3,友達
第三話です。楽しんでいただけたら幸いです。
放課後、一人部屋で本を読む。
空っぽの心を少しだけの間埋められるような気がして、昔から好きだ。
「お嬢様、お客様がいらっしゃっております」
「誰?」
「癒漓さまというそうです。部屋までお通ししましょうか?」
え__________
今、お父様もお母様いない。
「あの」時のようにはならないだろう。
しかし、なぜ来たのだろう。大体からあの「噂」が流れているというのに。
「とりあえず、廊下の突き当たりの和室に通して」
何故か、そう出ていた。
入れない方が私にも癒漓にも良かったのに。
言ってしまったものは仕方ない。
廊下の突き当たりの和室に向かう。
しばらくしてから孝が入ってくる。顔はやはり、見れなかった。
紅葉が部屋を出ていく。恐らくお茶でも用意するのだろう。
「こんにちは・・・」
明らかに緊張しているのが分かった。
「家、すっごく広いね。高そうな壺とかあってドキドキしたよ・・・」
それからは癒漓の一方的なトークだった。私が話せなかっただけだが。
「________それでね、檸檬がね、穴に落っこちゃって・・・」
「あの、さ」
「ん?」
「あのさ、迷惑だから帰ってくれる?無理に来なくていいよ。ホントは友達になってお金とかが欲しいんじゃないの?」
そういう事にしておきたかった。そうやって嫌われて逃げた方がいい気がした。
ズルいと思う。でも、もう疲れた。いちいち仲直りなんてめんどかった。大体から朝話しかけてくるのも、明るい性格も嫌いだった__________いや、そういう事にしておきたかった。
「_______がうよ・・・違うよ・・・!私は寧音と仲直りしたくて来たんだよ・・・!!ごめんねって言いたくて来たんだよ・・・!!あわよくば、友達になれればなあ・・・とか考えて・・・」
「・・・・っ!!」
「あ________、ごっ、ごめん。迷惑だよね、帰るよ」
涙混じりの声____________。
癒漓が立ち上がる。
「じゃ、じゃあね。私、もう話しかけないから。ごめんね」
言えない。口が動かない。手が震える。
意気地無し、意気地無しっ・・・!
動いて、お願い。もう後悔何てしたくない。帰ってしまう、動け、動け・・・
「________めん、ごめん」
小さな声だった。
凄く小さくて、でも伝わった気がした。
「え__________?」
「ごめん、ごめん。私、無視してごめん。あんなこと言ってごめん」
「____________」
「ごめんじゃすまないのは分かってる。今更友達になろう、何て遅いのは分かってる」
涙が溢れた。
初めて、彼女の目をハッキリと見る。涙でボヤけてるのにハッキリとこれまでで一番ハッキリと見えた。
「遅くないよ、遅くなんかないよ・・・!!」
「でも、でも________」
ニッコリと笑う癒漓。
「なろう、なろうよ友達に」
「でも、あの事だって」
「知ってる。知ってるよ。でも、私は友達になりたいと思う。昔から憧れだったんだ。寧音はすっごく美人で成績も良くて優しそうで同じクラスになれて、しかも隣の席になったとき私は絶対に仲良くなりたいって思った」
「でも、それは昔からやってきただけで_________」
「そうかもしれない。でも私は寧音の努力の結果でもあると思うよ。私だったらすぐに逃げ出しちゃうもん」
この人は、癒漓は初めて私を________私自身を見てくれた人なのかもしれない。
紅葉も、お母様も、そして私自身も皆私の努力を当たり前と思って見ていた。
「私はそんな寧音が好きなんだよ」
その声は凄く暖かくて、優しくて
「友達になってほしかったんだよ」
その言葉は私が一番ほしかった言葉なのかもしれなかった。
「でね、私昨日の言葉の罪滅ぼしがしたいなーって」
癒漓が茶菓子を竹串でつつきながら言う。
「うん。だからー、毒を入れた犯人を探そうかなあー、って」
確かに、犯人は見つけられていない___________と、いうかたまたま混入していただけという結論が出ている。でも、少しだけ違和感があった。こ異物混入なんてこれまで聞いたことがない。
それに、少しだけ楽しそうだった。
「いいかも。__________でも、どうやって見つけるの?」
「え__________?あ、うん、それはねまあ潜入とかしてー、」
「いや、出来ないでしょ」
「じょ、冗談だって。・・・ええっと、まず何に毒がはいってるか考えなきゃね」
「うん」
「えーっと、何か分かる?」
「んー」
症状が出たのは三人だ。紅葉と私と妹の菜月旗。そこから考えると・・・。
まず、夕食等の可能性はゼロに近い。家はルールとしてお金さえ出してくれれば私達と同じ食事が食べられるようになっている。だから、私達3人しか症状が出ていないのはおかしい。それに紅葉は持参のお弁当を食べている。
他に食事と言えば___________。
おやつ、でもない。紅葉は基本的に食べないし、味見は阿善がやるであろう。
例外があるとするならばどうなのだろうか。お菓子なら例外もあるのではないのだろうか。紅葉と私、菜月旗だけが食べたもの___________。
桜餅。
桜餅なら紅葉は味見をした、と言っていた。それに菜月旗と私は基本的に同じ食事である。
桜餅ならば_________おやつならば、召し使いが食べていなかった事も頷ける。
「桜餅。四日前に食べた桜餅」
「他に候補は?」
「他にはない」
「じゃー、それとして話を進めて、「いつ」毒が入ったか、だよね」
「ん、それは多分完成したあととか作ってる途中とかじゃないかなあ」
「じゃ、次は誰が作ったかだね」
「紅葉が紅葉と阿善と作ったって言ってた」
「阿善って?」
「家の料理長」
「へー。・・・でも嘘ついてるかもだよ?」
「うん、だから阿善に誰が作ったか聞いてこようと思う」
「分かった」
「そこで待ってて」
部屋を出て調理場へ向かう。
「阿善ー?」
「はーい、なんでしょうか寧音様。夕飯ですか?今日は和牛の和風ステーキですよ。いい大根がてにはいりましてですね_________」
「違うわよ。ちょっと聞きたいことがあってね。この前の桜餅誰が作ったの?」
「あー、あれですか。桜餅は紅葉さんと菜月旗様と作りましたよ」
「菜月旗と?」
「ええ、菜月旗様が作ってるときに来たんですよ」
「分かったわ。その回りにいた人は?」
「いませんでしたね。まだ昼が終わったところでしたから」
「じゃあ」
必要な情報は大体聞き出せたかな。
「聞き出せたよー」
「そう!!で、誰って?」
「阿善と紅葉と菜月旗」
「へー。じゃ、次は動機だね」
動機、動機かあー。
紅葉はないよね。阿善はそんな会ってるわけでもないし。
菜月旗、菜月旗は___________。
あるかもしれない。
菜月旗はお母様達の愛情を受けてない気がする。
私と圧倒的に態度が違う。もちろん、跡継ぎ重視のお母様達なのだから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。お年玉や、お小遣い、服装などかけてきたお金の量が違う。
「ある、かも」
「誰!?」
そう言った癒漓の顔はキラキラ輝いていた。
赤い百合の花言葉は暖かい心だそうです