いつから平日の概念があるのかは知らないが。


 そんなことを考えながら、月曜日の秋の夜長(つまらない時間)を自室の窓際で怠惰に過ごす少年がいた。高校三年生への進級はまだ少し先という9月の下旬。そんな微妙な、しかし貴重であるモラトリアム期を無駄に浪費しているただの高校生。名を未海幸史郎(みかいこうしろう)という。


 適当に済ませた宿題を入れたクリアファイルをしまい、寝るまで何をしよかと考えていたのが8時頃。いつものように窓から外へ出かけようとしたが風が強そうだったのでやめ、手っ取り早い漫画をスマホで読み漁るという行為に埋没し、気づけば時刻は10時を回っていた。


 読み始めた漫画はイマイチハマれなかった。絵のタッチは好みだし戦闘描写には少し引き込まれるところがあったが、誰も彼もが主人公に好意を抱いていて興ざめしてしまったのだ。

 このような挫折は彼にとって珍しくはない。何事も理にかなっていなければ気が済まないというわけではないが、あまり友人のいない幸史郎は人との距離感に対して少し強めの警戒心を持っている。簡単に出会って、簡単に連れ添う。現実でもあり得るそんな経験を、彼は生まれてからこの方経験した記憶がないのである。


 はぁ、と世界の片隅で一人嘆息し、残りのオフの時間を適当な音楽を垂れ流して浪費することにした。

 机の端に鎮座するマイクに一瞬目をやったが、今日はそんな気分じゃない。

 今や家にいながら何でもできるというのに、気がつけばひと月なんてあっという間に過ぎてしまう。ロクな思い出も残さずに。

 幸史郎は若くしてそうした厭世的な人生観を持っていた。非現実に没頭すらできず、大いなる感動や興奮にも高校に上がってからは出会えていない。スマホに入っている音楽も中学以来まともに増えていないのが良い証拠だ。


 「面倒い」という気持ちは坂を転げ落ちる雪玉のようで、一度動き出すと際限なく肥大して、それに反比例するかのように体はどんどん動かなくなっていく。


 変調のない心持ちの中、再度なぞるようにして窓とマイクに視線を這わせる。幸史郎に残った数少ない動き出すためのファクター。

 しかし結局、また小さく嘆息して机の上で俯いてしまう。


 何者でもない幸史郎の夜は、こうして無味乾燥な舌触りのまま更けていき、そのまま滑り落ちるようにして意識も消失した。



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