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朧月  作者: りんご
24/25

罪滅ぼし

「紅葉!」

 大きな声ともに時雨さんが玄関から出てきた。紅葉が私を見たあと逃げるように反対方向に走っていった。

「みっちゃん!紅葉追いかけて。俺もすぐ行く」

「はい!」

 素足だったよね。追いつけるかな。でも私ブーツだ。仕方ないけど行くしかないよね。倒れるかもしれないし。

 えっと…どっちに行った?家を出て右に走って行って、その後どっちに…。

「みっちゃん!紅葉は」

「見失いました。ごめんなさい」

 私は首を横に振って軽く頭を下げた。

「謝んないで。ごめんねせっかく荷物運び用荷物手伝ってもらいに来てくれたのに」

「いえいえ。全然大丈夫です。それより紅葉を」

「聞いてたでしょ」

 急ぎ足で歩く私を声が止める。私はぎくりと肩が動いた気がする。

「すみません」

 家に来たときなんだか声がするのが聞こえてた。最初はよく聞こえなかったけど、途中からははっきり聞こえてたし、はっきり覚えてる。

「でも黙っててくれたのは嬉しかったです」

「プライバシーだしね。それに自分で言いたいでしょ」

「はい。私が紅葉に対して()()()()()()()()()()()()()()

 小学生の頃の罪滅ぼしを。高校生になった今に。正直今の心はわからないけど昔は確実に()()()()()()()()。その旨を伝えてしまって、私達は一時的に交際関係にあった。でもそんなの続くわけなかった。紅葉の心を知った今ならわかる。その件以来紅葉との関係は途絶え、中学になっても遊ぼうなんて言えなかった。連絡先も中学も違う人だったし無謀ではあった。だから最初に話しかけたとき

『どちら様ですか?』

 すごくショックだったけど、私ももしかしたら前みたいにって思ってた。自業自得だって私は言い聞かせてた。悲しかった。私が自分で蒔いた種だもの。でもちゃんとガッコウに通えるようになったんだって嬉しくもなった。

 謝ろうとした帰り道、一歩踏み出したけどやっぱり駄目だった。自分で紅葉には話しかけちゃいけないってブレーキ踏んでいた。そのときに時雨さんを見つけてなんで一緒にいるのって気になった。その後に勇気を持って話しかけてみて訳を知った。

『紅葉は今過去の記憶がなくなってるんだ』

 すごく驚いた。でももしかして…とも思った。

―付き合ってたことも忘れてる…?って悪いことだとわかってるけどある意味チャンスだと思った。あのときの罪滅ぼしができるかもって。だから今私は紅葉に尽くしてる。あと紅葉がしている勘違いを解いてあげたい。()()()()()()()()()()。多くて薄いものより、少なくてもより濃い関係で痛い。本音をぶつけ合える、そんな関係でいたいから、私が普段関わっている人はただのクラスメイトくらいにしか思ってない。

「ちょっとまずいかも」

「え、何がですか」

「紅葉、倒れてるかも」

「え?」

「このあめで傘もさしてないから、多分髪が…」

『やめて!』

 初めてされた拒絶。今でも鮮明に残っている。あんな紅葉始めてみた。よっぽど怖いんだなってわかった。だから多分今頃苦しんでる。もしかしたら時雨さんの言う通り…。早く探さないと!

「私こっち探してきます!」

「え?ひとりで?」

「平気です。それより今は紅葉です」

 私は引き返し、反対方向を探しに走る。紅葉の体力のなさは昔から変わってないはず。だからそう遠くに行けない。だからあっちを探していないってことはこっちの道にいるはず。

 お願い、無事でいて。紅葉が私のことをどう思ってるのかは知らないけど、少なくとも私は誰よりも大事にしたいと思ってる。わかってる。友達に順位をつけちゃいけないって。それでも私は過去があるからこそ紅葉を大事にしたい。

『苺恋ちゃんの自由を奪ってるの』

 そんなことない。

『苺恋ちゃんを開放してあげて』

 もう開放されてる。紅葉、私は君の治療に関われてほんとに嬉しい。だから戻ってきて。誰もあなたを拒絶しない。嬉しいよ。昔の呼び名で呼んでくれてること。求める立場じゃないのにね。ごめんね。

 この雨なら誰も紅葉に気づいてないかもしれない。倒れてても誰も助けてあげれないかもしれない。やっぱり私達が見つけなきゃ。

 さっきよりも雨足は強くなり、視界にも大分モヤがかかり始めた。急がないとやばい。時雨さんの方で見つかったかな。電話は…来てない。やっぱりこっちにいるのかな。

「紅葉?」

 遠く、何かのシルエットが見える。 

「にゃー」

 違う。黒猫だ。もう、こんな雨に塗れてたら猫も風引くよ。

「もう、紛らわしいんだから」

 どうやら野良猫のようだ。でも餌はあるようでふっくらとしている。これなら大丈夫そう。

「元気でね」

 黒猫が走っていく。

 そんなことしてる場合じゃなかった。紅葉探さないと。あれ…?あそこに倒れてるのって…。

「紅葉!」

 黒猫の導く先だった。走り抜けるその先に紅葉はいた。黒猫が教えてくれたんだ。

 やっぱり倒れてる…。

「紅葉!紅葉!」

 体を揺する。

「紅葉…」

 時雨さんの言う通り前髪は完全に働きを失っている。それにしても小学生以来かも。ちゃんと紅葉の顔見るの。こんな顔だったっけな。苦しそうな顔。服もびしょびしょだし。風邪引いちゃうよ。

「大丈夫?ねぇ紅葉?」

 あ、でも今起こしたら前髪が…。また怖くて倒れちゃうかもしれないよね。おんぶするしかないか…。

「よいしょ」

 え、軽。ちゃんと食べてるのかな。そう言えば、この手首って…。よっぽどつらいことあったんだね。でも大丈夫。私が絶対に守る。何があっても全力を尽くすだけ。

「あのときはごめんね、紅葉。何もしらないまま無責任なこと言って」

 なんて、聞こえてるわけないのに。ちゃんと目が覚めてから言わないとね。他にもちゃんと言わないといけないことたくさんある。まずは誤解を解くところからだね。目が覚めたらちゃんと言わせてね。




「時雨さん!紅葉いました」

 家の前に、疲れ切って座っている時雨さんがいた。

「ホントに?」

「はい。向こうの道路でも倒れてました」

 疲れが即時回復したようで飛び跳ねるように立ち上がった。

「やっぱり。あー前髪も」

 紅葉を託す。

「こんな顔だったんだ」

「初めて見るんですか?」

「だって、お風呂とか一緒に入らないし。それ以外でも絶対前髪上げなうからね。へえ、こんなかわいい顔してたんだ」

「小学生のときとあまり変わってないように感じます」

 思わず笑みが溢れる。今は苦しそうな顔してるけど、多分笑ったときはもっとかわいいんだろうな。

「とりあえず、みっちゃんの家に運ぼう」

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