大丈夫
雨の中紅葉を私の家まで運んだ。意識はまだ戻ってなくて、息も荒い。とりあえず濡れた服や体をタオルで吹いた。時雨さんはと言うと、一度病院に行ってからまたこっちに来るらしい。
「紅葉。もう大丈夫だからね」
とりあえずベットに横にさせたはいいけど、何すればいいかな。あ、目が覚めたたときのために目は隠しておいた方が良いかな。そして私は脱衣所からタオルを持ってきた。そのタオルを顔にかけた。
んー。なんか死んでるみたいでかわいそう。目だけ隠せばいいのか。アイマスクみたいに。タオルを畳もうと一度顔から外したとき、紅葉の顔が目に入った。
「こうしてみてみると意外とかわってないんだね」
しんどそうな顔をしていても、昔の面影は残ったままだ。多分笑っていても昔のように可愛いんだろうな。早く見たいよ、笑った紅葉が。
『開放してあげてよ』
頭に言葉が響く。私は、ようやく開放されたんだよ紅葉。君のおかげで、君が今ここにいるから私は笑顔でいられるのに。中学校のとき、紅葉のいた頃のことを追憶しては喪失感にかられていた。元々人見知りだったのが、心の成長とともに肥大化していき、自分から話しかけることができなくなってしまった。紅葉は私の周りにたくさん友達がいるように思っているのかもしれないけど実際はそんなことない。わたしは孤独だった。悲しみに暮れ元気を望む。クラスでは馴染めず、中学校を通してできた友達は鮫ちゃんだけだった。結局あの子も、たまたまペアが同じになってたまたま話したってだけ。自分からは行動していない。そんな味熟者が私そのもの。だから逆なの。紅葉がいなくなったら、私は一生心を幽閉したまんま、本当の笑顔だって今いる本当の友達にも見せれなかったかもしれない。
わからないことだらけだった。紅葉が私を覚えてない理由も、なぜ紅葉の腕には傷がたくさんあるのかとか。なぜ前髪を切らないのか。たくさんの疑問の答えがこの数カ月間で淡々と解けていく。でも1つだけ、わからないことがある。紅葉に一体何があったのか。時雨さんからは「大変なことがあった」としか聞いていない。記憶がないのもぼんやりとしか聞いていなくて、私も紅葉の過去を知りたい。苦しみを分かち合い、辛さを私も理解してあげたい。そのためにはまず今の紅葉をどうにかしないと。あ、髪は乾かしといた方が良いかな。前髪だけでも。タオル掛けてるから万が一目が覚めても大丈夫だよね。私はドライヤーを持ってきて、紅葉の前髪に風を当てる。念のため風量は弱にしておく。こんなサラサラな髪羨ましいよ。私なんて毎朝寝癖直すのすごい大変なのに。ちゃんと食べているのか疑わしくなるこの細い手足。真っ白で雪みたい。昔からそうだったからあまり気にしていなかったけど改めて見てみるとそう感じる。温風で部屋が温まっていくような気がした。紅葉の髪は多いのでまだあまり乾いていない。私ならもう前髪どころか全部の髪が乾いているくらいなのに。この髪何年切らなかったらこうなるんだろう。ドライヤーの音が外の雨音と嫌悪感を打ち消してくれる。
「よし。これでおっけー」
後頭部以外を乾かし終えて、くしで前髪を降ろし目を隠す。学校の人がよく見る紅葉に戻った。もういらないだろうと思いタオルを外す。他の人からしたらただの前髪。目が隠れて、不思議な印象を醸し出すその前髪。でも今のもみじにとってこの前髪が命綱で、これ無しでは多分正気を保てない。これもまたわからないところだ。なぜ紅葉は前を素直に見れなくなってしまったのか。前髪というフィルター越しで生きる今、なぜそれが必要なのか。それもこれから知っていかないといけない。
時間経過でだいぶ後頭部も乾いたんじゃないかな。いつ目覚めるかな。てか時雨さん遅くない?何かあったのかな。
「んー…」
時折こううなされている声がする。よほど怖い夢を見ているんだろう。起こしてあげたほうがいいのかな。声に反応した私が暫く紅葉を見ているともみじの手が動いたのがわかった。
「紅葉?目覚めた?」
「苺恋ちゃん?なんで」
本の2週間もしないうちに同じような場面を2度も見ることになるとは。
「家からでていく姿が見えて、探してたら紅葉が倒れてるのを見つけたから、運んてきたの」
「帰らなきゃ」
勢いよくベッドから降りてあるきだす紅葉。思いもよらない行動に私はびっくりした。
「ちょっと待ってよ」
玄関まで行ったところでようやく追い付き、紅葉の手を引く。
「離して!」
「離さない!」
反射的に大きな声が出て、紅葉の体も驚いたのがわかる。ここで止めないとまた倒れちゃうかもしれない。
「なんで。帰らないと行けないもん!離して!」
どうしてこうもうまく行かないことだらけなんだろう。でも、どのみち今止めないとまた大変なことになる。
「なんで、私から離れようとするの?」
涙が出始めて体の力が抜ける。紅葉を止めていた腕も力が抜け紅葉はいつでも逃げれる状態になってしまった。
時雨さんと話していたのを思い出す。紅葉は私を開放してほしいだとかあっちに住みたくないだとか色々言っていた。私にはわからない。なんで避けられているのか。避ける必要なんて1つもないのに。弁明しなきゃ。じゃないとまた…。
「だって、これ以上苺恋ちゃんに迷惑をかけるわけには…」
「違う!」
本能で物を言う。もう私は考えることをやめていた。
「私は平気だよ。紅葉と入れて嬉しい。だから、行かないで」
「でも、他の友達が…」
「いないよ」
「…え?」
「私、元々友達少ないの。中学の時から私人見知りがすごくて、数える程度しか友達もいなかったんだ。鮫ちゃんとか零とか。ほんとに数える程度しかいなくて、だからもし紅葉がそこを気にしてるのなら、大丈夫だから」
『もし』じゃないっていうのも本当は知っている。
「紅葉はもう、ひとりじゃないんだよ。紅葉を心配する人がいるって、そろそろ気づいてよ。時雨さんも紅葉を気にかけてる。過去も未来も辛いかもしれないけど、今だけは明るくいるために生きようよ。自分が誰かに元気なんて挙げれないって思ってるかもしれないけど、少なくとも私は今まで、紅葉と一緒だと元気が出てたよ。今だってそうだよ。ねぇ紅葉、私と一緒にいてよ」




